約束
ブクマ、評価くださった方、ありがとうございます!!
私はミイサさんと、建設中の博物館にきていた。
「建設中と言っても、建物自体はほぼ完成しているようなものね」
「大きいですね……」
外から見ても巨大だと思ったけれど、中に入るとさらに圧倒されてしまった。まず、エントランスだけで庶民の家の数十倍はありそうな広さだ。しかも天井も高く、柱や壁には見事な彫刻が施されている。これを見るだけでも価値があるんじゃないかしらねぇ。
「すごい……。こんな場所で働けるんですね」
「そうよ」
ミイサさんは嬉しそうに頷いた。
当然、私も嬉しい。
ミスリルライラのお店だというのもあるけど、同時に、一度は失ったローズヴィメアの復活だからだ。
宣伝を始めると、常連客からの問い合わせも多くあり、ミイサさんは涙を浮かべて喜んでいた。かつての同僚達も、また一緒に働きたいと集まりつつある。
「私達の出店場所は、二階よ」
エントランスの中央には螺旋階段がある。どうらや、ここを登って二階に行けるみたい。だけど、私の足は階段の手前で止まってしまう。
「カルナー、手を貸すわ」
「すみません……、階段は、まだ怖くて」
私の手足は薬物の後遺症で思うように動かない。日常生活に支障は少ないけれど、階段を使うときは注意が必要だった。
ありがたくミイサさんの手を貸してもらい、螺旋階段をゆっくりと登っていく。
「一階の展示室では、大陸史と魔術師達の暮らしに関しての資料の展示、二階と三階は、おもに魔道具の展示をするらしいわ」
「へぇ。それは楽しみですね」
きっと、魔術師や、魔道具に興味のある人達がたくさんやってくるに違いない。
ミスリルライラの商品であればウケも良いはず。
私は売り子として店に立つ予定。治療費を返すためにも、本気で稼ぎまくろうと思う。
二階は、柔らかな陽が射し込む明るい空間になっていた。展示室に窓が無い分、とても解放的で、ベンチなどもあり寛げる仕様になっている。
「ここが私達の出店する区画よ。まだ何もないから、どんな店にするか、装飾も含めて今日は案を出し合いましょう」
「はい!」
ミイサさんと、うろうろ歩きながらアイディアを捻り出す。
展示室から出てきた人の動線を想像し、お店の正面をどこにするか決めたあと、商品の配置場所や、試着室などの位置を考えていく。実際に開店したとき困らないよう、やるべきことはたくさんある。
頭を使うのは得意じゃないけど、そこは気合いで乗り越えるしかないわねぇ。
「……まぁ、来てくださったのですね」
無我夢中で頭を捻っていると、ミイサさんが私の背後を見つめて声をあげた。
誰だろうと振り返って、どきりとする。
そこにいたのは、数日ぶりに会うレイフォルド様だった。
「カルナディア嬢も、きていたんだな」
「は、はい。色々、準備をしないといけなくて……」
胸の奥が詰まったように苦しくなる。
レイフォルド様に会えたら、たくさん言いたいことがあったはずなのに、いざとなると上手く言葉が出てこない。がっかりすぎる。
そんな私にレイフォルド様は目を細めて微笑みながら近づいてくると言った。
「……少し、二人で話をしたいんだが」
「え、」
なんの話だろうと思いながらミイサさんのほうを見ると、目線だけで「行ってきなさい」と言われた。
私は頷いて、レイフォルド様と一緒に歩きだす。
一体、どこに向かうのだろう。
歩くのが遅い私に合わせるように、レイフォルド様は歩幅を緩めてくれた。そのさり気ない優しさに、胸がいっぱいになってしまう。
今も心臓がドキドキするくらい好きなのに、もっとレイフォルド様のことが好きになってしまったらどうしよう。「恋」って怖いものなのねぇ。
「……此処なら、良いだろう」
レイフォルド様に連れてこられたのは、どうやら展示室のひとつみたい。
重厚な扉の向こうには、ガラスのショーケースが幾つも並んでいた。いずれ魔道具の展示をするのだろう。
しん、と静かな展示室で、レイフォルド様は私に向き直る。
「あの、……話って、」
「すまなかった!」
「えっ」
「きみの意志を確認しないまま、きみを条件にして店をつくることにした。勝手に進めてしまい本当にすまなかった!」
直角に腰を折るレイフォルド様の姿に、私は慌ててしまう。
「そんなっ、謝らないでください! 私は逆にお礼を言いたいと思ってたんです」
「本当か? ……嫌ではなかったか?」
「はい! またミイサさんと働けることも、ローズヴィメアが消えずに済んだことも、針を持てなくなって目の前が真っ暗になった気がしたのに、レイフォルド様が私のために考えてくださったことが、すごく、嬉しくて……」
ああ、やっと言いたいことが、全部言える。
「私……、レイフォルド様に会えて、良かったです」
真っ直ぐにレイフォルド様の瞳を見て伝えた。
……会えて良かった。こんなに優しくて、誠実なレイフォルド様を好きになれて良かった。初めての恋は素敵なものだったと自信を持って言える。
「レイフォルド様、本当にありがとうございます」
「いや……、いいんだ。わたしが勝手にしたかっただけだから」
そう言って首を振るレイフォルド様の姿に、また甘く胸が締めつけられてしまう。というか、目の前にいるだけで鼓動が早くなる。意識しすぎている自分が恥ずかしい。今は仕事に集中しないといけないのに。
「あの、話って、終わり……ですか?」
「ああ。……他にも伝えたいことがあったんだが、断られたら使い物にならなくなりそうだから、それはまた改めることにする」
「?」
「今は、開館の準備に集中しなければいけないからな」
「そうですね。私も頑張ります!」
「無理だけはしないように」
「レイフォルド様も」
これからもっと忙しくなる。
私がレイフォルド様のために出来るのは、博物館にきたお客さんに思い出に残る商品を提供して喜んでもらうことだけだ。失敗だったと言われないように精一杯頑張ろうと思う。
「カルナディア嬢……全てが片付いたら、もう一度、話がしたい」
「……はい」
「開館初日の夜、ここで待っている」
「はい。お店を閉めたら、すぐに向かいます」
まだ先のことだけど、私はレイフォルド様にいったい何を言われるんだろう……。
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