開店初日①
「いよいよ、開店だ……」
昨夜はあまりの緊張に、あまり眠れなかった。
今日に至るまで、本当に毎日が目まぐるしかった。
でも、やれることは全部やったから、あとは無事に今日を乗りきるだけ。
「大丈夫よカルナー。【マジカル・ローズヴィメア】は、きっと長く愛される店になるわ」
隣に立つミイサさんが、自信たっぷりに言った。
はい。私もそう思います!
ミイサさんの作り上げた店は、美しく、まるで物語のなかにきてしまったような、夢に溢れているから。
——マジカル・ローズヴィメア。
そう名付けられたこの店は、ミスリルライラのイメージを元にして作られた魔術愛好家向けの雑貨店。
雑貨店というだけあって品数は豊富だ。
魔術関連の書籍や、魔道具を模した日用品、文具などなど。
そのなかで一番のメインは「女魔術師・ミスリルライラ」の書籍をはじめとする関連品だ。
私がとくに注目して欲しいと思ってるのは、やはりミスリルライラのドレスだ。
ローズヴィメアの職人の技術を結集し作り上げられたドレスは、人型に着せつけ、店の入り口に配置した。
きっと、誰もが目を奪われ、ミスリルライラの世界に引き込まれるだろう。
でも、それだけじゃないのよねぇ。
開店初日限定で、さらに特別な企画を用意している。それは……。
「——お待たせいたしましたわ」
親友の声に私は振り向く。
顔や身体を覆い隠す長いヴェールを纏ったマリーは、まるで花嫁のようだ。そんなマリーの隣に立ち、エスコートしてきたのは婚約者のアルフレド様。
わあっ……さすがアルフレド様、ミスリルライラの新作ドレスがとても似合ってる!
どこからどう見ても完璧で可憐さ漂う美少女。これは無敵すぎるでしょ。
「マリー、アルフレド様、今日は一日よろしくお願いします!」
「こちらこそですわっ!」
「僕も、お役に立てるように頑張るね」
「アルフレド様は、その姿で居てくれるだけで、じゅうぶん助かります!」
ふふっ。
二人ともすごく気合いが入っている。
私も負けていられない。
——【マジカル・ローズヴィメアで会いましょう〜世界を魅了する女魔術師・ミスリルライラの作者による署名会開催!〜】
この宣伝文句はかなり効果的だったようで、マジカル・ローズヴィメアには連日のように問い合わせが殺到した。
マリーには今日一日、ミスリルライラの作者として、マジカル・ローズヴィメアの商品を購入した特典に、直筆署名をしてもらうことになっている。
おかげで博物館は開演前だというのに、熱狂的な愛読者達で、長蛇の列ができているらしい。
混乱が起きることも考えて、お店のまわりには、幾人もの警備員が配置されている。
そこら辺のことは、前もってレイフォルド様が決めていた。「アルの安全を確保しなければ!」という呟いていたのを、私は知っている。
アルフレド様には、ミスリルライラのドレスを着用してもらい、マリーのサポートと、売り子としてお店に立ってもらう予定だ。
「カルナー、ついに、わたくし達の夢が叶いましたわね」
「そうだね……マリー。本当にありがとう」
私とマリーの夢。
それは「いつか二人で一緒になにかをすること」。
ミスリルライラのドレスを作ろうと思ったのも、この夢に近づくためだった。
まさか、こんなに大きな形で叶うなんてねぇ。
マリーの紡ぐミスリルライラの世界を、これからも私は大切にしていこうと、心のなかで強く誓う。
「あっ、兄様!」
「アル……そのドレスよく似合っているぞ」
「えへへ、ありがとう〜。兄様もすごくカッコいいよ。ね、カルナディアさん?」
「……っ」
急に振られて、言葉に詰まってしまう。
確かに今日のレイフォルド様は正装していて、とても素敵だ。貴族らしく憲章がいくつも付いた上衣を身につけ、髪の毛もビシッと乱れなく後頭部に撫でつけられている。
でも……今日に限らず、レイフォルド様はいつだってカッコイイと私は思っている。それはもう胸が苦しくなるくらいに……。
「カルナディア嬢、顔が赤いようだが大丈夫か?」
「ぜっ、ぜんぜん、大丈夫です!」
慌てて答えると、レイフォルド様は柔らかく微笑んだ。
「なにか困ったことがあれば、すぐに呼んでくれ」
「はい。……でも、レイフォルド様もお忙しいと思うので、煩わせないように頑張ります!」
「そうか。なら、お互いに頑張ろう」
「はい!」
そして、とうとう開店の時間がやってきた。
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