29幕:人形使いは宿命を背負う 上
すみません、体調不良その他諸々で遅くなりました。
僕は流れる水のせせらぎを見つめながら人生を考えていた。
15にして家を追い出され無一文になり、冒険者となってからは筋肉乙女との死闘を繰り広げ地獄を体験した。そしてすぐに何処ぞの王国の王女様に目をつけられた。
それから僕は幼女に顎で使われる日々を過ごしたんだ。
そして犯罪臭しかしないヒキニートに寄生され、変なノリの先輩たちに付きまとわれ、そして愛しの恋人に会計をバックれられ、、、順風満帆とは絶対に言えないけど、僕の毎日は常に刺激でいっぱいだった。
毎日が幼女の無茶振りに振り回され、穀潰しの世話とグレーな犯罪行為に悩まされ、先輩たちのチャラけた精神に心を蝕まれ、そして最近は大切な人の人を見下すような視線に晒され、、、
そんな日々がいつまでも続くだなんてありえないだろうということを僕が気づいていないわけがないじゃないか。それに僕が冒険者になる時、心に誓ったことも忘れてはいない。
そうさ、あの時誓ったことを僕は今だに忘れてはいないんだ。
僕が人生をかけて復習することを。
僕をバカにした連中を上から目線でバカにしてやることを。
僕を蔑ろにした連中に目にものを言わせて仕返しをすることを。
有名になってお金持ちになって強くなって美人の彼女を手にいれて、、、僕は僕の人生を取り戻すんだということをさ。
だから考え直したんだ。
本当にそうだったのかってね。
あの時は、その日に食うものにも困ったしベッドで寝るなんてありえなかった。
僕も相棒たちも毎日ボロボロだったし汚れていた。
でもホットルやコルドルと日々、人形劇をしながら路銀を稼いで資金を貯めて冒険者になって、、、苦しかった。でも楽しかった。本当に楽しかったんだ。
だから今の僕がある。
僕は流れる水の音色を耳にしながら現実を振り返った。
そして水の流れる方向を確認しながら一歩一歩進んでいく。
小さかった支流が本流と合わさり少しずつ大きくなっていった。僕の歩みとは違いその速度はとても早い。ここにもし僕が落ちてしまったら、、、たぶん助からないだろう。
それだけ流れが早いんだ。
腰を下ろしてから右手を急流に浸し温度を確認する。
かなり冷たくて気持ちがいい。砂漠の地下深く、それも大迷宮内にこんな所があるなんて信じられなかった。
この水流が何処から流れてきて何処へ向かっているのかは分からない。
ただこの冷たくて気持ちいい水の流れが迷宮奥から、枝分かれしその一部が例の井戸へと繋がっているのは間違いない。
それからふと視線を右手に反らした。
僕の右手に小さな歯型の跡がついていた。
まるで小さな子供が戯れるようにカプリとしたような痕跡。
宿のベッドの真ん中で堂々と寝転んでいた彼女は事あるごとに横暴を晒し続けてきたウチの小さな大魔王だった。触れると折れそうな華奢な体躯と赤い髪は間違いなく僕がよく知る我儘の権化だ。
ゾンビ病とかいう謎の病気に小さな身体を蝕まれた彼女は今、瀕死の瀬戸際にいる。
、、、にも関わらず都市中のカジノに顔を出しては暴れまわり荒らし回ったのだという。
だから僕は悟ったんだ。
彼女は嘘を付いていたんじゃないかってね。
もしくは、、、、どちらにせよ、今の僕には時間がない。
僕は再び歩み始めながら思考も進めていく。
都市中に頻発している問題の中で一つだけ気になる点があった。
交易都市『メータイヤ』近郊で大量のゴーレムたちに襲われた時、そして大きな人形たちが町中で何かを探索しているような素ぶりを見せる謎の徘徊事件なのだとスケルトンの兄弟が話してくれた時。
考えてみればヒントは色々と用意されていたのかもしれない。
そしてたぶん僕だけに分かるようにしたんじゃないかと今はそう確信しているんだ。
特にゴーレムたちに取り囲まれた時、ぼくと同じ力の波動のようなものを感じたし、何より彼らは統率された動きを見せた。それに僕の仲間に大きな人形はいない。
そうさ。つまりこれは同一犯による犯行、そして僕たちは、、、いや僕は誘導されたんだ。
僕は支流を流し目で確認しながら本流を遡り、やがて広い空間に躍り出た。
迷宮内にも関わらず、なぜかここだけが神聖な空気で覆われているようだ。
《砂漠の大牢獄》《死者の牢獄》と呼ばれるこの大迷宮の中で考えられない場所。
僕が目の前の非現実を消化しきれないでいると、そこにコツン、コツンと何かが響く音が響いた。
四方八方から聞こえるように反響する音がだんだんと大きく強くなっていく。
やっぱり誘い込まれたか、、、
僕は逸る気持ちを抑え、そして白銀の剣に静かに手を添えたんだ。
恋する筋肉乙女( *´д`*):愛しのシュガールちゃん、、、




