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幽霊城1 ~ウィルオーウィスプ退治~

「幽霊退治?」


「そう、とっても簡単なお仕事」


平日午前。配置されたテーブルとカウンターは一見すると喫茶店のようにも見えるその場所は魔法道具屋【メリー・マギカ】。そこで、俺とアスティアは話し込んでいた。相手は店の店主、メリッサさん。深紅のウェーブヘアを頭頂部で結った派手な髪型に薄紅色のカーディガンが特徴的な女性だ。俺とアスティアにとっては既に旧知の仲。むしろ、お母さん的な存在だ。


「お姉さん、だろ?」


「あ、さーせん」


あれ?絶対口に出してないんだけどな。おかしいな。怖いな。笑顔であんな低い声出されるの怖いな。俺とメリッサさんを隔ててるカウンターがなかったら死んでたかな?それくらいの圧だった・・・


「今のはジェドが悪いよ。メリーさんはそんな歳じゃないでしょ?バカなの?」


「なに?俺って知らないうちに声とかに出してんの?俺がおかしいの?」


「もう!その話はいいじゃない!アタシが若いなんて・・・照れちゃうわ!行方不明の話よ」


若いなんて一言も・・・あ、いや何でもないです。絶対おかしいよ?心の中で言おうとしたことに対してメンチ切られるなんて。


さて、メリッサさんの話はこうだ。中央都から徒歩で1時間ほどの場所に大きな廃城がある。名前をザルフェルト城。200年程前にうち捨てられた城で現在は誰の手も入っていない廃墟。何でも当時その付近を治めていた領主が住んでいたらしいが、魔術に傾倒して何か事件を起こしたらしい。最終的に処罰され城はそのまま放置。強いて言えば名目上は王連が管理ということになっているらしいが、実際は結局放置状態。ま、お役所仕事乙。


そして、現在のザルフェルト城は別名、“幽霊城”と呼ばれているらしい。


ふむ。幽霊城・・・いいね。少年の心をくすぐられるね。もう少年じゃないけどね。


「名前の通りお城の中にはウィルオーウィスプ達の巣になっていてね。定期的に駆除しているのよ。本来は役所がやるんだけど、下請けって形でギルドに依頼されるのよ」


「なるほど。ちなみに報酬は?」


「あんた達の取り分は大体1500ってところかしらね」


うん。悪くはない。たぶんギルドに出回ったらすぐにLvの高い冒険者に回されるだろう。国の下請けはギルドの信頼にも関わるから確実な人材に任されるのが常だ。メリッサさんは過去にかなりの功績を持った冒険者。その人脈を利用して、ギルドに入るであろう仕事をこっそり俺達に融通してくれるのだ。え?違法?バカ、グレーだ!


「あんた達ってことは、残りはメリーさんの仲介料?」


メリッサさんが回してくれる依頼には、仲介料が発生する。まあ、法外な値段ではないし、むしろ真っ当な取引として後腐れがなくていい。しかし、アスティアの言葉にメリッサさんは首を振る。


「元々この依頼を持ってきたのはアタシじゃないのよ。アタシは内容を伝えただけ」


ん?じゃあ誰がこんな美味しい依頼を持ってきてくれたの?



「というわけで、やってきました幽霊城」


アスティアが仁王立ちで見上げる正面には、大きな古城。所々苔が多い、如何にも『古いです!』という雰囲気を出している。実際古いんだけどね。周囲の草も伸びっぱなしで正に廃墟と言った感じだ。アスティアの隣で同様に城を見上げた後、俺は隣に視線を落とす。


「しかし、今回はありがとうね。ディマ。割のいい依頼に入らせてもらって」


視線の先は小柄な少女がいた。純白のフード付きローブマントで足首辺りまでを覆ったその風袋はまるでテルテルボウズの様だ。しかし、一点だけ異質な部分がある。背中の担がれた、長大なメイスだ。俺の身長程もあるそれを、小柄なコイツは平然と背中に背負っている。


ディマ・エー。職業は僧侶。俺とアスティアの冒険者仲間だ。知り合って、1年位になるか?時々依頼を一緒にこなすことがある。今回もそれだ。


「・・・いえ、別に」


そう。この子、少し無愛想なんだよね。悪い子じゃないんだけどね。でもね、一個気になることがあるんだよね。


「ねぇ、ディマ。ウィスプってどれ位いるかって聞いてる?」


「はい。役所の人が言うには定期駆除を1年に一度行うそうなのですが、平均して50~80体のウィスプが確認されるそうです。残っている資料によるとウィスプ以外のモンスターは極希に発見されるらしいですが、それもゾンビ等の神聖魔法が有効な種類のみらしいので基本的に僧侶がいれば難しくないとのことでした。そもそも勇者魔法も幽霊系には有効なので、数的は問題ないと思います」


「俺の時と文章量違うくない?」


これです。何か、俺の時と他の人と話す時と文章量が違うんです。正確に言うと、俺の時だけ若干無愛想なんです。アスティアとか他の人の前だと普通に喋るんです。


「そう?それより今回ジェドは役立たずなんだから荷物持ちと雑用お願いね?」


俺の気持ちは通じず。まあ、ディマは他の人とは普通に話すし、俺以外は違和感ないのかな?それとも俺のことなんてどうでもいいのかな?あれかな?話す量は年齢制限あるのかな?30才は規制がかかるのかな?・・・つらいな。


「なにやってんの?行くよー!荷物持ちぃー」


とうとう名前も呼ばれなくなったな。つらいな・・・


何の心配も抱かずに城の敷地に入るアスティア。それをとぼとぼ追いかける俺。しかし、ふと何かに引っ張られる。おや?ディマ?彼女が俺のポンチョを引っ張っている。あと、首ガクンってなった。力強くない?首、ガクンってなった。


「どうした?トイレ?」


「・・・今日は・・・」


ディマはそう言って、黙り込む。え?なに?今日は?お前の命日とか?やだ、途中でやめないでこわい。


「あー、今日はよろしく。そんじゃ、行くべ」


そう言ったら、ディマが顔を上げて翡翠色の眼を少し見開いた。そして、再び顔を下に向けて俺を追い越しアスティアの元へ。はい、ミスったー。何をどう間違えたかまったくわからんけど、ミスったー。日常の中でよく使われるよろしくでミスるとか、どういう判定だ。


ふと前を見ると、何やらディマと話していたアスティアがこちらを振り向き、ゴミを見るような眼を向けてきた。なに?もう30才ってこんなに嫌われるもんなの?20前の君たちから見たら何に見えるの?憂鬱な気持ちを抱えながら、俺は幽霊城に足を踏み入れた。



「汝ら輪廻の流れに乗れ、【リヴェレイション】」


薄暗い城の広く長い廊下で、光が弾けた。ディマの掌から波紋の様に広がったそれは、周囲に漂っていた青白い火の玉に触れると次々と消し飛ばしていく。


ウィルオーウィスプ。幽霊系のモンスターの中でも特に有名な種類だ。外見は拳ほどの大きさの火の玉。しかし、大きさで侮ってはいけない。まず、幽霊系の特徴として一般的な物理攻撃は効果がない。打撃、斬撃はすり抜けてしまうのだ。更に生身がウィスプに触れると、体力を奪われてしまう。魔法攻撃の手段を持っていないとそれだけで手も足も出ない厄介な相手になるわけだ。


「・・・終わった」


ディマの放った光が消えると、数匹いたウィルオーウィスプも消えていた。うん。これだ。幽霊系モンスターに対しての一番の天敵。僧侶の扱う浄化の呪文。確かに一般的な魔法でも倒せるが、僧侶の呪文は効きが違う。特にディマの呪文はずば抜けているらしく、ギルド内では色々なパーティーに引く手数多・・・らしい。


「お疲れさん。しかし、結構倒したな。もう少しで終わるかな?」


平常運転で俺に対しては言葉少なめな彼女に水筒を渡し声掛ける。僧侶は邪気を感知するスキルがあるから、あとどれ位ウィスプが残っているかを聞きたかったんだが、それに対してディマは無言。ちょっち傷つく。


「あー、いや。しかし、この城でかいよねー。何かおいてある物も昔のまんまみたいだし、何か美術館みたいだよねー」


とりあえず適当な会話を振ってみたが、空振り。笑顔を引きつらせながら、何とはなしに長い廊下の壁に目を向ける。埃を被った壺や絵画が目に付く。いやー、これ埃被ってるけどかなりいい品なんじゃないの?絵画に目を向けると、そこには金髪の美しい女性が描かれていた。埃が付いていてきっと本来の美しさより何倍も劣っているのだろう。それでも、綺麗な女性だった。ん、流石領主。いいモデル使ってやがる。


「えっと、ディマ、ほら。この、調度品?っていうの?何か色々説明書きがあるよ端に。えーっと、ピルキセ作、“孤高の壺”、あとラオルナド作、“微笑のアデーレ”、いやー何か、えーっと何か美術館みたいだなー。あはは、は」


「・・・おかしい」


「はは、へ?」


「・・・減ってない」


ディマはいつも通り口数が少ないが、言いたいことは何となくわかった。どうやら城内のウィスプが数が減っていないらしい。なるほど、俺の振った話題は一切聞いてなかった系ね。しかし、んなわけないやん?だって突入して既に1時間弱。俺はディマと一緒に行動しているが最低でも30匹はさっきの魔法で消し飛ばしている。それに2階ではアスティアが勇者魔法を使って遊撃しているから、もっと減っているはずだ。そう思いつつ、ディマに視線を向けるとその表情が変わった。おお、珍しい。ディマのビックリした顔なんて初めて見るわ。


「早く2階に・・・!」


言ったと同時に位にディマが走る。おお、走るディマも珍しい・・・なんて思ってる暇はないようだ。何しろ、それ程のことが起きているってことになる。返事もそこそこに、俺もディマの後を追って行く。くすんだ赤い絨毯が敷かれた長い廊下を走り、2階に上がる階段を目指す。その途中、轟音が響いた。2階だ。


「っ!?ディマ!」


「・・・急ぐ」


階段を駆け上がり、2階の廊下に飛び出る。1階同様の間取りのそこには、大量の火の玉が待ち構えるように浮遊していた。おいおい、何だよ・・・この量は・・・!


「ジェドさん、突っ切って」


俺の横でディマがメイスを振りかざす。背負っていた長大なメイスだ。先端に淡い光が溢れるそれを思い切り振り下ろすと、ウィスプの群れが割れるように吹き飛ばされた。、大半は消えずに散っただけだが、これなら行ける!


「うお、おおっ!」


腰を落とし、獣の様に前傾姿勢で走る。分散したウィスプ達の隙間を縫うように進む。数匹身体に触れるが、ここで足を止めれば殺到されて終わりだ。進む!それが生き残る道!そして、抜けた。だが足は止めない。廊下の先には内側から吹き飛ばされた様に壊された扉。そして、開け放たれた広間らしき空間。あそこだ。あそこで戦闘が起きてる!


「・・・こっちは、任せて」


「頼む!できるだけ早く戻る」


再び固まり始めたウィスプ達を挟んでディマの声が聞こえる。ディマなら大丈夫・・・と確信を持っては言えないが、ここは戻るタイミングじゃない。まずはアスティアの無事の確認と、俺達の状況の確認だ。そこから考えりゃいい。


「死んでなきゃ、いい!アスティア!」


勢いを殺さず、そのまま室内に飛び込む。既にショートソードは抜いている。それが良かった。正面から飛んできた椅子を迎撃出来たからだ。そして、椅子に続いて今度は燭台が飛んでくる。明らかに吹き飛んできた勢いじゃない。敵意を持って、攻撃として投擲されている!


「くっ、お!どうなってる!?」


「ジェドっ」


声がする方に目を向けると、アスティアがいた。まずは無事だ。自然と大きく息を吐き出す。次に状況確認だ。


中空には、半透明のシーツを頭から被ったような奴がいた。


「まさか、レイス・・・?」


「ただのレイスじゃなさそうだよ…ってくるわ」


アスティアの声とほぼ同時に、周囲の物が震え、浮遊する。なるほど、さっき椅子やら何やらが飛んできたのはこれか!


「ブレイブフォース!」


間髪入れず、アスティアが勇者魔法の光弾を放つ。勇者魔法は幽霊系モンスターにも有効だ。直撃した瞬間に、レイスの霊体が弾けとんだ!よっしゃ!


「油断しない!」


俺の緩んだ表情を見たアスティアが檄を飛ばす。はて?そう思った時にそれは起きた。四散したと思われたレイスが、一点に収束して再び顕現したからだ。おいおい、どゆこと?


「―――!」


悠然と浮遊するレイスの頭部?その一部が口のように開くと…形容するなら、キーン?そんな金属が擦れたような音が響いた。


「ぐっ、うるっせぇな…ジェド!攻撃くるよ!」


再び周囲の調度品が浮き上がり、今度は止まらずに飛来してくる。机、椅子、本棚、壊れた家具の残骸…!避け切るには、狭すぎる!


「一旦逃げるぞ!」


「同意!」


俺の提案に一瞬で賛同するアスティア。そこからは速い。牽制でブレイブフォースを放ち、遅い来る家具やら何やらを散らして出口へ走る!完璧だ!出口が透明の壁に塞がれてなければ…!


「うおぉおい!?何で?何で出れないの!?」


障壁魔法(ウォール)?しかも、練度高い・・・!」


レイスにとって、足止めは成功だ。俺達にとって状況は切迫した。退路を塞がれ、決して広いとは言えない空間で飛んでくる投擲物を裁かないといけない。くそっ難易度高いな!


「ジェド!魔法鏃は?」


「有効なのはある!でも、アイツの再生パターンがわからないと無駄撃ちになるかも!うおっ」


『だよね!』そう言うと、飛来物を剣で叩き落とし、流れるような動作で左手から光弾をぶっ放したアスティア。レイスの体は弾け飛ぶが、周囲の物体は止まらない。それでも、アスティアは続けざまに何度も魔法を放つ。ある種のヤケっぱちもあるだろうが、真意はそこじゃない。


「ジェド!」


籠手型短弓に番えたのは、黒羽根の矢。これ一本で800G!緊急用に買っておいたヤツ!効果あれ!絶対あれ!


「砕けろ!」


放った矢は出入り口に向かい、廊下と室内を隔てる一線の手前で障壁ぶつかる。そして、ガラスが割れるような甲高い音と共に空気に振動が広がり、矢は一直線に廊下に飛んでいった。高価な破魔の魔法鏃は流石の効果!あれ?アスティアさん、ゴミを見る眼で俺を見てるけど、やっぱり心読まれてるよねこれ?


「――――――ッ!?」


レイスの体がビクッと震えた。その瞬間、飛来物も止まる。チャンスや!


「アスティア、今度こそ退くぞ!」


「当然!でも、ダメ押しはしとくね」


剣を鞘に仕舞い両手に光を集めて、一際大きなブレイブフォースを放った!室内が光に包まれるが、俺とアスティアは一目散に廊下に飛び出た!



「魔道の深淵・・・ですか?」


目の前にいる存在が口にしたそれに、私は眼を丸くしたのを覚えている。


「そう、私達が歩むこの道の先、ずっと先にある、底の底。それを、見たくありませんか?」


この城の中で、私が一番気に入っている大書斎。周囲を膨大な本棚で囲まれたその中央。置かれているソファーとテーブル。そこで私とその人は対面していた、のを覚えている。


「・・・見たい」


私は、そう呟いた・・・・・・のを、覚えてイル。


「当然です。全ての魔術師の悲願、目的、到達点なのですから。そして、それを追うためには私達の“人”の理はあまりにも無慈悲だ。違いますか?ねぇ、ザルフェルト卿」


目の前のその人は、まるで少年のような、少女のような、無垢な笑顔で私を見つめた。その口は、無邪気に開いて三日月のように笑っている。


「貴殿の“方法”では時間がかかりすぎるのではないですか?」


方法。方法とは?何だったであろう?これは、覚えて、イなイ。


「ねぇ、ペテロ・ザルフェルト“惨殺卿”?」


ペテロ・ザルフェルト。私のナマえは、そうイウのだっタのをオボエていル。


「生け贄魔術等たかがしれています。もっと、もっと効率よく行きましょう」


深淵まで。そして、貴殿の求める到達点まで。


ソウ言ッたソの人ハ、ダレだったかナ?オボエテなイ。デモ、一つだケ、覚えテる。


ワタシハ、魔術ノ深淵ヲ、その先の“夢”ヲミルタメニココニイル。


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