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輝光石探しとロックイーター

輝光石。


魔力を宿した石で様々なポーション調合に重宝されている。そんな輝光石が採取できるのが【アームル洞穴】だ。洞穴と言っても、地上にある穴から地下に降りていくと、広大な地底湖となっている。点在する多くの湖の浅瀬に転がる石っころの中に、それはある。


「ねぇな。輝光石ねぇな」


「おい、アスティア。探し方がおっさん臭いぞ。もっとこう、ない?」


【アームル洞穴】に入り地底湖に到着して既に3時間。俺とアスティアは、ぶっ通しで湖の周囲を探索していた。それでもお目当てのものは一つも見つかっていない。ため息を吐きながら、天井を見上げる。明るい。正確には薄明るい位だが、視界が良いと言って問題ない。


天井、地面、岩壁の全てが点滅するように光を帯びているのだ。その光を映す湖の水面は透き通っており、幻想的な光景を俺たちに見せてくれている。ちなみに地面には苔や草も生えており、岩壁同様に光り、時折薄い光の粉を放ち、一層美しさを彩っている。


「場所を移すか。もっと奥の湖に行ってみよう」


「それ、もう3回聞いたんですけど?もう足痛いんですけど?お腹も空いたんですけど?」


アスティアの言う通り、既に場所は何度も変えている。しかし見つからない。元々輝光石はそこら辺に落ちている石に魔力が溜まり生まれる。そのメカニズムは未だに解明されておらず、探し当てるのはまさに運。それでも、この洞穴は発見率が高い。学者の見解では群生している光苔が放出する魔素が影響しているやらなんたら。


「前に同じ依頼受けた時には、3時間探せば5つは見つかったんだけどな。もしかしてメチャクチャ運がよかったのか?」


「しらねーわよ。とにかく、依頼された数は5つなんだから何としても見つけて帰らない!今月の精霊費払えないよ!生活精霊脈止められちゃうんだからね!支払い期限今日までなんだかね!」


「やべぇね。そこまで追い込まれてたっけ?この前のゴブリン退治の報酬まだ残ってなかったっけ?」


「そんなんお風呂の火精炉修理してほとんど吹っ飛んだよ。言ったじゃん」


こんな会話をしながらも水辺の光草をかき分け入念に探索を行うアスティアと俺。特に俺の必死さが増した。当然だ、雷精費が止まったら何もできない。電気が使えないのはヤバイ!


しかし無情にもそこから1時間経っても輝光石は見つからなかった。


「見つからないね」


「見つからないね。私達の明日も見つからなくなるね」


敗戦ムードだ。特にアスティアの表情がやばい。


「まず冷蔵庫が止まるでしょ?中に入ってるシーサーペントの切り身、コカトリスの腿肉・・・特売でおばちゃん達を蹴散らして頑張って簒奪してきたのに・・・あ!でも帰ってすぐに料理しちゃえば・・・はい、火精鍋も使えません詰みました」


虚ろな眼で中空を見つめながらぶつぶつ呟くアスティア。あかん、あかんでぇ!


「アスティア、俺にいい案がある」


「はぁ?」


こえーよアスティア。メンチ切りすぎだろ。その顔どうやって作ってんの?表情筋どう使ってんの?しかし、ここで引くわけにはいかない。俺だって生活精霊脈が止まったら、致命傷。そのためにはなんとしても輝光石を見つけないといけない。この限られた時間で!だからこそ、アスティアのモチベーションを上げないといけないんだ!



「んで、お昼にするわけ?頭沸いてるの?」


「待て、フォークをこっちに向けるな危ない、危ないってば」


幻想的な洞窟の湖の近くでシートを広げ、俺たちはどっしりと座り込んでいた。考えてみれば、休憩等は入れずにずっと前屈みの姿勢で石を探していたのだ。疲労は確実に溜まっている。


「落ち着けアスティアよ。いいか、薄暗くてわからないだろうが今は14時過ぎだ。つまり、俺たちにとって大切なことを忘れていたことになる・・・わかるね?」


「お昼ご飯か!」


この娘本当に食べるの好きね!でもまあ、ちょろいので助かるわ。内心馬鹿にしながらも、アスティアの焦りが弁当にへと移り変わったことに安堵する。まずは切り替えだ。あのまま探索していてもきっと見つからない。そう割り切って一度すっぱりとやることを替える。そうすると、案外うまくいくこともあるのだ。30年の人生の中で培ってきた経験の賜物だ。


「ちょっと!何をぼーっとしてんのさ。早く荷物解いてよ!そっちにお弁当入ってるんだから」


アスティアが獣のような眼光で俺を睨む。すごいなこいつ。もう食べることしか頭にないんだろうな。


「えーっと、ちょいまち。この包みか?」


「ちげーよ。それは解毒薬草の包み。それ?それは回復薬(ポーション)、飲料水じゃない。色でわかれバカ」


「お前、何気に準備にぬかりないよな。そんな性格なのに」


「もぐよ?準備なんて冒険者として当然だし。あ、ほらその緑の包みだよ!早く!」


アスティアの手に渡った包みは一瞬で開かれ、中から出てきたのは二つ重ねの軽鉄製弁当箱。


「御開帳!くぱ…」


「アスティア黙って」


こいつは食べるタイミングになると本当にテンション高くなる。というか馬鹿になる。もともとが7割馬鹿だけど。残り3割も馬鹿になる。


下品極まりない音頭と共に開かれた蓋の下。そこには、赤茶色い物体が鎮座していた。


「これは、肉の塊・・・?」


「はいバカ!これは肉巻きおにぎりだ!」


「おお、肉巻きおにぎり!あれ、あと今バカって言った?」


「しかもただの肉じゃない!聞いて驚け!なんと、ドラゴン肉で巻いている!」


俺の一抹の違和感はさておき、ドラゴン肉とは!ドラゴン肉と言えば確か100gで10000Gはす超高級食材だったはずだ。そもそもが市場にほとんど出回らないからな。そんなものが我が家の冷蔵庫の中にあったとは・・・!俺全然知らないんですけど?あれ?おかしくない?


「ドラゴンって言っても、ワイバーン種の尻尾肉の切り落としなんだけどね。それでも買ったら100gで2000Gはするよ」


「おい待て、支払い遅れてる理由ってこれか?」


「なわけねーだろカス。この肉はメリッサさんから貰ったんだよ。見損なうなボケクソ」


おお、疑ったのは悪かったが、3倍位の悪口が返ってきた。驚いた。ごめん。さて、気を取り直してお弁当を覗き込む。二段だった弁当箱の一つにはドラゴン肉巻きおにぎりが六つ、みっちりと入っている。脂が洞穴内の光りを反射している、うぅまそうだ。もう一つの箱にはジバ鶏のゆで卵に、茹でたブロッコリー、生のミニトマトが所狭しと入っていた。


「それでは、お先は真っ暗ですが」


「おいやめろ。嫌な始まり方をするな」


いただきます。


同時にドラゴン肉巻きおにぎりに手を伸ばし、口に運ぶ。ガブリとかぶりつくと、ジュワリと口に広がる濃厚な肉の味。ドラゴン肉なんて子供の頃に運良く口にした位で、下手したら10年以上口に入れていない。牛肉や豚肉とも違う、強烈な血の気・・・しかしそれが生臭くなくしつこくない。薄く塩で味付けされているようだが、それで十分。濃厚な“肉”の味と白米の合わせ技・・・う、うまいぃい!


「あああ!これでしょ!これがドラゴンでしょ!」


「ああ、うまいぃい!」


アスティアは女性がしていいギリセーフなかぶりつき具合で瞬く間に1つを完食し、直ぐさま2つめに手を伸ばしている。しかし、俺とて負けておらぬ!手に持っていた残りを口に押し込み、2つめに突入する。いける、これはいけるぞ!


「濃いめの肉の口直しに、最強のパートナー!ゆで卵を食べてすぐに肉巻きおにぎりを口に入れると・・・はい最強!」


「ちょ、それ俺も・・・う、うまいぃい!」


何やかんやで休憩抜きで動き続けていた俺たちはあっという間に弁当箱を空にした。満たされた俺たちはすっかり緊張の糸をぶった切り、その後1時間以上後に自分たちの置かれている状況を思い出した。



「やべぇだろ」


「アスティア!希望を捨てちゃいけない!捨てないで!」


現在絶賛絶望中。何故って?輝光石が見つからなねぇからだよ!誰だお弁当食べようなんて言った奴は!あ、はいごめんなさい。


とにかくもう探すしかない。何しろタイムリミットまでもう1時間程だ。現在の時刻は17:00少し前。アームル洞穴から出るのに1時間。これは深部に潜ったから。更に更に、都までは竜馬車で1時間。納入期限は20:00まで。つまり、探すしかない。そして見つけるしかない!あと竜馬車の出発時刻もあるし。


「ねぇ、ちょっと」


「アスティア!場所を変えるぞ!帰りは少ししんどいけどもっと奥まで行こう」


帰りは走って帰る計算にすればなんとかなる。とにかく今は物が手に入らなければ全て終わる!俺の計算だと全力ダッシュすれば間に合う!間に合うよね?


「探せ探せぇ!草の根分けても探し出せぇ!」


「聞けよキモガッパ!」


少しトランス状態に入っていた俺の背中を言葉だけではなく、剣の鞘で打ったのはアスティア様だった。ちょ、バカなんじゃないの?突き込む形で叩くなんて、一応それ革一枚挟んでるけど刃物だからね?


「いいから、あれ見てよ」


「あれとは?」


背中を摩りながら、アスティアの指さす方向に目を向ける。そこには、ぼんやりと光る物体がノソリノソリと蠢いていた。あれは、モンスター?


「あの光り方さぁ・・・輝光石じゃない?」


アスティアの眼光はいつの間にか鋭く細められている。おお、珍しくやる気じゃないか。しかし、言ったことも気になる。確かにあの輝きは尋常じゃない。この洞穴は常に明かりが灯った状態を保つくらいには明るいが、俺たちの視線の先で動くそれは、一際明るい。


「まずは、近づくぞ。輝光石が動くわきゃあない。つまり、モンスターと想定して間違いない。まずは確認だ」


言うが早いか、アスティアと俺は極力足音を殺して光に近づく。距離は約100m。縮めていくと、徐々にそいつの容姿が見えてきた。


体長は2mを優に超えた巨大なトカゲのような姿形をしている。皮膚はゴツゴツとしており、一言で表すなら岩石だ。岩石の皮膚を持った巨大なトカゲ。眼のようなものはなく、頭部にはギザギザとした牙が見られる。図鑑で見たことがあるぞ。でも、何でこんなとこにいるんだ?


「ロックイーター・・・ってやつだね」


アスティアが言うとおり、目の前で湖の浅瀬を闊歩するのはロックイーターで間違いないだろう。倭名、石喰獣。名前の通り岩石、鉱石を喰って生きるモンスターだ。


「こいつの皮膚、輝光石だ」


湖の浜辺に群生する草の中に身を隠しながら、アスティアが呟いた。確かに、ロックイーターは食した鉱石が直接皮膚に現れる。そして、この個体の皮膚は所々明滅している。洞穴の岩肌や、光苔とは比べものにならない。


「つまり、前回はサクっと見つかった輝光石が見つからなかったのはこいつのせいってことか?」


そう言いながら、腰のショートソードの塚に手を掛ける。アステアも考えることは同じだ。既に足に力を込めて、飛び出す準備は万端だ。


「速攻で蹴りをつけて、皮膚を剥ぐよ!」


言うと同時に草むらの中から飛び出すアステア。最早獣じゃねぇか。こえーよ!


「せぇいや!」


ギャリンっと削るような音がした。アスティアの先制攻撃がロックイーターの横腹に直撃した音だ。しかし、ダメージは殆どないだろう。その証拠に、ロックイーターが勢いよくその身体を捻った。


「ゴロロォロロッ!」


何とも言えない重低音な唸り声を上げて、ロックイーターは襲撃者に対して攻撃を加えた。強烈な、尻尾の一撃!こいつ、巨体の割に速い!


アスティアはふわりと跳び、ロックイーターの背中に乗って尻尾の攻撃範囲から回避する。流石は勇者殿だ。全く慌てていない。


「うらぁ!」


背中に立ち、思い切り振りかぶった剣撃をたたき込むアスティア。数発繰り返すも、響くのは無機質な衝撃音のみだ。ダメージが入った様子はない。ちょっと、かけ声ガラ悪!


「ゴゴっ!」


「うぉっ!?」


されるがままのロックイーターさんじゃないようです。身体をブルリと震わせたかと思ったら、なんと跳躍!そして、湖の中に突っ込んだ!アスティアは離脱したが、さてどうするか。このまま逃げられたらせっかく手に入る兆しが見えた輝光石が!


「来るよ!」


俺の心配は杞憂に終わった。湖の水面が揺れた瞬間、奴が凄まじい勢いで飛び出してきたからだ。実に直線的な体当たり。しかし、奴の皮膚の堅さを考えれば、単純故に強力無比な攻撃!反応は遅れた俺は、咄嗟に横に跳ぶが、皮膚の凹凸に掠った。


「ご、ぐえ!?」


気がつくと地面を跳ねて近くの岩肌に叩きつけられていた。背中がメチャクチャ熱い。息が出来ない!しかし、俺だって冒険者として経験はそれなりにある。動く部位を総動員して現状の脅威を視界に入れる。見失ったら、死亡率はうなぎ登りだ。昔俺の師匠が言っていた言葉だが。


「ゴォ・・・ッパァ!」


視界に入れたのは正解だった。既に奴は次の攻撃体制に入っていた。あの堅そうな身体の上半身?をしならせて、嗚咽するような音を口からさせている。うわ、すげー嫌な予感がする!


「くっ・・・そが!」


俺の予感は当たった。大きく開かれたロックイーターの口から、人間大程の岩石が飛び出てきた!勢いを付けて放たれたそれは、岩の大砲だ。しかもめっちゃ的確に狙うね!死ぬね!?


「ジェドっ!」


俺の耳に響くアスティアの声・・・さよならバイバイ・・・!


「終わった…!」


諦めの言葉と共に目を閉じる俺。しかしその身に、待てども待てども痛みも衝撃もこない。はて?攻撃が外れた?

いや、そんなはずはないだろう。何せ確実に直撃コースだった。誰かが阻まない限り。


「あのさ、普通は逆なんじゃない?ジェドがさ、ピンチの私を助けるのが普通なんじゃない?」


思い切って目を開けた俺の前には、青い外套をはためかせた勇者殿が立っていた。顔は不機嫌、やだ超怖い。周囲を見ると砕けた石の破片が転がっている。おぉう、俺もこうされちゃのかな?先ほどの死との直面よりも嫌な悪寒を感じつつ、俺は足に力を込める。よし、節々は痛いがまだ許容範囲だ。いける!


「ジェド、もう時間ほんとにないからさ…いつもの足止めからのアレで、一気に喰らうよ!」


「サー、イエッサー!」


アスティアがミドルソードを眼前に構え、軽やかに駆ける。俺も同時に走る。当然ロックイーターは反応する。口を大きく開き、再び喉の奥から異音を鳴らした。また岩を吐く気か?


「ゴロォッパパパぁ!」


「ちぃっ!」


さっきの岩石弾とは違い、今度は拳大程の石をまるで散弾のように吐き出した!範囲が広いが、予備動作が大きい。俺は奴の側面に回り込む形で接近していたため、大量の石つぶてから回避できた。口の正面マジ怖い!あとはアスティアだが、問題ないわな。


「ジェド、早く動き止めて!こんだけやられると近づくのめんどくさい!」


俺の指示を出しながらも、動きを止めないアスティア。直撃する石は剣の腹で弾き、避けられる石は体捌きで躱す。驚異的な動体視力とボディイメージ!これで最下位なんだから笑わせるよね。内心アスティアの実力にビビりながら、俺も行動を起こす。


「アスティア、巻き込まれるなよ?」


「ジェド、外すなよ?それ一発でミケラ牛ステーキ丼2人前食べられるからね?」


絶対に外しません!


左腕の籠手型短弓(ガントレット・ショートボウ)を展開し矢をつがえ、ロックイーターに向けて放つ。別にどこを狙うわけでもなく、ただ標的のどこかに当たるように。幸い的は小さくない。当たる。当たるさ。当たるよねお願いします。


俺の杞憂を打ち消すように、矢はロックイーターの背中に当たった。瞬間鏃の先端から真っ白な冷気が吹き出しロックイーターを包み込む。


「アスティア、ゴー!」


「はいよ!」


魔法鏃(マジック・アロー)。俺の武装の一つだ。白い冷気が晴れた先には、所々が凍結し、身体を固定されたロックイーター。何が起きたのかわからない様子で大口を開けて身をよじっている。まあ、ほぼ動けてないけどな!よし、仕事終わり。あとはアスティアさんに任せよう。既に一息吐いている俺とは違い、アスティアの右手が輝いている。


「沢山石を吐いてお腹へっただろ?遠慮せず喰え!」


非常に悪い顔をしたアスティアが、動けないロックイーターの眼前まで距離を詰め、右手をかざす。手に携えていた光が弾けた。


「ブレイブフォース!」


掌からオレンジ色の光が弾丸となって放たれ、ロックイーターの口の中へ叩き込まれる。うぉー、アスティアさん、えげつなぁい!


「ゴロ、ゴ・・・!?」


奴の腹の中でボムっと破裂音がして、口から砂煙が噴き上がった。


「げほっ、埃臭い!ジェド、一応追撃の準備はしてるよね?」


「ああ」


してません!ばれませんように。


俺の懇願が届いたようで、苦悶の呻きを上げたロックイーターは巨体を揺らしてあっさりとその場に倒れた。そして、次の瞬間にはボロボロと四肢から砂になっていき、最後は強固だった外殻やら牙やらがその場に残った。へぇー、ロックイーターってこんな死に方するんだ。



役所のエントランス。中央のダイ理石で作られた綺麗なカウンター越し。俺を鋭く睨むのは馴染みの受付嬢。前髪を真ん中でピシっと分けた水色のボブカット。出来る女って感じの人だ。


「はい、では確かに。あといつも言っていますがお支払いは余裕をもってしていただくようお願い致します」


さーせん。マジでさーせん。内心でそう思いつつ、ペコペコ頭を下げる俺。あの後、ロックイーターの外殻から採取できた輝光石は10個。依頼の数を大きく上回る量だった。加えてロックイーターの外殻から使えそうな鉱石や砂にならなかった牙等も採取して、大急ぎで都に戻った俺達。ギルドで物と報酬を交換し、19:50に役所の支払い窓口にてミッションコンプリート!守られた、俺達の生活は守られた。


「たはは、さーせんマジでさーせん」


言っちゃった。アスティアさん口に出して言っちゃった。しかも全然悪いと思ってない。めっちゃ笑ってる。もう支払いが済んで何も考えてない顔している。正確には冷蔵庫の中のことしか考えてない顔してる!


「はぁ、貴女という人は全く進歩がありませんね。そんな貴女に、伝言を賜っています」


「賜りません。帰ろうジェド。今夜はサーペントのお刺身だね!」


「待てやノータリン勇者」


「うるせぇお局公務員」


アスティアさん、やめて!今のはお前が悪いよ100パー悪いよ!堅気では出来ないであろうメンチを切り合う二人を見てハラハラする。アスティアと受付さんを交互に見ことしかできない俺。だせぇ。


「第3勇者殿からだ」


「・・・言えよ婚期逃し女」


「待って受付さん!ガラスの灰皿を振りかぶってはいけない!」


それ以上はいけない!戦争になるぞ!


「来月の集会、必ず出ろ・・・とのことだ。あと、これを受け取れ」


「あんだよ?」


アステアィが受け取ったのは、豪奢な封筒。おお、かなり高級な匂いがするな。そして高級なそれを無造作に腰のバッグに押し込むアスティアさん。流石です。あと何でいちいちヤンキーっぽいの。なにこの勇者?


「もっと丁寧に扱えよ。ああ、もういい。それじゃあな…あ、大変お待たせ致しました。次の方、受け賜ります」


横目での『とっとと失せろ』というアイコンタクトに合わせてアステアとエントランスを後にする。しかし、アスティアと話していたときとは声のトーン、表情、雰囲気の全てが別物だ…!受付嬢すげぇ!


「とにかく、何とかなったな。帰ろうアスティア」


「ん?ああ、そだね」


歩きながらも何となく浮かない顔をしている。そういえばこいつ他の勇者たち含め、都の上層部とは折り合いがよくないんだよな。それに、いつもすっぽかしても文句なしだった集会に声をかけるっていうのも気になる。もしかして、何か起きてる?


「ねぇ、ジェド。あのさぁ」


役所を出ると、そこは都の大通り。20:00過ぎといえば、食事処や居酒屋は活気があふれる時間だ。この大通りも例に漏れず、人通りが多い。仕事終わりに一杯やるおじ様達や、とにかく高いテンションでわめく学生達。


「ロックイーターから取れた素材は臨時収入としては十分だ。つまり金に余裕ができた。そして、この界隈は今良い匂いが満ち溢れている。つまり、わかるね?」


「夕食か!」


間髪入れず答えるアスティアの表情は輝いている。おい、さっきまでの心配返せ。まあ、とりあえず今日は旨いもの食べて家に帰ろう。うちの勇者様は今日もちょろい。


シーサーペントの刺身は夜食だな。


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