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ネモス谷の陽光花2 ~黒の脅威~

黒い雷が落ちてきた。迸る黒の電光が地面を走る。初動はミスれない?こんなの完全に予想外だ!


「ぐっお!?」


「ジェドっ!」


何とか地面から跳躍して回避モーションは取れたが、結局形だけ。飛び散る電光を左肩に受ける。ぐお!痛てぇ!そして、これはまずい。左腕の自由が利かないのだ。動かそうと意識しても、痙攣が止まらないっ!最悪だ!


籠手型短弓を装着している左腕が使えないってことは、遠距離攻撃と特殊攻撃の類いをほぼ潰されたようなものだ。初手でこれは、痛すぎる!バカバカ俺のバカ!


「電撃のブレス・・・!」


真っ黒な電撃を広範囲でまき散らしやがった。間違いなく上位モンスター。


そうこう考えている内に、ソイツは地上に降りてきた。全身が真っ黒なソイツは、眼だけが深紅。実に良く栄える。そして、全身から絶え間なく迸る、黒い電光。どうやら雷属性の【放電】スキルまで持っているようだ。いよいよやばいな。


「おいおい、でけぇな。ジェド、動ける?」


「左腕以外は何とかなる。けど、明らかに逃がしてくれる雰囲気じゃないわな」


黒グリフォンは弱っている白グリフォンと俺達との間に傲然と佇んでいる。その体躯は、目測でおよそ5mはある。通常のグリフォンよりも、随分でかい。白といい黒といい、こんなの見たことがない。突然変異?もしくは噂で聞く伝説級個体ってやつか?


「ギル・・ギィイォオ」


黒グリフォンが動いた。いや、俺達に背を向けたのだ。向かう先は、白グリフォン。当の白グリフォンは俺達と戦った時よりも明確な敵意を黒い個体に向け、全身の毛を逆立たせて唸っている。まさかこいつら、最初から?


「クゥウアアアアっ!」


白グリフォンが咆哮と同時に飛び掛かった。手負いの獣は恐ろしいとはよく言ったもので、先ほど戦っていた時よりも鋭く、獰猛な突進。しかし、対する黒グリフォンはその場を動かず。突進をその漆黒の胸で受け止めた。ズンっ、とこちらまで響く衝撃音がその威力を物語っている。


しかし、漆黒は動じない。それどころか反撃もせずにただ喉を鳴らしている。これはおかしい。グリフォンは誇り高いモンスターだ。そのプライドの高さはモンスターの中でもトップクラス。例え同族間の縄張り争いでも勇猛に戦う種族だ。俺も修行中に縄張り争いを見たが、それはもうお互いに誇りを掛けた攻撃の応酬だった。それがどれだけ実力に差があろうと、命を懸けて戦う。それが俺の知るグリフォンだ。


だというのに、目の前の黒いソイツは異質だった。


「あの黒いの、愉しんでる」


俺の隣でアスティアが吐き捨てるように言った。込められた感情は嫌悪。それを聞いて、俺も黒グリフォンに対して、改めて意識を向ける。


「クアアア!」


「ギルゥルル・・・」


既に2頭は至近距離でお互いの前足を振う、肉弾戦に移っていた。全力で振るわれる白の前足は黒い電光で遮られ、届かない。しかし、黒は攻撃をするでもなく、ましてや距離を取るでもなく、白グリフォンの周囲をゆらゆらと回るだけ。わかった。アスティアの言う意味が。ちょうど、黒グリフォンの顔が見える位置になると、その眼が見える。


「ギルルっ、ギルルル・・・!」


見下している。あざ笑っている。生物として格下として扱っている。奴の行動、雰囲気の全てが俺にそう感じさせた。あの野郎・・・!でも今は、俺達が逃げるのが先だ。


「アスティア、行くぞ!とりあえず一端麓まで降りよう!ここは身を隠す場所がない」


「・・・うん!」


アスティアは一瞬何かを吹っ切るように目を閉じ、次に目を開いた時には力強い返事を返してきた。アスティアはああいう行為はそれがモンスターであろうと嫌う。あの黒グリフォンにも思うところがあったんだろう。だが、今は飲み込んでくれてありがとう!内心で感謝しながらとにかく走る!恐らく、追ってくる・・・!


「ギッギョオオオオアアっ!!」


「ほぉーらな!」


退避を始めた俺達に気付いた黒グリフォンが咆哮し、漆黒の両翼を大きく広げる。その際の電光の余波で、白グリフォンが弾き飛ばされた。飛ぶ気か?


「最初っから逃がす気なんてないってか!」


「白を相手にしながらこっちを泳がしてたって感じじゃないの?嬉しそうに羽ばたつかせて・・・まったく、グリフォンは知能が高い?腹黒いの間違いじゃないの?」


麓へ向かう下り坂を走りながらアスティアは忌々しそうに言い放つ。その間にも黒グリフォンは離陸し、飛び上がる。このパターンはまずい。何故なら、次の行動に予想が付くからだ。


「くそっ!」


アスティアが唸るようにそう言う。黒グリフォンは、俺達の頭上を悠々を通り過ぎ着地する。そう、先回りだ。憎らしいくらいに余裕のアル先回り。マジかよ。これはもう、戦うしかないか?


「ジェド、いい案ある?」


「1人が囮になってもう1人が逃げるってのがあるけど・・・」


「「ないな(ね)」」


俺とアスティアの声が重なる。特にアスティアは俺を睨みつけている。怒ってるね。でもま、未知の格上相手に早々に戦力を裂くなんて策として早計すぎるし、そもそも片方を犠牲にする方法は拒否感が半端ない。まあ、囮は間違いなく手負いの俺の法になるんだけど。却下だ。ならどうする?格上が逃がす気がなく、退路を塞いでいるのだ。ふぅ、あるのだ。たまーに、こういう時があるのだ。冒険者という、生き方の中で。


「四の五の言っても始まらないよ。戦ろう」


命の危険が迫っていても、その方向に進まなきゃならない時が。


「んだな」


そこで俺は・・・多分アスティアもだが・・・考えるのは止め、飛び出した。


「ギォオオオオオオ!」


「ブレイブブースト!」


漆黒の電光を纏った黒グリフォンが前足を振り上げる。その速度は、白グリフォンの時の比じゃない。完全臨戦態勢。どうやらアスティアの殺気を感じ取ったようだ。油断はないってか!対するアスティアも魔法で身体強化を行い、ミドルソードを抜き放ち振り抜く。爪と剣がぶつかり合い、アスティアが大きく後ろに飛ばされる!


「ぉおお!」


身体強化したアスティアが押された。単純な膂力も恐ろしく強い・・・!だが、その時既に黒い巨体の左側に回り込んでいた俺。纏っている電光のため、直接攻撃は危険。そのためバックパックから取り出したナイフを後ろ足に向かって投げつける!


「ギオアアア!」


「うっ!?」


その数瞬前に、後ろ足が浮き上がり、鋭い獅子の後ろ足が突き出された。間一髪で避ける。しかし、纏う電光が容赦してくれない。物理的な衝撃は喰らわなくとも、電撃のダメージを負いつつ後方に転がるように逃げる。ざけんな、隙がねぇ!


「ジェド、伏せてて!ブレイブスラッシュ!」


オレンジの閃光が黒グリフォン目掛けて飛来する。アスティアの勇者魔法だ。凝縮された光の刃が黒グリフォンに直撃した。


「ギオオオ!?」


閃光が弾ける。その場から数メートル押し動かされた黒グリフォンだったが、それだけ。よく見ると翼を盾のようにして防御姿勢を取っている。それにしても、ほぼノーダメージって・・・ヤバいな今回。せめ左腕が使えれば・・・!


「ギュル、ギュルルっ!!」


喉の奥を不気味に鳴らしたと思っていたら、奴に異変が起きた。迸る電光が、どんどん大きく、激しくなっている?止まらない。その間にも身を震わせながら唸り続ける黒獣は、まるで何かを充電しているようにその場からは動かない。しかし、一方で身を覆う漆黒の電撃は周囲の地面を焦がすほどに膨れあがっている。あ、あかん。これ、あかんヤツや!


「アス」


「ジェ」


「ギュルアアアアアアアアアアアアっっ!!!」


咆哮、いや怒号。そして、黒い電撃は解き放たれた。


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