39 天才レウ
「そういえば、明日、養父様が戻ってまいりますわ」
いつものように訓練を終えて、和やかに食後のティータイムを迎えていたなかで、キャサリンが思い出したように、エドワードが戻ることを皆に伝えた。
「姉さん、ようやく準備が整ったようやな」
「そうみたいね。しばらく皆とお別れしなくちゃいけないのは、寂しわねー」
「まあな。そやけど、お仕事せんとなっ!」
「そうだね。私たちは、お姉さんだもんね」
皆に聞こえるような声で話して、顔を見合わせるレウとラウラ。たんたんとした話し方であったが、そこには強い意志と、うら寂しさが混ざり合っていた。
「えっ! レウさんたち、どこかに行かれるんですか?」
「ああ。コッテ、コッテに行くんや。お仕事しにな。まあ、出発は明後日やろな」
「コッテに行って、何をするんですか? ……、あっ!」
「それ聞く? って、分かったんかい! ビビリーナは、少しは考えてから口にしないとおバカに見られるで。……大事なお仕事やろ」
「そうでした、そうでした。失礼しました」
「うふふふ。ほんと、ビビリーナちゃんは素直な、いい子ねー」
「……まあな」
俺の尻から出て来た鉱石・極星鉱。
未来の預言者によって、残された四行詩のひとつであり、レウたちが名づけたトリプルスリーの最後の仕上げである『ジーニアスが反撃の鐘を打つ』。
つまりは、極星鉱を使って武器を作ること。
これが、レウたちがコッテに行く理由であり、エドワードがコッテに行ったのも、同じ理由で、先にお膳立てをしていたのであろう。
極星鉱が、どんな風に使われて武器になるのかを、少し考えてはみたが、俺の頭では何も分からなかった。また、武器が幾つ作れるのかも同時に考えたのだが、頭の中は靄がかかった表象を捉えただけだった。
そんなことを考えていたら、蛍が俺が聞きたかった質問のひとつをレウにぶつけた。
「それで、レウさんが極星鉱を使って、武器を作るのは分かりますが、何を、どれだけ作るんですか?」
「あーーー、そやな。いちおうな、みんなの武器の設計図は、この天才レウの頭のなかにあるんや。そやけどな……」
『天才レウ』を強調し、こめかみのあたりを指でとんとんと叩き、ツインテールを両手で掴み、頭の上まで持っていって、ふるふると振る。
「俺の、俺の武器はなんだ!? 何を作ってくれるんだ。教えてくれよ」
「人の話は最後まで聞こうな。幸介しゃん」
「あっ、すんません。どうぞ続けてください」
身を乗り出した幸介に、話の腰を折られたレウは、両手をツインテールから外して胸の前で組み、やさしい口調で幸介を抑える。窘められた幸介は、素直に謝り、どうぞと左手を出す。
「うん。あんたもええ子やな。そんでな、うちがイメージしてるのは、今ここにいる6人の、それぞれの特徴に合わせた6つの武器な。ここまでは問題ないな。ただな、7人目だけは、何が得意なんかまでは、予測はできてるんやけど、はっきりは分からんから……、無難な短剣にしようかと思うてるんよ」
「あのーーー。これ、聞いていいのか分かりませんけど……」
「なんや、ビビリーナ! さっきので、へこんでもうたか? 若いのに遠慮なんかせんでええんや。踏まれても踏まれても立ち上がるのが、雑草魂やろ」
「なんか、褒められてるのか貶されてるのか分かりませんけど……。まあ、いいや。あの小さな極星鉱で、そんなにたくさん武器を作れるんですか?」
「あーーー。そりゃ、普通の人には無理やろな。そやけど、うちはスーパー大天才やからな。問題あらへん」
「それが答えですか?」
「そや!」
いつものように胸を張るレウ。
答えにならない応えを受けて困った俺は、紅茶を一口啜りながら、助けを求めるように、ラウラに上目使いの視線を向ける。
「うふふふ。そうね……。でも、レウたんに任せておけば大丈夫よ! お姉さんが言うのもなんだけど、この子、本当に凄いのよ。第七世界では、レウ定数、レウの法則、レウ細胞、レウの最終定理、レウ効果とかがあってね、果てはレウ彗星なんてのもあるの。この子が名祖になったエポニムは100以上あるわね。それで、これでも、身内贔屓にならないように、控え目に言ってるんだけどね」
「エポニム! そ、それって、フェルマーの最終定理とか、ドッペラー効果とかって、言われるやつのことですよね。それがレウさん1人で、100以上って……、とんでもない凄さですね」
誰も解き明かせなかった真理を解き、存在が知られていないものを発見し、新しい奇跡を発明する。それが100以上。俺たちの世界よりも遥かに進んでいる科学、いや知の世界の頂点に、レウは立っていた。
「だから何度もゆうてるやろ。スーパー大天才やって。どや、尊敬したか?」
「はい!! マジでリスペクトします。なんか力が湧いてきますね。そんな人が味方でいてくれるなんて」
幼さが残る容姿、馴れ馴れしい口調や態度からは、とても想像できない知の英雄。自称のとさえ思えた『天才レウ』は、確かに目の前に存在した。
俺はレウを尊敬の眼差しで見つめ、心から味方でいることを喜んでいた。
「そ、そうか、そうか! もっともっと尊敬して、頼ってもええで」
レウは少し頬を赤らめながらも、ひとつ胸を叩き、満面の笑みを浮かべる。
俺とレウのやり取りを黙って見ていた蛍が、ここで、ひとつ笑顔を見せて、レウたちが解説してくれなかった疑問の答えを提供してくれる。
「アハハハハ。本当に、さすがレウさんね。それでさ、達也。極星鉱は、そのものを武器にするんじゃないのよ。極星鉱は素材のひとつ。それで、何と合わせるとかは詳しく分からないけど、たとえば鉄などの他の元素と融合させて、そのあと分解したり、不純物を取り出したりして、新しい金属、それこそ『レウ金属』とかを大量に作るの。そして、それで武器を作るんじゃない。もちろん武器によっては木材とか、革とか、他の素材も使うでしょ。どの部分に極星鉱を使うかとかはレウさんの頭の中にあって、あとはコッテの武器職人の人たちが、レウさんの指示通りに、実際の武器を作るんじゃないかな?」
「なるほど。そういうことか。うんうん、それならよく分かる」
相変わらず分かりやすい言葉で解説する蛍。極星鉱を使って、どんな風に武器を作るかのイメージが、しっかりと俺の頭のなかにも、形作られていった。
「まあ、ざっくり言うとそうやな。でも、ほたちゃん『レウ金属』はないわ! それはダサすぎるやろ。そこは、うちは二つ名を付ける名人やし、まだ、考えてへんけど、違う名にするな」
「アハハハハハハハ。そこにこだわるんですね。すみません。それは分からなかったです。どんな名前になるか楽しみにしてますね」
「そや! 大事なんや」
蛍が話しの流れで仮につけた『レウ金属』をダサいと言い、右手を何度も振りながら否定するレウ。その様子を見た蛍は、声を出して笑いながらも素直に謝り、俺たちは『そこ大事なの?』と苦笑いしながら、顔を見合わせた。
「でさー。俺の武器は何なの?」
「幸介しゃん、それはあとの楽しみや。まあ、スッゴイの作ったるわ。あっ、キャチャリンちゃんは、おはじきやからな」
「わたくし、それよりもレウたんと離れるほうが悲しいですわ。早く、お仕事終えて、帰ってきてくださいね」
「もう! そうやないやろ。それじゃ、うちがボケても意味ないやん」
「「「「アハハハハハハハハハハハ」」」」
結局、レウは幸介の武器は、あとのお楽しみとして教えることなく、キャサリンへのボケを投げる。しかし、キャサリンに思わぬ返しをされて、少し照れながらも、右手で、キャサリンに突っ込みを入れる。
キャサリンは、泣き真似まで入れて、レウに対応していたため、ベテランコンビの漫才を見てるような一幕に、皆の爆笑する声が、しばらくの間、部屋に響き渡っていた。




