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世紀末の七星  作者: 広川節観
第二章 蠢きだす世界
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39 天才レウ

 「そういえば、明日、養父様(おとうさま)が戻ってまいりますわ」


 いつものように訓練を終えて、和やかに食後のティータイムを迎えていたなかで、キャサリンが思い出したように、エドワードが戻ることを皆に伝えた。


 「姉さん、ようやく準備が整ったようやな」


 「そうみたいね。しばらく皆とお別れしなくちゃいけないのは、寂しわねー」


 「まあな。そやけど、お仕事せんとなっ!」


 「そうだね。私たちは、お姉さんだもんね」


 皆に聞こえるような声で話して、顔を見合わせるレウとラウラ。たんたんとした話し方であったが、そこには強い意志と、うら寂しさが混ざり合っていた。


 「えっ! レウさんたち、どこかに行かれるんですか?」


 「ああ。コッテ、コッテに行くんや。お仕事しにな。まあ、出発は明後日やろな」


 「コッテに行って、何をするんですか? ……、あっ!」


 「それ聞く? って、分かったんかい! ビビリーナは、少しは考えてから口にしないとおバカに見られるで。……大事なお仕事やろ」


 「そうでした、そうでした。失礼しました」


 「うふふふ。ほんと、ビビリーナちゃんは素直な、いい子ねー」


 「……まあな」


 俺の尻から出て来た鉱石・極星鉱(ポラリスオア)


 未来の預言者によって、残された四行詩のひとつであり、レウたちが名づけたトリプルスリーの最後の仕上げである『ジーニアス(レウ)が反撃の鐘を打つ』。


 つまりは、極星鉱(ポラリスオア)を使って武器を作ること。


 これが、レウたちがコッテに行く理由であり、エドワードがコッテに行ったのも、同じ理由で、先にお膳立てをしていたのであろう。


 極星鉱(ポラリスオア)が、どんな風に使われて武器になるのかを、少し考えてはみたが、俺の頭では何も分からなかった。また、武器が幾つ作れるのかも同時に考えたのだが、頭の中は靄がかかった表象を捉えただけだった。


 そんなことを考えていたら、蛍が俺が聞きたかった質問のひとつをレウにぶつけた。


 「それで、レウさんが極星鉱(ポラリスオア)を使って、武器を作るのは分かりますが、何を、どれだけ作るんですか?」


 「あーーー、そやな。いちおうな、みんなの武器の設計図は、この天才レウの頭のなかにあるんや。そやけどな……」


 『天才レウ』を強調し、こめかみのあたりを指でとんとんと叩き、ツインテールを両手で掴み、頭の上まで持っていって、ふるふると振る。


 「俺の、俺の武器はなんだ!? 何を作ってくれるんだ。教えてくれよ」


 「人の話は最後まで聞こうな。幸介しゃん」


 「あっ、すんません。どうぞ続けてください」


 身を乗り出した幸介に、話の腰を折られたレウは、両手をツインテールから外して胸の前で組み、やさしい口調で幸介を抑える。窘められた幸介は、素直に謝り、どうぞと左手を出す。


 「うん。あんたもええ子やな。そんでな、うちがイメージしてるのは、今ここにいる6人の、それぞれの特徴に合わせた6つの武器な。ここまでは問題ないな。ただな、7人目だけは、何が得意なんかまでは、予測はできてるんやけど、はっきりは分からんから……、無難な短剣にしようかと思うてるんよ」


 「あのーーー。これ、聞いていいのか分かりませんけど……」


 「なんや、ビビリーナ! さっきので、へこんでもうたか? 若いのに遠慮なんかせんでええんや。踏まれても踏まれても立ち上がるのが、雑草魂やろ」


 「なんか、褒められてるのか貶されてるのか分かりませんけど……。まあ、いいや。あの小さな極星鉱(ポラリスオア)で、そんなにたくさん武器を作れるんですか?」


 「あーーー。そりゃ、普通の人には無理やろな。そやけど、うちはスーパー大天才やからな。問題あらへん」


 「それが答えですか?」


 「そや!」


 いつものように胸を張るレウ。


 答えにならない応えを受けて困った俺は、紅茶を一口啜りながら、助けを求めるように、ラウラに上目使いの視線を向ける。


 「うふふふ。そうね……。でも、レウたんに任せておけば大丈夫よ! お姉さんが言うのもなんだけど、この子、本当に凄いのよ。第七世界(セージ)では、レウ定数、レウの法則、レウ細胞、レウの最終定理、レウ効果とかがあってね、果てはレウ彗星なんてのもあるの。この子が名祖(なおや)になったエポニムは100以上あるわね。それで、これでも、身内贔屓にならないように、控え目に言ってるんだけどね」


 「エポニム! そ、それって、フェルマーの最終定理とか、ドッペラー効果とかって、言われるやつのことですよね。それがレウさん1人で、100以上って……、とんでもない凄さですね」


 誰も解き明かせなかった真理を解き、存在が知られていないものを発見し、新しい奇跡を発明する。それが100以上。俺たちの世界よりも遥かに進んでいる科学、いや知の世界の頂点に、レウは立っていた。


 「だから何度もゆうてるやろ。スーパー大天才やって。どや、尊敬したか?」


 「はい!! マジでリスペクトします。なんか力が湧いてきますね。そんな人が味方でいてくれるなんて」


 幼さが残る容姿、馴れ馴れしい口調や態度からは、とても想像できない知の英雄。自称のとさえ思えた『天才レウ』は、確かに目の前に存在した。


 俺はレウを尊敬の眼差しで見つめ、心から味方でいることを喜んでいた。


 「そ、そうか、そうか! もっともっと尊敬して、頼ってもええで」


 レウは少し頬を赤らめながらも、ひとつ胸を叩き、満面の笑みを浮かべる。


 俺とレウのやり取りを黙って見ていた蛍が、ここで、ひとつ笑顔を見せて、レウたちが解説してくれなかった疑問の答えを提供してくれる。


 「アハハハハ。本当に、さすがレウさんね。それでさ、達也。極星鉱(ポラリスオア)は、そのものを武器にするんじゃないのよ。極星鉱(ポラリスオア)は素材のひとつ。それで、何と合わせるとかは詳しく分からないけど、たとえば鉄などの他の元素と融合させて、そのあと分解したり、不純物を取り出したりして、新しい金属、それこそ『レウ金属』とかを大量に作るの。そして、それで武器を作るんじゃない。もちろん武器によっては木材とか、革とか、他の素材も使うでしょ。どの部分に極星鉱(ポラリスオア)を使うかとかはレウさんの頭の中にあって、あとはコッテの武器職人の人たちが、レウさんの指示通りに、実際の武器を作るんじゃないかな?」


 「なるほど。そういうことか。うんうん、それならよく分かる」


 相変わらず分かりやすい言葉で解説する蛍。極星鉱(ポラリスオア)を使って、どんな風に武器を作るかのイメージが、しっかりと俺の頭のなかにも、形作られていった。


 「まあ、ざっくり言うとそうやな。でも、ほたちゃん『レウ金属』はないわ! それはダサすぎるやろ。そこは、うちは二つ名を付ける名人やし、まだ、考えてへんけど、違う名にするな」


 「アハハハハハハハ。そこにこだわるんですね。すみません。それは分からなかったです。どんな名前になるか楽しみにしてますね」


 「そや! 大事なんや」


 蛍が話しの流れで仮につけた『レウ金属』をダサいと言い、右手を何度も振りながら否定するレウ。その様子を見た蛍は、声を出して笑いながらも素直に謝り、俺たちは『そこ大事なの?』と苦笑いしながら、顔を見合わせた。


 「でさー。俺の武器は何なの?」


 「幸介しゃん、それはあとの楽しみや。まあ、スッゴイの作ったるわ。あっ、キャチャリンちゃんは、おはじきやからな」


 「わたくし、それよりもレウたんと離れるほうが悲しいですわ。早く、お仕事終えて、帰ってきてくださいね」


 「もう! そうやないやろ。それじゃ、うちがボケても意味ないやん」


 「「「「アハハハハハハハハハハハ」」」」


 結局、レウは幸介の武器は、あとのお楽しみとして教えることなく、キャサリンへのボケを投げる。しかし、キャサリンに思わぬ返しをされて、少し照れながらも、右手で、キャサリンに突っ込みを入れる。


 キャサリンは、泣き真似まで入れて、レウに対応していたため、ベテランコンビの漫才を見てるような一幕に、皆の爆笑する声が、しばらくの間、部屋に響き渡っていた。


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