表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世紀末の七星  作者: 広川節観
第一章 世界の秩序と混沌
22/293

22 ゴブリン襲来! ~迎え撃つ黒と金の美少女~

 99%の確率で、中央世界(セントラルワールド)の誕生日が、1999年7月1日だと解明したあとの数日間。


 俺たち4人は、謎めいた話や悲劇的な話を聞きすぎた反動からか、それらを吹っ切るように、いつもの場所での訓練に打ち込むことになる。


 汗を流して、体を苛め抜いて、すべてをいったん忘れて、ひとりで黙々と、ふたり一組で真剣に、あるいは4人での激しい訓練を繰り返す。


 日中は訓練に明け暮れ、汗だくになってオールコック邸に戻り、風呂に入ってさっぱりして、寝るという日々であった。


 ただ、その間に、ひとつだけ謎が解けていた。


 蛍にとっては、謎でもなんでもなく、『子どもでも、分かることでしょ』とは言わなかったが、すでに皆が知っていることだと思っていたようである。


 皆に解説する場面での、ずばりと急所をつく目力のこもった美しい横顔と、ただただ、唖然、呆然とする皆に対して見せた、少し拗ねた顔の可愛らしさは、特に印象に残っている。


 それは、夕食時、蛍のこんな会話から始まった。


 「ねぇ。あと3人の英雄って、どこにいるのかしら?」


 「あと3人いるのか? 初耳だぞ!」


 「ええ、聞いてませんわ!」


 幸介も、キャサリンも、いきなりの蛍の言葉についていけずに疑問の声を上げ、同じように俺も驚いて、蛍に確認の言葉を投げていた。


 「そうなのか?」


 「ええ、そうよ。それは……。ねぇ、みんなの七星刻(しちせいこく)の刻印、位置が違うでしょ。全部ひとつにまとめると何に見える?」


 確かに皆、位置が違っていて、すべて向かってで言うと、蛍は左上、キャサリンは右上、幸介は右下、俺は左下で、少し不格好だが、4人で四角形ができるような形であった。


 「4人でちょうど四角形のように見えるな、少し不格好だけどな」


 「そっ! でも、それは四角ではなくて、おおぐま座、北斗七星のひしゃくの水を掬う部分ね。それで、これはたぶんだけど、あたしのうなじにあるのが北極星なんじゃないかしら?」


 「「「へーーー」」」


 「大陸の形、英雄と預言者の総数、7月、これだけ7を見せられて、この形ならそうなるわよね。ちょうど5倍くらいで、うなじになるし。もしかしたら、あたしたちの第六世界(シクラメン)を含めた、別の世界の数も7つね」


 「「「ほーーー」」」


 「もうっ、みんなっ! へーとか、ほーとか、ちゃんと聞いているの!?」


 蛍は頬を膨らませ、桜色の唇を尖らせて、拗ねた顔をする。


 「ごめん、ごめん。でも凄すぎです、聖母様!」


 「ほたるは、能力アップで、推理力をマックスまで上げましたね!」


 「そうだな、少し分けてくれよ。ちょっとでいいからさー。ガハハハハハ」


 こうして、残りの3人の英雄たちの行方も俺たちのなかでは、重要なこととなったが、どこを探せばいいのかなど、見当がつくはずもなく、ただ、訓練に打ち込む日々を過ごしたのだった。


 ちなみに、蛍は拗ねたあと、すぐに機嫌を直して、7つあるまだ分からない部分も含めた、それぞれの星の名前を教えてくれた。


 それは以下のようになる。


 等級は少ないほうが明るい天体、つまり、よく見える星である。


  蛍    =ドゥーベ(アルファ星 2等星)

  キャサリン=メラク(ベータ星 2等星)

  幸介   =フェクダ(ガンマ星 2等星)

  達也   =メグレス(デルタ星 3等星)

  ??   =アリオト(イプシロン星 2等星)

  ??   =ミザール(ゼータ星 2等星)

  ??   =アルカイド(イータ星 2等星)

  ※アルカイドはベナトナシュとも。


 なぜ、俺が3等星なのかは謎で、納得がいかないし、少しショックだったが、幸介が突っ込まなかったので、俺は黙っていた。



     ◆◇◆◇◆◇



 アンカー・フォートまで出かけていたエドワードが、ようやく帰ってくるという知らせがブルーリバーに届いた日。


 その日はとても天気の良い日であったが、長い間、平和に暮らしていたブルーリバーの街に、大事件が起ころうとしていた。


 いつものように、訓練場で汗を流していた4人だったが、突然、街の平和を破る、門番の悲鳴にも似た大声が響き渡った。


 「ゴ、ゴブリンだ! ゴブリンの一団が門に向かって来るぞ! 門を守れ! 兵を集めろ!」


 蛍とキャサリン、俺と幸介とが、ちょうど分かれて組手をしていたときで、蛍たちは外へ出る門から200メートルくらい、俺たちは300メートルくらいの場所にいた。


 突然の門番の声が平凡な日常を破壊して、辺りにいた人は我を忘れて身動きひとつできずに、その場にへたり込んでしまう者や、我先にと内門へと走り出す者もいた。


 「ゴブリンの一団!? ちょっと、見てきますわ」


 「あっ、あたしも行く! 残りの矢筒を持ってきて!」


 「「せ、せ、聖母様! ま、待って、お待ちください!」」


 先に、門番の叫び声に気が付いたのは蛍たちで、すぐさまキャサリンが反応して走り出し、蛍も傍に置いてあった弓と矢筒を持って、後を追う。


 外へ出る門のほうが騒がしいことに、気が付いた俺は、幸介との組手を止める。


 「おい、幸介。なんかあったみたいだぞ」


 「うん? どうした?」


 ふたりで、門のほうを見ると、キャサリンを先頭にして、蛍とふたりの兵士が追いかける形で、門の外へ向かっている。


 「「行こう!」」


 すでに、その差は200メートルくらいになっていたが、すぐさま決断して、俺と幸介も蛍たちの後を追う。


 「幸介、なんか、ゴブリンとか言ってたみたいだぞ」


 「そうなのか? あいつらが攻めてきたのか?」


 「うーん、分からないけど、そんな感じかもな?」


 「まあ、行けば分かるだろ」


 「ああ」


 そして、俺と幸介が門の外に出みると……。



 堀の向こうで、蛍とキャサリンが勝利のハイタッチをしていた。


 少し離れたところには、額や胸に、矢が刺さったものや、棒手裏剣を食らったゴブリンたちが、バタバタと倒れていた。


 ルークとニコラスもいたが、槍や替えの矢筒を持ったまま、呆然としているようだった。


 「あれ、幸介。なんか、もう終わっているみたいだぞ」


 「ああ、そうみたいだな」


 少し拍子抜けした俺たちは、息を整え、ゆっくりと蛍たちのところに歩み寄って、声を掛ける。


 「ほたる、キャサリン。何があったんだ?」


 「ふふふん。おふたりの出番は、ありませんわよ。ねー、ほたるっ!」


 「まあ、そうね。ゴブリンたちが門に攻めてきたって言うから、ちょっとね。じゃあ、あとのことはお願いね。ルークさん」


 「はっ! お任せください、聖母様。おい、お前、近くにいる兵士や傭兵を集めてこい」


 蛍にお願いされたルークは、一瞬で正気に戻って、ビシッと敬礼して蛍に応え、側にいた門番に命令を出す。


 門番も槍を持って、さあ戦うぞ! という恰好で固まっていたが、ルークの命令を聞いて、槍を置いて慌てて走り出す。


 「ありゃりゃ、また派手にやったねー。30匹くらいいるんじゃない?」


 「そう? あたし3回しか撃ってないわよ。3つも矢筒を持ってきたのにさ!」


 「ええ、わたくしも飛んだのは3回ですわ!」


 はいはい、あなたたちの3回は15本の矢と21本の棒手裏剣でしたね。それに、その口ぶりだと、5連射で、順に的を変えて、1回で5匹を倒したんですね。離れ業ですよ、それ!


 そりゃあ、30匹程度じゃあ、あっという間に全滅しますね。出番があるわけないですよね。よーーーく、分かりました!


 それに3つも矢筒って、ひとつを空にしておいて……。また背負い直して撃つつもりだったんですか? 45本になっちゃいますよ!!


 「ハハハハハハ」


 オーバーキルな、ふたりの強さとレベルの違いを考えていて、思わず笑ってしまう俺であった。


 蛍は、ルークたちに、いくつもの矢筒を用意してもらったようで、訓練時でも常時5セット(1セット15本)は傍に置いていた。


 運んでいるのは、たいていニコラスだったが。


 それでも、物足りないとでも言いたげで、嬉しそうに、それぞれの成果を褒め合いながら、門へと戻る美少女たちの姿を、俺は苦笑いしたまま見送る。


 「相手が悪かったな、ゴブリンども! ガハハハハハ」


 幸介は、ふたりが無傷だったとことに安心したのか、楽しそうに笑っていた。


 だが、この時、誰も気が付いていなかったが、遠くの木陰で、蛍たちの戦いを注意深く監視していた一団がいた。


 それは、兵たちに突撃を命じた指揮官らしき、数人のゴブリン兵たちだったが、全滅した味方の様子を目の当りにして、すでに震えていた。

 

 「全滅!? な、なんだ、あいつらは。撤退だ、逃げるぞ! ……って、もう逃げてるし」


 他のゴブリン兵よりも見栄えが良い革鎧や兜を被り、武器を持った一軍の将らしいゴブリン兵は、先に逃げ出した兵たちに向かって『隊長を置いて、逃げるやつがどこにいる!!』と叫びながらも、一目散に、北の領地へと逃げていくのであった。



     ◆◇◆◇◆◇



 自分たちは、凄いことをしたとは思っていないようだったが、蛍とキャサリンの活躍はたちまちブルーリバー中、いや人類のすべての街に広まっていった。


 「ふたりの美少女が、30匹のゴブリンを瞬殺したってよ」


 「黒髪の美少女は天才だっていう噂、お前聞いたか!?」


 「強くて、美しくて、華麗な金髪の英雄が現れたぞ」


 「なんでも、黒髪の英雄の弓は、百発百中だってよ」


 「金髪の美少女は、空を飛んで攻撃したそうだ」


 「人類の反撃開始だ!!」


 「今日は酒が上手い! 黒と金の英雄に乾杯!!!」


 その夜、各街の酒場は、蛍たちの話題で持ちきりとなり、賞賛、礼賛、崇拝、歓喜の声が、一晩中続いていた。


 あとで、それらの内容を聞かされて、『そうかな?』『それほどのことではありませんわよ』と言いつつも、いつまでも続く賞賛の言葉に『てへへへ』と、後頭部を掻いて照れるふたりであった。


 ただ、エドワードの反応だけは違っていた。


 夕方近くに街に戻り、事の顛末を聞くと、『オーマイガー!』と言ったまま頭を抱え、すぐさまルークとニコラスを呼びつけ、それから夜更けまで、延々と説教する声が、オールコック邸に響き渡ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ