16 最強チーターの覚醒!
幸介、キャサリンとの半分「しごき」のような特訓のなかで、自分の特に上がる能力が、瞬発力だと確認した俺は、蛍の能力アップが気になり、今朝はまだ見ていない蛍の所在を確認した。
「そういえば、ほたるは?」
「ああ、あっちで弓の練習をしてるよ」
幸介が指差したほうを見てみると、広い場所で、弓道場と同じくらいの距離(通常は20メートル)を取って、蛍は弓の練習をしていた。
その傍には、護衛なのか、槍をもった甲冑姿の兵士がふたり、辺りを警戒しながら立っているのが見える。
あれでは、逆に敵に教えているようなものだろ? と思ったが、蛍の連射を見て、その考えは一瞬でどこかへ消えてしまった。
「あれ? あいつって、あんなに撃つの速かったっけ?」
「うん、どれだ? おお、そうだな。速いな!」
「えーーーーーー、ちょっと待て、あれって5連射? しかも全部当たってるようだぞ!」
あまりのことに驚いて、この辺りで、引き続き柔軟運動を続けると言うキャサリンと別れて、俺と幸介は、蛍の様子を見に行くことにする。
「おはよう、ほたる。調子はどう? その人たちは誰?」
「あ、ふたりとも! おはよう。そうね。いい感じなんだけど……。あっ、この人たちは護衛だって。キャサリンと一緒に家を出たかったんだけど、あたしだけエドワードさんに呼びとめられて、紹介されたの。いらないって言ったんだけどねー。それなら家から出ないでくださいって、お願いされて仕方なくね。弓とか的とかも用意してもらったし……。ふたりは、練習の邪魔はしないって約束だから。ねっ、ルークさん、ニコラスさん」
「はい、聖母様。我らはあなた様を守る壁です。もし、危険が迫れば、私たちが犠牲になります。もちろん、英雄の皆さまの邪魔はいたしません。物言わぬ壁として扱っていただければ光栄です」
ルークと呼ばれた兵士が一気に緊迫感を高める、あまりに現実離れした言葉を発し、俺たちふたりは、重い空気に押し潰されて、黙りこくってしまった。
沈黙を蛍が破る。
「ねっ、なんか重いでしょ? 壁とか犠牲とか止めてほしいわよね。あたし、そんなことさせないわよ。それにみんなに、あたしがいるように、あたしにも幸介、達也、キャサリンがいるのにね。そう言ったんだけどダメだってさ」
俺たちは『だな』『ああ』と答え、3人は顔を見合わせて、笑顔に戻る。
「まあ、事情があるようだし、あとでそのあたりのことは、おっさんが教えてくれるだろ。そういうことなら、ふたりともよろしく頼むわ。犠牲とかは勘弁してほしいけどな……」
「「はっ! ありがたきお言葉、痛み入ります」」
幸介が、恐らく年上であろうふたりの肩を軽々しく叩きながら、話し掛けたが、俺たちが年下というのを意識したり、怒ったそぶりもなく、再び、堅苦しい答えが返ってくる。
『はぁー』と、3人で同時にため息をつくが、ふたりは、真剣な表情を一切崩さずに、周囲に目を向ける。
それからは、自分たちを物言わぬ壁と言ったふたりの兵士は、蛍が動くとずっと一緒に行動し、蛍の傍を離れない状態を続けるのだった。
口には出さなかったが、このふたりは、VIPを守るSPだなと、俺は考えていた。
◆◇◆◇◆◇
「そういえば、ほたる。その弓は長弓? それと矢筒を背負ってるんだね」
「うん。ちょっと小さ目だけど、1メートル以上はあるから、長弓だろうね。矢と矢筒もエドワードさんに借りたの。あまり使ってないんだって。かわいそう」
「アハハハハ、それで、なんか連射してなかった?」
「ああ、あれね。背中から矢を取れるので、何発連射できるのかなーって試してたの。そしたら3連射は簡単にできて、4連射からは何度か失敗もしたんだけど、なんとか矢を連続で飛ばせるようになったので、今度は5連射に挑戦してたの。たぶん3秒に1本くらいかなー」
「えーと、なんていったらいいのかなぁー。それって凄すぎじゃない? 速射って、確か1分で10本、6秒に1本でも、弓の熟練者とか言われているのに、その半分なんだけど。しかも、全部、的に当ててたよね?」
「そぉ? えへへへ。能力アップのおかげね」
蛍は、少しハニカミながら嬉しそうにしているが、元々弓では全国までいったアマチュアのトップレベルといっていい腕だったので、パワーアップしたらそうなるか、それにしても凄いな、と俺は考えていた。
ただ、この時点では、蛍の本当の凄さは、まったくと言っていいほど、分かっていなかった。
このしばらくあとに、俺はとんでもない能力を目の当りにして、ただ、ただ、呆然として、笑うしかない状態になるのであった。
それは、蛍の次の言葉から始まった。
「ねぇ。少し離れたところから撃ってみたいから、そこに的を置いておくので、射線上に人が来ないように見張ってて」
「「ああ、分かった」」
蛍は、そう言うと俺たちに背を向けて、どんどん離れていった。もちろん、護衛のふたりも少し離れて一緒についていく。
このとき使った的は、弓道で使うものと同じようなものを即席で作ったのか、直径は30センチメートル(弓道の的は36センチメートル)くらいの丸い桶の底を抜いて、羊皮紙に3重の○を書いて、綺麗に張ってあるものだった。
蛍はそれをいくつか用意していて、ここまで持ってきていた。たぶんルークとニコラスが持ってきたんだろうが……。
俺は、離れるといっても、せいぜい100メートルくらいかと思っていたが、蛍はずんずん歩いていって700メートル近く離れたところで、こっちを振り返った。
「おーい、そんなに離れたら届かないだろーー」
「えー? なーに? 聞こえなーい」
俺は大声で、蛍に離れすぎだと注意しようとしたが、蛍は耳に手を当てて、手で×をしてくるので、聞こえてないようであった。
「行くよー!」
蛍が手を振って合図する。
俺たちが、手で○を作って合図を返すと、蛍は斜め上空に向かって弓を構えて、第一射目の矢を番えた。
「なあ、幸介。さすがにこの距離は無理だろ。700メートルくらいはあるぞ」
「ああ、いくらほたるでもな。どこまで届くかの実験だろ?」
幸介とふたりして無理だと言い合い、蛍には蛍なりの練習方法があって、どこまで届くかを確認するためだということで、納得した。
遠くて、よくは見えないのだが、構えた弓から第一の矢が放たれたあと、すぐに第2射、第3射……と、またも5連射で矢を放っているようだった。
次の瞬間。
「バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ」
蛍が5連射で空に向かって放った矢は、きれいな放物線を描き、すべてが的に突き刺さっていた。
アングリ…………。
俺と幸介はあまりのことに、口をあんぐりと開けて声も出せない状態でいると、蛍が走って近寄ってきて、的に当たったかどうかを確認して大喜びする。
「わーーい! 全部当たった! やったぁー!」
無邪気に喜んでいる蛍であったが、俺と幸介はあんぐりが直らないまま顔を見合わせ、蛍だけは絶対に怒らせてはいけないと、目だけで語り合うのだった。
◆◇◆◇◆◇
「す、す、凄いね。アハハハハハ」
700メートル先から5本の矢を当てるって、弓ではなくてライフル持ったスナイパーレベルでしょ。それに5連射。
しかも、しばらく使われてなくて、きっと手入れもされてない弓で。……ってことは、いい弓と矢を持たせたら、1キロ越え? それとも2キロいっちゃうの?
そりゃ、確かギネスで、矢をどれだけ遠くへ飛ばせるかってのがあって、約1854メートルとかあったけど、それは弦を足で引いてたからね。
驚きすぎて呆れていた俺たちの様子を見て、『てへへ』と照れながらも、嬉しそうな、幸せそうな笑顔を見せる蛍であった。
これは、チートのなかのチートだ。
無双とかとは違う次元、もっと高いレベルのチートだろ。キャサリンと幸介の必殺技が、ただの子どもだましに見えてくる。
遠距離5連精密射撃。
あれ、もしかして、もしかして、的が動いていても予測して、当てるんじゃない? と思ったので、一応、蛍に確認してみる。
「それで、ほ、ほ、ほたるさん? もし的が動いていたらいけそうですかね?」
「うーん。どうかなー、集中すればいけると思うけど」
「アハハハハハハ。そ、そうですか。集中、集中ね」
5連発の誘導ミサイルに昇格、決定! そんなの避けれねー。狙われたら、完全に死亡フラグ…………、じゃない、死んだわ。
たとえば、ロールプレイングゲームとかで、フィールドで敵と戦ってる最中に、画面外とかから誘導ミサイル5発。避けれないよね? 無理だよね? うん、無理!
言葉には出さなかったが、俺はあまりのことに、頭の中がおかしくなり、ただ、ただ、笑ってしまっていた。
「アハハハハハハハハハ」
そのあと、蛍は『動いてる的に当てたい』とか言って、300メートルくらい離れ、ニコラスに的を投げさせて、的が空中から落ちるまでと落ちた後まで、しっかりと5本の矢を、すべて的に当てるという離れ業を成功させるのであった。
あまりの凄さに忘れかけていたが、蛍の特に上がった能力が、集中力であると判断できたのは、この超能力者レベルの射撃を見たときだった。




