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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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305 転生者会議

 今いるツリーハウスは四階建てとなっている。
 木の中をくりぬいて作った家に四階建てという言い方が当てはまるのかどうかはこの際気にしない。
 で、一階は食堂となっている。
 机がいくつか配置され、椅子もそれに対応してある。
 ただ、今は机は端に寄せられ、椅子だけ出されてみんな思い思いの位置に座っていた。
 机があると私たちの話が聞きにくいと、工藤さんが指示して片してしまったのだ。

 転生者たちは、私を中心にして半円を作るように座り、話が始まるのを待っている。
 そう、私を中心にして!
 なんでや!
 そこ、鬼くんが中心でいいじゃん!
 さっきまで鬼くんが主体になって話してたんだから、そのままの流れで続ければいいじゃん!
 だというのに、鬼くんはしれっと中心を私に譲り、一歩下がった横に座ってしまった。
 その目が訴えている。
 私が喋るべきだと。

 いいから。
 そういうなんか変な気を使わなくてもいいから!
 くうー。
 これだから真面目な奴はダメなんだ!
 規律に厳しい奴はこういう時に融通が利かなくて困る。

 透視を使って、首を動かさずに隣に座っている鬼くんを見る。
 微動だにしてねえ。
 私が喋るまで動く気が全くありませぬ。

 困った。
 助けを求めて鬼くんと反対側の隣を見る。
 そこには、なんかムスッとした顔をした吸血っ子。
 こっちもこっちで動く気配なし。
 ダメだこりゃ。
 むしろこいつに喋らせると余計なんか事態をややこしくしそう。

 正面を見る。
 そこには腕を組み、ついでに足も組んでこっちを見つめる工藤さん。
 前世でも目つきが鋭かったけど、今世でも切れ長の目の美人さんな工藤さん。
 そんな工藤さんが睨みつけるような感じで見つめてくると、威圧感が半端ない。
 威圧のスキル持ってますか?

 そして、その工藤さんの隣では、先生がそわそわと落ち着きなく座っている。
 目線があっちこっちに飛びまくり、体もそれに合わせてもぞもぞと動いている。
 ほぼ何も知らない転生者は、訳もわかってないから緊張とかそういうのとは無縁。
 けど、変に事情を知ってるから、これから何が起きるのかわからなくて落ち着かないのかな?

 転生者視点だと、ホントに何もわかんないはずだしなー。
 話し合おうって言われれば、説明欲しさに食いつくのはわかる。
 ただ、先生視点だとちょっと事情が変わってくる。
 先生は吸血っ子や鬼くんが魔族陣営に所属していることを知っているっぽいし。
 帝国軍が攻めてきたと思ったら、魔族陣営にいるはずの転生者二人が訪ねてきた。
 そりゃ、混乱する。
 先生は夏目くんと戦ってる最中に気絶しちゃったわけだし、戦いの結末がどうなったのかとか、なぜ魔族陣営の二人がいるのかとか、いろいろと気になることが多すぎて考えがまとまらないのかも。
 しかも、先生はポティマスのクソにいろいろ変なことを吹き込まれているせいで、何が正しくて何が間違っているのか判断ができていない。
 情報があるがゆえに、他の転生者と違って混乱も大きい。

 山田くんと大島くんがこの場にいないのは、ある意味正解かもしれない。
 あの二人はこの場にいない。
 山田くんはまだ目覚めていないらしいし、大島くんもその山田くんに付き添っているようだ。
 長谷部さんは取り乱しっぷりが激しかったとのことで、強制睡眠中。
 この三人は先生が倒れた後も戦闘を続けていたし、その後の展開もある程度知っている。
 特に最後まで気を失わなかった大島くん。
 彼らはいわば当事者だからねー。
 ほぼ巻き込まれただけの他の転生者たちとは事情がかなり違う。
 説明をするにしても、彼らがいたんじゃ、荒れるのは必至。

 縛られている草間くんと荻原くん以外の転生者も、それぞれ態度に違いはあるけど、こっちの話を聞く姿勢になっている。
 先生以外は素直に聞いてくれそうな感じ。
 山田くん一行がいない今、他の転生者たちを丸め込む絶好の機会!

 なんだけど、気分は四面楚歌。
 隣には彫像のように不動の鬼くん。
 反対にはこれまたムスッと固まった吸血っ子。
 正面には早く説明しろと威圧を込めてくる工藤さん。
 先生はチラチラとこっちを落ち着きなく見てくるし。
 他の転生者たちもじーっとこっちを見てきている。

 逃げていい?
 ダメ?
 このメッチャ注目集めてる状況で説明しなきゃダメ?
 ダメっすか、そうっすか。

 えー、えー。
 えっと、こういう時は、まずは時候の挨拶から?
 本日はお日柄もよく?
 それはなんか違うか。

 ていうか、そもそも何から説明すればいいん?
 転生者たちはなーんにも知らないわけで、一から十まで全部説明しなきゃいけない。
 けど、その一ってどこ?
 この世界、ていうかシステムの成り立ちから話す感じ?
 えーっと、けどそれって転生者たちにいきなり話しても寝耳に水で、今知りたいこととは違くね?
 転生者たちが今一番知りたいことは何だ?
 それを考えると、うん、こうか?

「まず、あなたたちは現在魔族の捕虜となっています」
「は?」

 工藤さんが一瞬呆気にとられたような表情をした後、険しい顔つきになる。
 他の転生者たちもざわっとして、取り乱し始めた。
 あ、これ、間違ったパターンだ。

「静粛に!」

 鬼くんが立ち上がり、手をパンパン叩いて転生者たちを落ち着ける。

「大丈夫。捕虜って言っても別に酷いことにはならない。捕虜というよりかはむしろ保護って感じだから。そこは安心してほしい。さっきも言ったけど、僕らはみんなに危害を加える気はない。だから、おかしなことを言ってもとりあえずは最後まで話を聞いてほしい。いいかな?」

 真摯な鬼くんの言葉に、ざわついていた転生者たちが落ち着いていく。
 田川くんと櫛谷さんだけは、落ち着いた中にも警戒を失っていないけど、それ以外は一応話を聞く感じになった。
 ふう。鬼くんグッジョブ!

 エルフの里で生活してても、やっぱり魔族というのは人族の敵って感じで恐れられてるか。
 いきなりその魔族の捕虜になってますって言われたら混乱もするよね。
 イヤー、失敗失敗。
 鬼くんがとりなしてくれてよかった。

「えっと、つまりどういうこと? あなたたちは魔族に加担してるってわけ?」

 工藤さんが額を手で押さえながら聞いてくる。
 いつもだったら肯定の意味で頷くだけだけど、今回はそれだけだと言葉足らずでやばいってことくらい私にもわかる。
 何か、何か喋らないと!
 あー! うー! おー!

 ……むー、これだけはあんまやりたくなかったんだけど、背に腹は代えられない。
 ここはプライドをいったんしまって、やるしかないか。
 スイッチを切り替える。

「そうです。ちなみにここにいる私たち三人は人間ではありません」

 言葉とともに目を開ける。
 邪眼は完全にオフにし、私の目を見ても異常をきたさないようにしたけど、それでもこの不気味な目を見た転生者たちが息を飲む。
 ついでに、私の雰囲気が変わったことに気づいた吸血っ子と鬼くんも息を飲んでたけど、そっちは無視。

「私たち三人はとある目的のために魔王に協力しています。それについては後程説明しましょう。今は現状の確認が先です」

 スラスラとよどみなく言葉をつぐむ。
 自分の口から出てるというのに、自分で驚いている私がいる。
 私には私のものではない記憶がある。
 それが、若葉姫色、Dの仮初の姿の記憶。
 その記憶を基に、若葉姫色の人格を再現する。
 これが若葉姫色モード。
 このモードになれば、考えたことをそのまま口にすることができる。
 だって、若葉姫色は口下手でも何でもなったのだから、喋れないほうがおかしい。
 だけどこのモード、要は私がDのフリをしていることに他ならない。
 この私が、あのDの!
 なんという、なんという屈辱!
 だからやりたくねーんだよ!
 けど、これをやらないと私はまともに喋ることができない!
 故に、我慢だ。

「まず、帝国の軍がこのエルフの里に攻め込んだことまでは聞き及んでいると思います。私たち魔王軍は帝国軍の背後からエルフの里を襲撃しました。夏目くん率いる帝国軍は囮だったのです」

 私の言葉にざわつきだす転生者たち。
 その中でも先生の顔色は相当悪い。

「その話、俺にも詳しく聞かせてもらえないか?」

 その時、二階へと続く階段から降りてくる人影があった。
 あちゃー。
 来ちゃったかー。

 タイミング悪くこの場に現れたのは、気を失って寝込んでいたはずの山田くんだった。
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