プロローグ
むかし、むかし、あるところに、一人の少女が居ました。
両親は、ある事情から少女が産まれてすぐに一人の魔法使いの元に預けました。
魔法使いは快く少女を養子として迎え、いつか両親と共に暮らせる日まで預かる事にしたのです。
産まれたばかりだった少女は、自分の両親の事は何も知りませんでした。もちろん自身の家族の事も、何も知らなかったのです。
魔法使いは、彼女に様々な知識を与えました。
最初は、最低限の事を学ばせるつもりでしたが、少女の理解力と想像力は突出しており、そこから生まれる発想に魔法使いは何度も驚いたのです。
そして、知り得る知識を全て教える事が、少女に必要であると、魔法使いは判断しました。
しかし、魔法使いの持つ知識は、長年の研究から得た知識であり、本来なら一朝一夕に理解できる様なモノでは無かったのです。
けれど少女は、その知識を全て理解していました。
多彩に、そして理論に収められた堅実な知識でも、柔軟で一定の規則に囚われない思考によって全く違うモノとして顔を出したのです。そのような考え方が出来るのは、少女の持つ特徴であると魔法使いは感じました。
中でも少女が秀でていたのは、“魔術”と“剣術”であり、それは師として教えた魔法使でも眼を見張るものがありました。
そして、彼女が16になった頃、ある一族の王様が少女の噂を聞きつけて魔法使いの元へやってきたのです。
王様は、少女の身体に流れる血の種族の『王』であり、義手の片腕が象徴的な人物でした。
敵の種族によって、自らの種族が滅亡の淵に立たされている。どうか、助けてほしい。
その言葉に、魔法使いは少女に選択を委ねました。
そして、彼女は『王』と共に同族を救う事にしたのです。
敵を倒し、同族を救った少女に、多くの者は感謝しました。
しかし、その祝いの宴の席には少女の姿はどこを探しても見当たりませんでした。
同胞たちは知り得る限りの場所を捜し回りましたが、少女はどこにも居ませんでした。
まるで、最初から彼女はいなかったかのように忽然と姿を消したのです。そして、その後を知る者は――誰も、誰も……いませんでした。
そう、彼女の親代わりに育てた魔法使いさえも……