19、まことちゃんとの別れ(終)
また来ますと言い残し、ボロボロの家を出ると、少し申し訳なさそうに少女が佇んでいた。
制服姿の小さな女の子は、目の前に近付く俺の瞳をじっと見つめていた。
「まことちゃん、説明、してもらっていいか?」
「わかりました。今の良近さんには喜んで説明しましょう」
「頼む」
「消滅したのは、橘家の先祖が生きた記録です。功績も、勲章も、感謝の証も、良いものは全て。橘の家に残る昔話も全てが変化しています。功労者どころか、村のごくつぶしで犯罪一族。これでも改善が見られない場合は、良近さんの親が肩書きを失ってホームレスになる……という予定でした。最終的には、お姉さんには消えてもらうつもりでいました」
「そうか」
「どういう形であれ、滞納していた料金が支払われたので、途中で止まりました」
「なぁ、まことちゃん」
「はい、なんでしょう」
「やり直すって誓ったら、橘の家は元通りになるかなぁ」
「そうですね」
「あの天使みたいな女の子とのことも、なかったことに、なるかなあ」
しかしまことちゃんは無言を返した。
「やり直したい」
と、俺は言う。心から。
「では、お別れです。目を閉じてください」
優しい声に促されて、俺は目を閉じた。
簡単に意識を失った。
気が付けば、コンビ二で買い物して帰って来た俺は郵便受けの前に立っていた。
夢、だったのだろうか。夢だったのかもしれない。
白昼夢ってやつだろうか。
どこからが夢だったのだろうか。
春のあたたかい日差しを受けながら、郵便受けをチェックする。
うすっぺらい、一通の封筒だけがあった。
宛名は橘良近と、俺の名前が刻まれている。差出人は不明だった。
不審に思いながら、何度もぺらぺらと裏返してみたりして、二階の突き当たり、角部屋の扉を開ける。
扉を開けると、誰も居なかった。
誰かが居るような気がしたんだけどな。
封筒を丁寧に破り開けて、中身を取り出す。
『さあ、あなたは赦されました。あなたの返済計画は、これから始まるのです』
悪質なイタズラとか、サラ金の広告か何かだろうか。
ふと畳の上に視線を落とすと、『近い鱒←これ何と読むでしょう?』とポップな可愛い字体で書かれたボードが転がっていたりもして、夢と現実が混濁しかけている気がして頭を抱えたい。
でも、それらの品々を何故だか捨てられずに、机の上に置いたまま、遅刻してはたまらないと、面接に向かうために着替えた。
兎にも角にも、しばらくぶらぶらしていた俺だったけれど、ようやく向かう道のために歩き出そうと思えるようになった。
二十三歳、無職……というのはプライドが許さないので、二十三歳、職探し中。
最低に近い俺だけど、今日も何とか生きている。
【おわり】




