01、まことちゃんとの出会い
まだ肌寒さが残るものの柔らかな日差しが暖かい、ある春の日のことだった。
「これは、どうしたことだ……」
俺は、アパートの郵便受けに届いていた封筒を手の上で広げて、呟いた。
入っていた一つの郵便物に踊る文字は、
『振込依頼書』
振込む先が指示してあり、謎の白黒バーコードが刻まれていて、さらに、開封して中身を見てみたところ『支払期限日。三月十五日。期限日から順次サービスが停止されます』という文字まで躍る。
ええと、三月十五日というと、ちょうど今日じゃないか。しかし今日までに取り扱ってるところで払わねばならんというのはいきなり今日言われても無理なんじゃないか。と、そこまで考えてみた俺は、
「何だい、これは。どういうことだ」
そんな風に自問してみる。
片手にあった封筒の宛先と差出人を確認してみる。裏返そうとした時に、日光がビニール部分の反射を利用して俺の眼球を攻撃してきて、少し不快だったが、とにかく目を落としてみる。
「えっと……宛先は……届氷良近、か」
俺の名前だった。珍しい名前なので、誤送とか誤配の類ではないだろう。
そう、信じたくないが、自分宛てであった。
「差出人は……モバイル、ってことは……」
契約してる携帯電話会社か……。
「つまり、あれだ。携帯電話料金の催促状であろう」
自答した。
くっ、銀行からの自動引き落としにしておいたというのに催促状が届くということは、銀行に預けている料金が携帯代を下回っているということではないのか。
うーむ。これは困ったことになったぞ。
何せ俺には金が無いのだ。明日の食事にも困っているような状況だ。携帯は払わんでも死にはしないが、メシは食わねば死んでしまう。
俺は、とりあえず、それを無視することに決めて階段をのぼる。アパートの二階、一番奥の角部屋に俺の部屋があるので、そこに向かう。
それにしても携帯料金か。これはまずいことになった。固定電話なんて無いから、携帯が無くては誰とも連絡がとれないではないか。家族に小遣いを無心することも難しくなる。
俺は二十三歳であるが、恥ずかしながら仕事が無い。
要するに無職である。
目に余る怠けぶりのせいで、住んでいた家を追い出されてアパート暮らし。そんでアパート代もはじめは親が払っていたものの、いつの間にか親からの援助が消滅し、通帳には家賃を払う金すらない。
これはもう、無理だと判断したいところだ。
いやしかしまぁ、とりあえず、携帯が通じるうちに親にでも相談してみよう。
もしかしたら、それなら家に戻ってもいいぞと言ってもらえるかもしれない。
脳内でそんな腐った皮算用を展開しつつ、俺はアパートの一室へと続く扉を開けた。
玄関を開けたところ、知らない女がそこに居た。
制服を着ていた。セーラー服だ。
母ではない、祖母でもない。母や祖母が制服着てるとか考えたくも無い。もっとずっと、はるかに若い。姉よりも更に若く、自分よりもずっと若く見える。それは、中学生か高校生か、どっちだろうなと判断に困るくらいの、まだ幼さが残るような、とても若く小さな女の子だった。
くりっとした瞳が可愛らしい、小さな子だ。
そんな知り合いは居なかった。いとこは全員そろって男だし。
突然、扉を開けたら家に居るJKもしくはJC。ある意味で、夢のような展開にも思える。
部屋を間違ったのかとも思ったが、家具とかは俺のもので、そもそも二階角部屋であるこの部屋を間違えるとか難しすぎだし、確かに此処は俺の部屋だ。
「おかえりなさい、届氷良近さん」
「え、あ、おう。って、誰? メイド喫茶じゃなくて俺の部屋だよな、ここ」
「はい、勝手にお邪魔させてもらいましたです!」
それが、俺と時田まことの出会いだった。




