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4話


――って、千亜希のやつ、簡単に言ってくれるけどさあ……


どうやってやれってんだよ! 知らねーよ、そんなの!

なんか勝手に期待してくれてるけど、俺そこら辺にいる普通の男子高校生だぞ?


まあ、確かにレンタル彼氏のバイトのおかげで、女の子相手にちょっとは慣れた。

慣れた……けどさ。


それでも『姉さんたちを寝取ってこい』 とか――無茶苦茶だろ、ほんと……。


翌朝。教室の自分の席に腰を落として、机に肘をつく。

頭の中は昨日の千亜希とのことでいっぱいで、ため息ばっかり漏れてくる。

 

──いかんいかん。まずは落ち着け俺。


俺の役目は百合と百合先輩を千亜希から奪う、つまり寝取るってこと。

 

で、第一ターゲットは――百合菜月。


……いや、無理ゲーじゃね?


普通に近づいて、仲良くなって、恋人みたいな関係に……って?


いや、千亜希がそんなこと満足する気がしない……。


で、仮に百合といい感じになったとして――

次は百合先輩とも仲良くなって、また恋人みたいな関係に……?


「…………」


それ、二股ってやつじゃないのか!?


いやいや、ヤバいって。


バレた瞬間、俺は校内で罵詈雑言ゴミクズ野郎扱いだぞ。二度とお天道様の下を歩けなくなる未来しか見えないんだが。

 

 じゃあ、やらなきゃいい。


……そうしたらどうなる?


「…………」


怒った千亜希が、俺がレンタル彼氏してるって言いふらす。

そしたら俺は、女の子から金もらってるゴミカス野郎扱いだ。最悪だ。


そんな称号つけられたら、夜道どころか昼間も歩けねえよ。


どっちに転んでも母さんに迷惑がかかる。


……詰みじゃん。


周りではクラスメイトの笑い声やおしゃべりが飛び交ってるのに、

俺だけが教室の真ん中で、ひとり静かに詰んでいる。


……やばい泣けてきた。

 


――と、そのとき。


ふと視線を上げると、前の方で百合がクラスの陽キャ女子たちと楽しそうにしゃべっているのが目に入った。明るい笑い声が耳に飛び込んでくる。


(……ほんと、よくもまあ、人目も気にせずあんな大声で喋れるよな)


「ねぇねぇナツ、ナツ〜聞いてよ〜。この前買ったリップ、マジで良くってさ〜! 遥斗にも似合うねって言われちゃった〜」


「え〜、ちゃっかり彼氏自慢〜?」


「違う違う〜! これ、ナツにも似合うかな〜って思って〜」


「えー、あたし今のやつも気に入ってるし、どうしよっかな〜」


聞き流していたら、別の女子が思い出したように口を開いた。


「てかさ、ナツ。夏休み前にサッカー部の部長に告られたんでしょ? マジ?」


「ん〜、まあね」


「え〜、もったいな! あの先輩めっちゃイケメンじゃん!!」


「ダメダメ。あんなの全然、私と釣り合ってないし〜。てか、ああいうのちょっと無理なんだよね〜」


「お、言うね〜ナツ」


女子たちは笑いながら、またコスメと恋バナに戻っていく。


(……こういう女子のノリほんと苦手だわ)


「ま、ナツはイケメンの大学生と付き合ってるしね〜。ちょっと顔がいいくらいのあんな先輩、眼中にないでしょ〜?」


(……え?)


その一言で、背筋が固まった。


今の、聞き間違いじゃないよな……?


「まあ、そりゃね」


百合はニヤリと笑って髪をかき上げる。クラスの空気が一瞬だけ明るくなる。


……けど、そんなことはどうでもいい。


(……大学生の彼氏? “いる”ってこと?)


“イケメン”とか“大学生”とか、正直どうでもいい。問題は――彼氏がいるってところだ。


(つまり、百合には彼氏がいる。それって、つまり――)


(これ、マジで寝取りじゃねーか!!)


心の中で絶叫した。

 

 聞いてねぇよ、そんな話……!


千亜希の話ぶりからして、てっきり百合はフリーだと思ってたのに。


……いや、そもそも「寝取ってください」なんて言葉が出る時点で、彼氏がいてもおかしくないのか。最悪だ。


(いやいやいや、マジでヤバいって。仮に成功したら俺は本当に寝取りカス野郎。そのあと百合先輩にまで手ぇ出したら、今度は二股寝取りクソ野郎だぞ?)


両肩をがっくり落として、俺は机に突っ伏した。


……どうすりゃいいんだ――

 

 本拠地、横〇スタジアムで迎えた中〇戦

先発三〇が大量失点、打線も勢いを見せず惨敗だった

スタジアムに響くファンのため息、どこからか聞こえる「今年は100敗だな」の声

 

無言で帰り始める選手達の中、昨年の首位打者〇川は独りベンチで泣いていた

 

W〇Cで手にした栄冠、喜び、感動、そして何より信頼できるチームメイト・・・

 

それを今の〇浜で得ることは殆ど不可能と言ってよかった

 

「どうすりゃいいんだ・・・」


 内〇は悔し涙を流し続けた。どれくらい経ったろうか、〇川ははっと目覚めた

 

どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たいベンチの感覚が現実に引き戻した

 

「やれやれ、帰ってトレーニングをしなくちゃな」

 内〇は苦笑しながら呟いた

 

立ち上がって伸びをした時、内〇川はふと気付いた


「あれ・・・?お客さんがいる・・・?」

 

ベンチから飛び出した〇川が目にしたのは、外野席まで埋めつくさんばかりの観客だった

 

千切れそうなほどに旗が振られ、地鳴りのようにベイ〇ターズの応援歌が響いていた

 

どういうことか分からずに呆然とする内〇の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた

 

「セイイチ、守備練習だ、早く行くぞ」

 

 声の方に振り返った〇川は目を疑った

 

「す・・・鈴〇さん?」

 

「なんだアゴ、居眠りでもしてたのか?」

 

「こ・・・駒〇コーチ?」

 

「なんだ〇川、かってに〇田さんを引退させやがって」

 

「石〇さん・・・」


 内〇は半分パニックになりながらスコアボードを見上げた


1番:石井〇 2番:〇留 3番:鈴〇尚 4番:ロ〇ズ 5番:駒〇 6番:内川 7番:〇藤 8番:〇繁 9番:斎〇隆

 

暫時、唖然としていた内〇だったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった

 

「勝てる・・・勝てるんだ!」


〇根からグラブを受け取り、グラウンドへ全力疾走する内〇、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・


翌日――

 

 パーンッ。


軽い衝撃とともに頭が痛い。

見上げると、目の前に村田と吉村がいた。


村田が呆れた顔で言う。


「何に勝てるんだよ……」


「お、お前ら……病院で静かに息を――」


「「勝手に殺すな!!」」


思いっきりツッコまれて、俺は現実に引き戻された。


「……ああ、悪い」


あぁ〜夢……だったのか。


野球場のベンチで冷たくなってた気がしたが……たぶん、現実逃避してるうちに寝たんだろう。


いや、その夢の中でも現実逃避してた気がするけど。


「次、移動教室だからさっさと準備しろよ。俺ら先行ってるぞ」


「あぁ……」


スタスタと教室を出ていく二人。

残された教室には、俺ひとり。


静かな空気が、妙に落ち着いた。


(えっと……次の授業は、と)


込み上げてくる欠伸を噛み殺しながら、教材を掴む。

椅子を引いて立ち上がり、重たい足取りで教室の扉へ向かった。


(……さて、行くか)


小さく息をつき、取っ手に手をかけようとした――その瞬間。


ガラッ。


扉が突然開いて、背筋がビクッと跳ねる。

驚いたのは不意打ちだったからだけじゃない。


目の前に立っていた人物に、息が詰まった。


ミディアムヘアの金髪。整った顔立ち。

そして、俺好みの胸の大きさ。


――百合菜月が、そこにいた。


改めてこうして見ると、どことなく千亜希と似ている。

やっぱり姉妹なんだなって、変に納得してしまう。


でも、千亜希が可愛い系なら、菜月は完全に綺麗系。

犬と猫くらい、種類が違う。

 

「ねぇ、邪魔なんだけど」


「ご、ごめん……!」


ジッと睨まれて、反射的に飛び退く。

百合は何事もなかったみたいに教室へ入り、そのまま自分の席へ向かった。


(ど、どうする……)


予想外すぎて頭が真っ白になる。

百合と二人きりになるなんて、微塵も思ってなかった。


……これ、あれだよな。

またとない“チャンス”ってやつじゃないか?


――いやいやいや、だからって何すりゃいいんだよ。


昨日からずっと悩んでたのに、いざこの状況になると余計分かんなくなる。


声をかける? 天気の話? ……バカか。気持ち悪いわ。


あぁ〜クソ。


レンタル彼氏の仕事してるときだって、自分から話しかけること、ほとんどなかった。


だって、お客さんのプライベートにずけずけ踏み込むのって失礼だろ?

だから俺はいつも、相手の愚痴を聞いて相槌を打つか、質問に答えるか――


せいぜい、その程度の会話しかしてこなかった。

 

「ねぇ、あんた」


「え、は、はいっ!?」


「ずっとこっち見て、あたしに何か用? 昨日の始業式の時も、あたしのこと見てたよね」


え、ええええ!? まさかの、あっちから話しかけてきた!?


本日二回目の予想外の展開に、思わず背筋がピンと伸びる。


「いや、まぁ、その……えっと……」


「……なに、はっきり言って」


用ならある。……ええ、用はあるよ。でもじゃあ、“寝取ってもいいですか!”って言うのか? 無理だろ。もう言う前からオチ見えてる。絶対アウトだ。


──っていうか、やめろ、その真っ直ぐな目で見んな!

 

余計に緊張するだろうが……本当に無駄に顔だけは――


「……かわいい」


「……は?」


 あああああああ!!! ついボロッと口に出ちゃった!!


「……っ、そういうことね。あたし、あんたみたいなの興味ないから」


 百合は冷たくそう言い放つと、ためらいもなく手荷物を持って教室を出ていった。


 ――俺、振られた。


別に告ったわけでもないのに、告った感じになって思いっきり振られた。


──なんだこの惨めさ。


心がミンチになる音が聞こえた気がした。


「……もうやだぁ……お家帰るぅ……」


膝から崩れ落ち、教室にひとり取り残された俺は、その場でメソメソと男泣きした。

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