第18話 冒険者になれば金策になるのでは?
書きだめてた分が尽きてしまいました…
三日に一度の更新になります
冒険者ギルドの中は、とにかく騒がしかった。
木製の長机が並び、その周囲では革鎧姿の男たちが酒を飲みながら笑っている。壁には大量の依頼書が貼られ、受付前には順番待ちの列までできていた。鉄と酒と汗、それから獣の革の匂いが混ざり合い、ルーウェンとはまるで違う空気を作っている。
扉を開けた瞬間に押し寄せてきた熱気へ、ルカが思わず目を丸くした。
「うわ……すご」
「人が多いですわね……」
フィオナも周囲を見回している。
村ではまず見ないような装備の者も多かった。巨大な斧を背負った男。杖を何本も腰に下げた魔術師。獣の毛皮をまとった女戦士。中には耳の尖った者までいる。
アルトも内心かなり驚いていたが、なんとか表情を崩さないよう努力していた。
すると、近くの卓で騒いでいた冒険者たちの視線がちらりとこちらへ向いた。
「おい、ガキじゃねぇか」
「貴族っぽくね?」
「護衛連れか?」
ひそひそ声が聞こえる。ルカが少しむっとした顔になったが、アルトは気づかないふりをして受付へ向かった。
受付の向こうにいたのは、栗色の髪を後ろでまとめた女性だった。年齢は二十代後半くらいだろうか。慣れた手つきで書類をまとめていた彼女は、アルトたちを見ると営業用の笑みを浮かべる。
「ようこそ、冒険者ギルド・グラン支部へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
アルトは一礼した。
「依頼の相談をしたくて来ました」
「依頼ですね。討伐、護衛、採取、捜索など、どの分類でしょう?」
「人材募集です」
「……人材募集?」
受付嬢が少しだけ目を瞬かせた。
「はい。僕たちの村で、防衛訓練を手伝ってくれる人を探しています。弓や魔術、それから見張り運用などを教えられる方を」
「教官依頼、ということですね」
彼女はすぐ理解したらしく、慣れた手つきで一枚の用紙を取り出した。
「期間は?」
「三日ほどを想定しています」
「場所は?」
「ルーウェン村です」
「……ルーウェン?」
一瞬だけ、受付嬢の表情が変わった。
その反応を見て、アルトは少しだけ察する。
やはり、あまり良い印象の村ではなかったのだろう。立地も悪く、魔物も多く、まともな防衛設備すらなかった場所だ。依頼先として人気があるとは思えない。
「失礼ですが……現在のルーウェン村の状況は?」
「防壁を整備しました。見張り台と警鐘もあります。簡易ですが宿泊場所も用意できます」
「……防壁?」
受付嬢が明らかに驚いた顔をする。
そこへガレスが豪快に笑った。
「はっはっは! アルト様が作られましたぞ!」
「先生」
「おっと失礼」
受付嬢は半信半疑という顔だった。無理もない。年端もいかない子どもが、“防壁を作った”などと言われて信じられるほうがおかしい。
だが彼女はすぐ仕事モードへ戻った。
「わかりました。では教官依頼として登録いたします。報酬額はどうされますか?」
「……」
そこでアルトは少し言葉を詰まらせた。
金がない。
正確には、“余裕がない”。
防壁整備。
木材。
食料。
道具。
最低限の生活基盤。
それらへかなり資金を使っている。
もちろん、レーヴェン家から持ち出せたものもある。だが、決して潤沢ではない。
「銀貨三枚では、厳しいでしょうか」
受付嬢は少し考え込んだ。
「三日拘束と考えると、安い部類ですね。ただ、初心者向け訓練であれば受ける方もいるかもしれません」
「宿泊と食事はこちらで用意します」
「それなら、可能性はあります」
アルトは内心ほっとした。
だが横ではルカが小声で言う。
「お金って減るの早いね」
「ええ……」
フィオナも静かに頷く。実際、かなり厳しい。ルーウェンはまだ収入源が少ないのだ。
薬草採取や木材はある。魔力を帯びた植物や鉱石も見つかり始めている。だが、まだ“売って利益を出す段階”までは整っていない。
アルトもそこは痛感していた。
「やっぱり資金繰りが課題ですね……」
受付嬢へ依頼書を書きながら、アルトは小さく漏らした。
すると、横で聞いていたカイルがぽつりと言う。
「なら、自分たちで稼げばいい」
アルトが顔を上げる。
「稼ぐ?」
「冒険者登録」
その言葉に、ルカがぱっと反応した。
「冒険者!?」
「えっ、なれるの!?」
フィオナまで少し驚いている。
カイルは短く続けた。
「魔物討伐、採取、護衛。実力があるなら金になる」
「……たしかに」
アルトは少し考え込んだ。
実際、ルーウェン周辺は魔物が多い。
薬草もある。
素材もある。
さらに、自分たちは普通の子どもより戦える。
危険はあるが、収入源としては悪くない。
「登録に年齢制限はありますか?」
アルトが受付嬢へ聞く。
すると彼女は少し困った顔になった。
「通常は保護者の同意が必要ですね」
「なら問題ありません」
ミレイアが即答した。
「わたくしが保証いたします」
「私もおりますぞ!」
ガレスも胸を張る。
受付嬢は、アルトと双子、それからカイルを順番に見た。
どう見ても子どもである。
だが、後ろの二人――ミレイアとガレスの様子を見る限り、冗談ではなさそうだった。
「……ちなみに、戦闘経験は?」
「ゴブリンの小規模巣を一つ」
アルトが答える。
受付嬢が目を見開く。
「本当に?」
「はい」
「討伐証明は?」
「耳なら持ってます」
カイルが袋を出した。
受付嬢が完全に固まった。
「えぇ……」
その反応に、ルカがちょっと誇らしげになる。
「兄様すごかったんだよ」
「ルカ」
「ほんとのことだもん」
「……失礼しました」
受付嬢は軽く頭を振ると、咳払いして仕事へ戻った。
「では、簡易登録試験を受けていただきます」
「試験?」
「はい。最低限の実力確認です。特に未成年登録の場合は必要になります」
「どんな内容ですか?」
「戦闘技術、魔力操作、簡単な筆記ですね」
アルトは少し安心した。
それなら問題ない。
「受けます」
「ぼくも!」
「わたくしも」
双子が続ける。
カイルも当然のように頷いた。
受付嬢は苦笑する。
「皆さん、本当にやる気ですね……」
その時だった。
奥の酒場スペースから、どっと笑い声が上がった。
「はははっ! なんだそりゃ!」
「ガキが冒険者登録だってよ!」
「可愛いもんじゃねぇか!」
どうやらこちらの話が聞こえていたらしい。ルカがむっとする。フィオナは無表情。アルトは少しだけ困った顔になった。
だが、その次の瞬間。
「……あ?」
低い声が響いた。
カイルだった。
一瞬で空気が変わる。
酒場側の冒険者たちがぴたりと口を閉じた。
カイルは別に怒鳴ったわけではない。ただ視線を向けただけだ。だが、元奴隷闘士として積み重ねてきた圧は、普通の冒険者相手なら十分すぎるほど重かった。
「……」
「……」
気まずい沈黙。
ルカがちょっと笑いそうになっている。
フィオナも口元を隠していた。
アルトは慌てて言う。
「カイル、威圧しない」
「……してない」
「してるんだよなぁ」
受付嬢まで苦笑していた。
だが、そのやり取りのおかげか、ギルド内の空気は少し和らいだ。単なる“貴族の子どものお遊び”ではない。少なくとも、後ろの護衛は本物。冒険者たちも、そう理解し始めたらしい。
「では、登録試験は本日夕方からになります」
受付嬢が書類をまとめながら言う。
「それまで自由にしていただいて構いません」
「わかりました」
「あと、教官依頼も掲示しておきます。興味を持つ方がいれば、今日中にも声がかかるかもしれません」
「ありがとうございます」
アルトは小さく頭を下げた。
資金は少ない。問題は山積みだ。それでも、一つずつ進めていくしかない。
ルーウェンを守るために。
そのための力を、少しずつ集めるしかないのだ。
そして今、自分たちはまた新しい一歩を踏み出そうとしていた。
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