第17話 いざ!人材探しへ!
少し期間が空いてしまいました…申し訳ない…
よろしくお願いします!
二日に一話更新予定です!
ゴブリン討伐から数日。ルーウェンの村には、以前にはなかった落ち着きが生まれ始めていた。
防壁がある。見張り台がある。夜になればゴーストたちが巡回し、異変があれば警鐘が鳴る。村の外周を囲う土壁は、朝日に照らされると淡い黄土色に光り、その上を歩く村人の姿も、以前よりどこか余裕があるように見えた。
もちろん、まだ完璧ではない。門は簡易的な木柵式だし、防壁の内部もところどころ土のままだ。けれど、“守られている”という実感は、人の心へ確かに余裕を生む。以前は夜になるだけで家へ閉じこもっていた人々が、今では日が沈む少し前まで畑や井戸の周辺で作業している。子どもたちの笑い声も増えた。
それは間違いなく良い変化だった。
だが――。
「やっぱり、人ですね……」
館の食堂で地図を広げながら、アルトはぽつりと呟いた。木製の机には、簡単な村周辺図と、防壁配置、それから見張り交代の簡易案が並べられている。
向かいではベランが腕を組み、ガレスは椅子へどっかり座っている。ミレイアは静かに紅茶を飲み、双子は当然のようにアルトの左右を陣取っていた。カイルだけは少し離れた壁際に立っている。
「人、ですか?」
ベランが聞き返す。
「はい。防壁そのものはできました。でも、守る人が少ないです。いまはカイルやガレス先生がいるから何とかなっています。でも、もし僕たちが別方向で動いていたら、一気に苦しくなると思うんです」
それは、ゴブリン討伐のあとから強く感じるようになったことだった。いまのルーウェンは、“強い個人”によって支えられている。カイルがいる。ガレスがいる。ミレイアもいる。アルト自身も魔術を扱える。だがそれは逆に言えば、その誰かが欠けた瞬間に、防衛力が一気に崩れるということでもある。
「最低限、防壁の上で槍を扱える人は必要です。警鐘が鳴ったら配置につける人も。見張りも交代制にしたいですし、夜だけじゃなく昼も巡回役が欲しい」
アルトの言葉に、ベランが静かに頷く。
「たしかに、いまは“壁がある”だけですな」
「はい。“運用できる人”が足りません」
するとガレスが、にやりと笑った。椅子がぎしりと鳴る。大柄な体が前へ乗り出し、その目が完全に“面白そうなものを見つけた時の顔”になっていた。
「よろしいですな! 槍なら短期間でも形になりますぞ! 剣は時間がかかりますが、槍は違う! 集団で構えるだけでも十分脅威になります!」
その勢いに、ルカがちょっとだけ引いている。
「なんか先生、急に元気になった」
「おそらく天職なのでしょう」
フィオナが真顔で返した。
アルトは少しだけ苦笑する。だが、ガレスの言葉は理にかなっていた。村人たちは兵士ではない。農民であり、木こりであり、職人だ。今から剣術を仕込んでも時間がかかる。だが槍なら違う。防壁の上から突き下ろす。列を揃える。敵を近づけない。それだけでも、防衛力は大きく変わる。
「ガレス先生、お願いできますか?」
「もちろんですとも! まずは槍ですな! 構え! 突き! 押し返し! それから警鐘が鳴ってから配置につくまでの流れも叩き込みましょう!」
たぶん村人たちは大変な目に遭う。アルトはなんとなくそう思った。だが、この人に任せれば強くなるだろうという安心感もある。
「お願いします」
「お任せくだされ!」
ガレスは本当に嬉しそうだった。たぶんこの人、強くなりそうな相手を見ると楽しくて仕方ないのだろう。
しかし問題はまだ残っている。
「……ただ、前衛だけじゃ足りないんですよね」
アルトがそう言うと、ミレイアが静かに視線を向けた。
「魔術師ですか?」
「それもあります。あと弓ですね」
防壁がある以上、上から射撃できる人材は欲しい。槍兵だけでは対応しきれない場面もある。数が多い相手。防壁へ近づく前に削りたい相手。飛び道具を使う魔物。そういった敵を考えれば、遠距離戦力は必要だった。
「でも、村に教えられる人がいません」
「狩人なら多少扱える者もおりますが、兵として教えられるほどではありませんな」
ベランが難しい顔をする。
魔術も同じだった。ミレイアほどの技術を持つ者が、長期間ルーウェンへ常駐する保証はない。最低限でも、“基礎を教えられる人間”は必要だ。
少し考えていたミレイアが、そこで口を開いた。
「でしたら、冒険者を雇えばよろしいのでは?」
アルトが顔を上げる。
「冒険者、ですか?」
「ええ。冒険者には元兵士、元弓兵、魔術師などもおります。短期で教官役を依頼することも可能でしょう」
その言葉を聞いた瞬間、アルトの中で繋がった。この世界には“冒険者”という存在がいる。魔物討伐。護衛。採取。探索。危険を請け負い、報酬で生きる者たち。当然、戦闘経験を持つ者も多い。
「……それだ」
アルトは思わず声を漏らした。
「隣町にギルドがありましたよね?」
「はい。馬車なら半日ほどです」
「行きましょう。人材は早めに確保したいです」
すると、横からじっとりした視線が飛んできた。
「今度は行けるよね?」
ルカだった。完全に根に持っている顔である。
「ぼくたちも」
フィオナも当然のように続ける。
前回、ゴブリン討伐へ置いていかれた件は、どうやらまだ継続中らしい。
「町へ行くだけなら大丈夫かな……」
「やった」
「当然ご一緒します」
双子の機嫌が、わかりやすく少し戻った。
カイルは壁際からその様子を見ながら、内心で思う。まだ引きずってるな。なんなら根に持ってるまであるかもしれない。
だがアルトはまったく気づいていない。だからカイルも何も言わなかった。言ったら面倒だからだ。
翌朝。アルトたちは隣町へ向けて出発した。朝の空気は澄んでいて、防壁の上では早番の見張りが交代をしているところだった。村人たちも少しずつ朝の作業を始めている。以前のルーウェンの村では考えられなかった光景だ。
防壁の門を抜けると、道はゆるやかに森と草原の間を縫うように続いていた。踏み固められた街道はそこまで広くないが、馬車が通れる程度には整備されている。遠くには小川が流れ、朝露に濡れた草が光っていた。
「町ってどんなところなんだろ」
ルカがきょろきょろしながら言う。
「人が多い場所、と聞いております」
フィオナも少し興味深そうだった。
双子にとっては、ほぼ初めての遠出だ。アルトも実際そこまで経験があるわけではないので、内心はかなり楽しみだった。だが兄として威厳を保たねばならないので、なんとか平静を装っている。
そんな中、前を歩いていたカイルが足を止めた。
「来る」
短い声。同時に、草むらが揺れた。
「キュイイイッ!!」
飛び出してきたのは、角の生えた大きな兎だった。灰色がかった毛並み。額から鋭く伸びた一本角。普通の兎より二回りほど大きい体躯。
「うわっ!?」
ルカが驚く。
「ホーンラビットですな」
ガレスがのんきに言った。
名前の通り、角を使った突進を得意とする魔物だ。弱い部類ではあるが、油断すると脚を貫かれることもある。
ホーンラビットは一直線に突っ込んできた。
「右!」
アルトが言う。
カイルが半歩動く。その瞬間、ホーンラビットの足元へ水が滑った。
「キュイッ!?」
体勢を崩したところへ、カイルの剣が一閃。一撃だった。血飛沫が朝日に散り、ホーンラビットが地面へ転がる。
「……速い」
ルカが目を丸くする。
「素晴らしい連携ですわね」
フィオナが悔しそうに、でも感心した様子で言う。
さらに少し進むと、今度は岩陰から灰色の蜥蜴が現れた。ロックリザード。岩肌のような鱗を持つ魔物で、防御力が高い。鈍重だが、噛みつかれると厄介だ。
「足元ぬかるませる」
「わかった」
アルトが水を走らせ、地面を崩す。足場を失ったロックリザードが体勢を崩した瞬間、カイルが首元へ剣を叩き込む。鈍い音。巨体が崩れ落ちる。
「前回より、かなり動きやすい」
カイルが言った。
「ほんと?」
「ああ」
短い返事だったが、ちゃんとした肯定だった。アルトは少し嬉しくなる。
そのまま進み続けると、やがて景色が変わり始めた。人の往来が増える。荷馬車。旅人。商人。街道そのものも広くなり、踏み固められた地面には車輪跡がいくつも刻まれていた。
そして。
「……わぁ」
ルカが思わず声を漏らした。
石壁。門。並ぶ建物。人、人、人。村とは比べものにならない規模の“町”が、そこにあった。
「すごいですわね……」
フィオナも目を丸くしている。
アルトも内心かなり驚いていた。高い建物。石畳。行き交う人々。呼び込みの声。立ち並ぶ店。それらすべてが、ルーウェンとは別世界のようだった。
「まずは冒険者ギルドへ行きましょう」
「うん!」
町の中は騒がしかった。屋台から漂う焼き肉の匂い。鍛冶場から響く金属音。商人たちの呼び込み。見たことのない服装の旅人。双子は完全にきょろきょろしていた。
やがて。大きな木造建築が見えてくる。入口には剣と盾の紋章。酒樽が積まれ、武装した男たちが出入りしている。
「ここが……」
アルトが呟く。
冒険者ギルド。村を守る新しい力を探す場所。アルトは静かに扉へ手をかけた。
重い木扉を押し開けた瞬間。熱気と酒の匂い、それから無数の声が一気に押し寄せてきた。
笑い声。怒鳴り声。武器のぶつかる音。壁にはびっしりと依頼書が並び、革鎧の男たちや杖を持った魔術師らしき者たちが思い思いに騒いでいる。
「……すごい」
思わず漏れたルカの声に、フィオナも小さく頷いた。
アルトは静かにその光景を見回す。
――ここが、冒険者ギルド。
村を守るための、新しい力を探す場所だった。
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