偽物から本物の観察
クリスマスネタをブッ込んでみました
こちらの話で完結になります
11月22日…とうとうアレを役所に届ける日が来ましたよ。
この日は平日だったので拓海と仕事終わりに時間外受付の窓口に来たのだけど…うおっ、結構人がいる!?そうか、リア充様はいい夫婦の日に婚姻届を出す…これ正義!なんだな?
なんだかニヨニヨしながら出し終わったらしい新婚夫婦さん達は帰りかけて、拓海の存在に気付き…二度見三度見をしている。
びっくりさせて済みません…ハリウッドスターでは御座いませんのでお気遣いなく…
「お願いします」
颯爽と良い笑顔を浮かべて、ピンク色の婚姻届を窓口に出す拓海様。私は何故か恥ずかしくて、ずっと俯いてしまっていた。
しかし、役所内で何かハプニングが起こるでもなく…粛々と婚姻届は受理されたらしく
「おめでとうございますー」
と、事務的に(当たり前)お祝いを言われて役所を後にした。
「いや~なんかあっけないな」
拓海は私の手を取りながら、そう言ってきた。確かにあっけないね。
役所に元カノが乗り込んできて婚姻届を破り捨てるとか、実はストーカー女に先に婚姻届を提出されていた…とかいうようなことも無かった…あったら怖いけどね。しかしこれでもう夫婦か…あっ。
「そうだ…ちゃんと言っておくね…不束者ですが、末永く宜しくお願いします」
「…っ!……千夏!?」
私が深々を頭を下げると、拓海は余程驚いたのかちょっと飛び上がっていた…みたい。
何よ?そんなにびっくりすること?だってお嫁に行ったら旦那様にこの手の台詞言うよね?
「畜生っ!やられたっ!?」
そう言って拓海はまだ人通りも多い道で、いきなり抱き締めてきた。なんだよっ!?いきなり断末魔みたいな言葉を言って…びっくりしたよ。
「拓海…ここ人通りも多いから…」
拓海の背中をバンバンと叩くと、拓海は私を解放してくれた。拓海さんは顔を真っ赤にされていますね。
「お前っ俺を萌殺す気かっ!」
いや…あの…それは私が普段、拓海に対して心の中で叫んでいる言葉でしてね。私に対して使う言葉としては不適切と言いますか…
拓海は顔を真っ赤にしたまま、覚えてろよ!とか、今晩覚悟しとけよ!とか、この借りは必ず返すからな!とか……何か物騒な言葉をブツブツ言いながら私の手を引いて、自宅に帰った。
まあ夜にその物騒な言葉の意味は分かったけど…
そしていい夫婦の日に入籍した私達は夫婦で初のクリスマスを迎えることになった。拓海は12月に入った途端、通販で買ったらしい大きなツリーをリビングに置くとオーナメントをぶら下げている。
「こんなに早くからツリー置いておくの?」
「何言ってるんだよ~12月に入ったら即クリスマス気分味わいたいだろ?」
このリア充めっ!……まあ、私も今年から拓海のお陰で充実したクリスマスライフを楽しめるし?そんな拓海の為に、私はクリスマスプレゼントを用意もした。実に…恋人と呼べる方に贈る初めてのクリスマスプレゼントだ。そして料理だが七面鳥はやめて、骨付きチキンを用意し…クリスマスケーキを作ることにした。
ド定番だけど安心安全の普通がいいよね?奇をてらったサプライズは身の丈にあっていないので、しませんよ、はい。
クリスマスイブは上手く祝日に当たったので、朝からパーティーの準備をすることが出来た。拓海も何かコソコソしながらも、時々キッチンを覗いて料理を手伝ってくれた。
夜…初めてのふたりきりのクリスマスパーティをした。シャンパンを開け乾杯し、プレゼントを交換した。初めて彼氏にプレゼントを買うので悩みに悩んだが…無難なものにした。
拓海にそのプレゼントを渡すと軽さと薄さで
「商品券か?」
と聞いてきた。微妙におしいけど…ちがーう!
「開けるぞ」
「どうぞ」
喜んでくれるかな…一応、貴明お兄様と貴司お兄様にも聞いて、大丈夫だとお墨付きをもらったけど…
拓海は包み紙を開けて、薄い箱を開けると固まっている。中に入っているのは紙切れ一枚だからだろう。
「これ…千夏の手書き?オーダーメイドのスーツ工房のご利用券?」
「そっそう!お兄様達がそこでスーツ、オーダーしてるんだって!老舗だし紹介がないと入れないけど、縫製も丁寧だし着崩れないし…て。色々迷ったんだけど私、彼氏にクリスマスプレゼントって初めて贈るし…スーツなら何着持ってても大丈夫だし…ひねりが無くて…ごめんね」
拓海は私の話を聞きながら顔を輝かせ始めた。
「オーダーメイドのスーツって作ったことないよ…嬉しいっありがとう!」
「うん…えへへ~柘植の名前出せば融通も利かせてくれるから、ネクタイとかシャツも選んでみてね」
「じゃあさ、スーツ作る時に一緒に行こうよ…年明けにさ~え~とデートってしたことなかっただろ?ちゃんとデートしよっか?」
デデデ…デートォ!?
「あ…それで俺はコレ…はい、メリークリスマス!」
しっしまった!私もメリークリスマス!と叫んでからプレゼント渡せばよかった!緊張しててそのことに頭が回らなかったよっ!
「メリクリ!メリクリ!拓海ありがとうっっっ!開けていい?」
今更だけど、メリクリを叫んでから拓海のプレゼントを受け取って開けてみた。
私が今使ってる某海外の有名コスメメーカーの…ハンドクリーム3種類と限定のクリスマスコフレェェ!?
「こ…これ有名な…コフレセットで予約ですぐ完売になって…」
「おう、一緒にここに住みだしてすぐに予約しておいたんだ。クリスマスは絶対これをやろうと思って…千夏はそこの洗顔フォーム使ってるだろう?」
し…知ってるんだーーー!?細かい所に目を光らせる男、さすがっ拓海!
「やっぱり元祖王子は違うわっ!こんな下々の女の趣向までチェックしているなんてぇ!あんたやっぱりモテる男ね!」
拓海はちょっと目を細めながら
「それ褒めてんのか?馬鹿にしてるのかどっちなんだよ?」
と聞いてきた。
「褒めてるっ褒めてるよぉ~よし!さあ、チキンに頂こうよ!ケーキも焼いたんだよ~」
嬉しくて恥ずかしくて…ニヤニヤする表情が止まらない。こんなに嬉しいクリスマスは始めてだ。そして年の瀬から新年にかけても、私は物心つく頃には父とふたりきりか中学生の頃には一人で年を越してばっかりだった。
柘植一族は新年は親戚一同が集まって、毎年新年会を開催している。もちろん私は呼ばれない。もうずっと一人でクリスマスから年越し、新年とお祝いを繰り返してきた。
そうだ、新年と言えば…聞いておこうかな。
「初詣はどうするの?どこかお参りに行く?」
と拓海に聞くと
「初日の出のご来光を見に山登りに行くか?」
と、体力馬鹿の拓海らしい発言をしてきた。
「……寒いし、体力使うから山登りはいいわ……」
「なんだよ、根性ねぇな」
根性の問題じゃない!
「あ~そうだ、年明けの二日から初出社まで…俺の実家に行かない?母さん達が泊まりに来いって煩いんだ。あ~でも三鶴達がこのクソ寒いのに、ここでBBQしたい~とか言ってたし…どっちがいい?」
私は拓海に笑顔で答えた。
「どっちもしたい!」
拓海も笑顔になった。
「そうだな!二日はあっちに泊まって…三日からは……加瀨ファミリーここに呼んじゃうか?」
「賛成!」
嬉しくて涙が零れた…クリスマスも拓海と一緒で暖かくて幸せで最高なのに、新年も加瀨家の皆に囲まれるなんて…幸せ過ぎる。
「千夏はもう加瀨千夏…だもんな。俺達の家族の一員だ。もう淋しくないだろう?」
「だ……だぐびぃぃぃ…!!」
拓海に頭を撫でられた。
「泣くかチキンをかじるか…どっちかにしろよ…」
私は泣きながら
「私ぃ幸せだぁぁぁ!」
と骨付きチキンにかぶりついた。拓海もチキンを食べながら
「俺も幸せだよ」
微笑んでくれた。
◇■◇
『愛の狩人』
12月24日
私にも家族が出来た。初めての彼氏兼旦那とのクリスマス。嬉しくって床を転げまわりたい。
偽装から始まったけど、拓海と本物の夫婦として二人で益々幸せになれるように頑張るぞ!
ご読了頂いてありがとうございました^^たまには現代ものもいいですね('ω')ノ