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救う場所、救う人《後編》

さて、深い森の中で遭難したメルト、アル、ヒルダー、コドラ。

探していた薬草は(偶然)手に入れたものの、水も食料も無くこのまま夜になれば野生の動物に襲われる可能性もある。

まさに絶体絶命のピンチ!

はたして三人と一匹は無事に帰ることが出来るのか!?











「ただいまぁー♪」

「きゅいー♪」


帰れてた。


いやもう普通に帰ってました。

「おかえりメル。あら?アル君とヒルダーちゃんじゃない。久しぶりね、今日は三人で遊んでいたの?」

普段通りに帰ってきたメルトと、笑顔で三人と一匹を出迎えるミーメル、それに対して、

「こんにちはミーメルさん。アハハ・・・。」

「・・・どうも〜。遊んでいたというかなんというか、ハハハ・・・。」

と、苦笑いしながら疲れた様子のアルとヒルダー。そんな二人を見て出迎えたミーメルは子首を傾げる。

「・・・二人共、なにかあったの?」

疑問符を頭上に掲げながら質問するミーメルに、アルとヒルダーは乾いた笑い声で答える。

「「・・・たいしたことじゃないですよ、ハハハハ・・・・・・。」」

なぜ、二人がこの状態になっているのか、どうやって帰ってきたのか、答えは二時間程前に遡る。






てな訳で、二時間程前の森の奥。

絶賛迷子(遭難)中のアルとメルトとヒルダーとコドラである。


「やったー♪これで病気の子も元気になるねぇ。」

「きゅい♪」

探していた薬草を発見して大喜びのメルトとコドラ。対してアルとヒルダーは元気が無い。

「・・・とりあえず目標は達成できたみたいだな。」

「そうね、でも帰れなきゃ意味が無いわ。」

「・・・ミイラ取りがミイラになったみたいだな。」

「なにそれ?」

「・・・東方の言葉らしい、意味は熊を狩りに行って逆に熊に喰われたみたいな。」

「なるほど、たしかに今のあたし達に近いわね。薬草取りに行ってそのまま薬草の肥料になった、みたいな。」

「・・・ハハハハ、笑える。」

「笑うなっ!本当にどうするのよ。帰り道は分からない。森の中は危険が一杯。食べ物は無い。」

「・・・こうなったら救助を待つしかないな。今晩帰らなきゃさすがに親が不審に思うだろ。そうすりゃ自警団の人達が探してくれるかもしれない。

明日になったら焚き火でもしつ煙でのろしを上げよう。」

「わかったわ。ならまずは今日の夜をどう切り抜ける?」

なんだかんだと今後の対策を考えている二人にトコトコとメルトが近づいていく。

「それじゃぁ帰ろうか♪」

「「・・・・・・」」

いや、その会話の流れはおかしいだろメルト。それにヒルダーが目印つけ忘れたって言った時驚いていたじゃないか。どうして何事もなかったかのように帰ろうなんて言えるんだい?

「・・・いや、その会話の流れはおかしいだろメル。お前、ヒルダーが目印つけ忘れたって言った時驚いていたじゃねーか。なんで何事もなかったかのように帰ろうなんて言えるんだよ。」

伝えたいこと言ってくれてありがとうアル。

じゃなくて、

ひたすらにマイペースなメルトに呆れ返る二人。そこにこれまたトコトコとコドラが近づいてきた。

「きゅい?」

首にバスケットを提げて背中にリュックを背負ったコドラは二人を見て首を傾げた。そんなコドラをニコニコして見つめながらメルトが喋る。「ヒルダーちゃんもアルちゃんも忘れてないぃ?コドラは犬っぽいドラゴンだよ?匂いで帰り道が解るはずだよ。」

胸を張って言うメルトにヒルダーとアルは猜疑の目を向ける。

てか、犬っぽいドラゴンってオイオイ。

「きゅいっ♪」

コドラも喜ぶなっ!!プライドはないのかお前はよ。

「きゅい?」

無いんだな。いや、まあ、わかってたさ。     「・・・どうするヒルダー?」

コドラに猜疑の目を向けながらもアルはヒルダーに尋ねる。

「どうするもこうするもメルの言う通りにコドラに賭けてみましょう。どうせこの場に留まろうが別の場所に移動しようが同じでしょう?」

「・・・まっ、何もしないよりましか。」

ワラをも掴む思いというか、楽観的なメルトに負けたというか、なんというか、とりあえずコドラを信用する事にした二人だった。 

「それじゃあ、行こっかコドラぁ♪」

「きゅいっ!」

アルとヒルダーが了承したのを確認すると、どこまでも気楽なメルトとコドラと、

「本当に大丈夫なんでしょうね?」

「・・・はぁ。」

半信半疑のヒルダーとアルは森の出口を求めて歩き出した。




「ちょっとメルっ!この道本当に通ったの?記憶に無い場所なんだけど!?」

「大丈夫だよぉ♪」

「きゅいっ!」

「・・・。」




「こんな所通ってないはずよメル!!、あんな岩なんか来る時見なかったわよっ!!」

「気のせいだよぉ。」

「きゅい?」

「・・・・・。」




「おかしい、おかしいわよメルっ!!こんな川なんか渡ってないわよ!?」

「そうだっけぇ〜?でも大丈夫だよ♪」

「きゅいっきゅいっ。」

「・・・・・・・・。」




「違うっ!絶対に違うわメルっ!。なんで町に向かってるのにこんな崖を登るのよっ!?」

「きっと近道だよぉ。そのうち着くってヒルダーちゃん♪」

「きゅ〜♪」

「・・・・・・・・・・。」




「ありえない、ありえないでしょメルっ!?どうやってもこんな丸木橋なんか渡ったことを思いだせないわ!?」

「きっと薬草探しに夢中で気付かなかったんだよぉ♪」

「きゅ〜きゅきゅ。」

「・・・・・・・・・・・・・。」




「アハハ、アハハハハハ!。もうダメよメル。いったいいつ洞窟なんか通ったのよ。」

「いつだろうね〜♪」

「きゅっ♪」

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」




「どうして、どうしてよメルっ!!。なんでこんな道のりでちゃんと森から出られるのよっ!?」

「どうしてだろうねぇ♪」

「きゅいっ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

たどり着いちょったよ。

いや、まあいいことなんだが・・・なんか納得がいかない様子のアルとヒルダーである。

「・・・とにかく無事(?)に森から脱出できたんだ、早くメルトに家に行こうや。」

アルが二人に向かって言う。メルトとヒルダーが辺りを見渡すとすでに陽が沈もうとしている。

「そうね。せっかくお目当ての薬草もみつけたことだし急いで帰りましょう。」

早くも立ち直ったヒルダーがそれに賛同する。

「ここからなら私が道分かるよぉ。こっちこっち。」「きゅーー。」

メルトが先導するように駆け出して、コドラも急いで後を追う。

「・・・元気だなーー。」

「まったくね。」

アルとヒルダーも疲れた体を引き摺りながらメルトの後を追った。




「・・・てなことがありまして。」

「そうだったの。随分大変だったのね。」

時間を戻してメルト家である。

ミーメルが作った夕食をご馳走になったアルとヒルダーは、今日の出来事をミーメルに説明していた。因みにメルトは今日収穫した薬草を選別している。コドラは余程疲れていたのかもう夢の世界である。

「大変だったんですからっ!聞いて下さいよー。」

「・・・ほとんどヒルダーのせいじゃねーか。」

「うるさいわねっ!」

アルとヒルダーの掛け合いを眩しそうに見ながらミーメルは優しく微笑む。

『まさか、本当に探してくるなんてね。』

ちらりと目線をテーブルの上に移すと、メルト達が発見してきた例の男の子用の薬草があった。

『ふふふっ、運が良いのはあの男の子なのかしら、それともメルト達?』

ミーメルにとってアルとヒルダーはいつも一人で遊んでばかりいるメルトの数少ない友達という存在だった。だけれども今日の一件で少し変わった。

『きっとこの子達は大人になってもこのままなのね。』

そう思えるようになったのだ。


「二人共、今日は泊まってく?」

だからという訳ではないけれど、そう尋ねてみた。

辺りはすっかり陽も沈んで真っ暗である。漫才のような会話をしていた二人はミーメルの声に動きを止め少し考える。

「・・・いや、流石に迷惑ですし別段帰り道に危険はないんで帰ります。」

「あたしも帰ります。さすがに無断外泊すると怒られますから。夕食ご馳走様でした。」

二人の返答を聞いたミーメルは柔らかな微笑みのまま言う。

「そう。なら町まで送っていくわ。」

「「いえ、大丈夫ですよ、そこまで子供じゃありませんから。」」

キレイにハモった。

その様子が可笑しかったのか、ふふふふふふとミーメルは笑った。

「別に遠慮しなくてもいいのよ。私も今からこの薬草を病院まで届けに行かないといけないから一緒に行きましょう。」

「・・・いや、男としてミーメルさんに送ってもらうっていうのいはプライドが許さなというかなんというか・・・。」

「アルってプライドあったの?」

「・・・仕舞いには殴るぞ?」

「女の子に拳を振るうなんてそれこそ男としてプライドが無いじゃない。!」

「・・・なら、お前も女として慎みをもて。」

「んなっ!それだとあたしに慎みが無いみたいじゃない。」

「・・・みたいじゃなくて無いと言ってるんだ。」

「上等だっ!表出ろコラッ!!」

「・・・慎みはどこいった。」

「ふふふふふふふふふふ」

二人の掛け合いがよほど面白かったのか、こらえきれずにお腹を抱えて笑い出すミーメル。

「「あっ・・・」」

その笑い声に二人は顔を真っ赤にして反応する。

その様子にさらに声を上げてミーメルは笑った。

「ふふふふ、なら私をアル君とヒルダーちゃんが送ってくことにしましょう。ねっ?それなら男の子のプライドも保てるでしょう?。」

子供のような笑顔を見せるミーメルに言われてはアルもヒルダーも恥ずかしさを誤魔化すように、苦笑しながらうなずくしかなかった。






さらに時間は進んで

町までの夜道をアル、ヒルダー、そしてミーメルの三人が会話しながら歩いている。コドラとメルトは家で留守番している。

「・・・いや、コドラは確かにドラゴンだろう。どんなにトカゲが巨大化しても翼は生えないはずだ。」

「そうかしら?ならなんであんなに臆病なのよ、ドラゴンって尊大で誇り高いはずでしょ?」

「・・・それはコドラが子供だからだろ。下手に賢いから好奇心より恐怖心が強いんだろ?俺達の言葉が解ってる気がするし。」

「なら炎を吐かないのはなんでよ?たしか本だとドラゴンは生まれながらにして炎のブレスを吐くって書いてあったわ。」

「それこそデタラメだろう。その本の作者だって実際に本物のドラゴンを見たことあるかどうか分からないだろ?」

今話している三人の会話の内容はほとんどコドラのことである。まあ、実際に喋ってるのはアルとヒルダーだけで、ミーメルはもっぱら聞き手に専念してるんだが。

「それにしてもよくメルトはコドラを連れて来たわね。あたしだったら驚いて逃げるか逆に殺しちゃうわよ!?」

「・・・んな乱暴な。でも確かに凄いことだよな、肝が座ってるというか根性があるというか危機感が無いというか。」

「アルだって初めてコドラ見たときずいぶん落ち着いていたじゃない。」

「・・・あれは頭がパンクしてフリーズしてたんだよ。家に帰ってから鳥肌たったんだぜ?」

そんな会話をしている二人に、さっきまで聞いてばかりいたミーメルが唐突に口を開いた。

「ねえ二人とも。正直に答えて欲しいんだけど・・・コドラのこと本当に恐くなかったの?」

それはミーメルがずっと不思議に思っていたこと。二人がどうしてこんなにもすんなりコドラを受け入れているのか、どうして自警団等に通報したりしないのか。

だけど、

ミーメルのその疑問は二人にとって非常に些細なことだったらしい。

「「え?」」

まるで双子のようにキレイにハモった後、

「・・・まあ、確かに最初はビビりましたけど、」

「よく見れば子猫以上に臆病だし、」

「何よりメルトが全然気にしてませんでしたし、」

「それどころか楽しそうに笑ってましたから。」

とっ、アルとヒルダーは顔を互いに見合せながら苦笑交じりにそう言った。

「・・・・・・」

二人の解答に一瞬ポカーンとするミーメル。

いわばアルとヒルダーはこう言ってる訳である。

『メルトが受け入れていたから自分達も受け入れた。』

つまりはそれほどメルトを信頼しているということ。

友達の友達なら自分達にとってもそれがなんであれ友達という単純な理屈。


ミーメルは心で神に感謝した。

メルトにこの子達を巡り合わせくれてありがとうと、

メルトの母親でいさせてくれてありがとうと。

ミーメルは亡き夫に祈った。

メルト達がいつまでも仲良く友達でいれるようにと、

コドラがメルト達にとって幸せの一部でありますようにと。


「っと、んじゃ俺はこの辺で失礼しますね。」

「ならあたしもー。」

ミーメルが胸の奥で祈っていると、アルとヒルダーが足を止めて言った。

どうやらいつのまにか町の中に入っていたらしい。

「そう、なら今日はここでお別れしましょうか。」

我に戻ったミーメルは、石畳に変わった道の上で二人に微笑みながらそう言った。

さようなら、夕飯ごちそうさまでしたとあいさつを交わした後、家々の窓からもれる光が消えはじめた暗闇の中、家に向かって駆け出すアルとヒルダー。

二人が視界から見えなくなる寸前に思わずミーメルは゛待って゛と呼び止めた。

キキッっと、急ブレーキをかけて立ち止まり、何だろうと振り向くアルとヒルダー。

月明かりに照らされた町の中、自分達以外誰もいない通り、互いの顔がようやく見える距離で、

怪訝そうな二人に向かってミーメルはささやくように、けれど確かに届くように言った。


「メルトの友達でいてくれてありがとう。」


と、


小さくお辞儀をしてから微笑むミーメルにアルとヒルダーはきょとんとする。

やがて言葉の意味をゆっくり理解すると、

「・・・どうも。」

と、アルは照れくさそうに軽く右手を上げて言い。

「こちらこそっ!」

と、ヒルダーはポニーテールを風にゆらして元気に言った。


タッタッタッタッと恥ずかしさから逃げるように暗闇に消えていく二人。

少しの間二人を見送った空間を眺めていたミーメルだが、やがて薬草に入った袋を両手でギュッと掴むと、気を引き締めて歩きだす。

スタスタと真っ直ぐ進む、一刻も早く薬草を届けるために。

スタスタと角を曲がる、病院に着いてからのことを考えながら。

スタスタと段差を越える、男の子にかける言葉を探しながら。

スタスタと病院の入り口まで歩く、引き締めた顔がほころぶのを感じながら。

ガチャリと鍵を開けて病室を目指す、確かな幸せを感じながら。


「テッラ!院長!薬草を持ってきたわよ。」


今日中にあの子が笑顔になってほしいから。

そうじゃないと家で自分の帰りを待っているメルトとコドラに合わす顔がない。

『ねっ、そうでしょう?ハルちゃん。』



一応「救う場所、救う人」の完結編です。しかし、主人公の一人と一匹が目立たない。なんかアルとヒルダーが勝手に騒いで、オチをミーメルがもっていった感じですね。う〜〜ん、そういえば「弱虫」設定もキツくなってきました。まあ、そんなこんなでこれからもダラダラと続きます。

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