第四章 砦の王 3
イリア村から東に50キロほどの地点にピクト王国の侵攻軍本営があった。レントたちに散々な目に合わされた兵たちがそこに逃げ込んで数刻の後。
報告を聞いたウルグァスト、今は名前を改めたピクト国王のアル・アモンがうめいた。
「辺境の小さな村にファウンランド国王が居ただと?しかも30万からの兵が蹴散らされて8万にまで削られただと?ふざけるな!」
アモン王の剣幕に居並ぶ将官たちが首をすくめた。
「しかし身の毛のよだつような魔獣を引き連れて巨人兵を薙ぎ倒す姿はまさに地獄からの使者、我らもなんとか踏みとどまったのですが・・・」
「・・・バルドはどうした?」
「戦死・・・しました」
「エンサは?」
「戦死しました」
「シューカは?」
「投降しました」
「バーモンは?」
「退却しました」
「ガイクは?」
「一番最初にレントと言う青年に切り刻まれました」
「イルケルは?」
「逃亡しました」
「なんとも不甲斐ない奴らだな。それで?奇襲部隊は擬装して待機させているんだろうな?」
「それが・・・取り残されていた簡易召喚布でそのレントと言う青年が魔物を召喚しまして・・・」
「召喚してどうした?」
「擬装していた兵も待機していた兵もその魔物により全滅しました。かろうじて数十人が逃げ帰ったのみです」
「全滅・・・だと?総数は?兵の総数はどのぐらいだったんだ?」
「およそ1万5千です」
「有り得ん!そんな魔物がおいそれと召喚出来る訳がない!名前は?その魔物の名前はなんと言う?」
「呼び出された魔物は初めて見る姿と名前で、7翼の翼に剣を持ったアマイモモと言う名の・・・」
それを聞いたアモン王が顔を引きつらせた。
「アマイモ・・・モ?それはアマイモンではないのか?いや、そんな物が簡易召喚布で呼び出せるわけがない。だが7翼の翼を持った悪魔と言えば他には居ない筈だ。或いはセプテム(七枚羽の王)か・・・」
「アモン王はその悪魔をご存知なので?」
「知っている者はごく僅かだがルシフェルに並ぶ大悪魔だ」
「大悪魔・・・!!」
「まぁともかく、ワシが直々に出る必要がありそうだな。この士気の落ちようでは勝てるいくさも勝てぬわ。」
アモンは報告に来た兵を下がらせるとそばに控えていた衛兵に夜襲を行う伝達をした。
報告の内容に驚きはしたがアモンには不安など無かった。
魔力でも魔法でも、もっと言うなら知恵、知識、戦略、戦術全てに於いて引けを取る事など250年の人生で1度も無かった。唯ひとり師匠のスピカを除いてはだが・・・
アモンは傍らの鏡に映った自分の姿を見た。国王になる為に乗っ取ったとは言えこの身体は年老いて肉弾戦には向かない。
いっそこの機会にそのレントと言う若者の類稀なる肉体を手に入れてみるのも悪くないかも知れない。
乗っ取った後で側近や国民にどう説明するかと言う問題もあるが、さほど難しくもないだろう。
「テケシュ半島のレーベン城塞都市から新たに兵を派遣させなくてはならないな」
「ハッ、早速手配致します」
予備兵役要員がおよそ500万、軍属や後方支援、軍需による住民を併せるとレーベンの人口は8千万人以上にもなるだろう。すでに大小あわせて軍船300余隻と乗組員50万人がファウンランドに向けて出発していた。こんな小さな村に手こずっている場合ではないのだ。
そう、それがたとえ辱めた上で屠るべき目当ての娘の居る村だとしてもだ。
「しばらく瞑想に入る。誰もこの部屋には立ち入らせるな。お前たちは出発の指示を出すまで休んでおれ」




