第五章 砦の王 4
村に戻ったレントがサンドラの手を引いて寝室へと駆け込んでから数刻の後、抱き合いながら恥ずかしそうにサンドラが不満を漏らした。
「帰ってくるなり・・・恥ずかしくてみんなの前に顔が出せないわ」
「・・・ごめん」
「とりあえず前哨戦は見事に勝ちを得たわね」
「勝ちと言うかこのまま引き上げて欲しいところだが・・・無理だろうな」
「そうね。数百万もの軍隊を率いて来て出鼻をくじかれたと言う理由で撤退するとは思えないわ」
2人が話しているとベッドの端からカルビがひょっこりと首を出した。
「ご主人様、仲睦まじいところを申し訳ないのですが・・・」
「きゃあ!あ・・・カルビちゃん!」
「わぁ!びっくりしたぁ。・・・どうしたカルビ?」
「今まで旦那様にお説教をされてました。」
「えっと・・・それはすまん・・・で、アマイモモは?」
「あの姿で人間界に現れると理性が完全に吹き飛ぶそうで、今は勢いに任せて殺してしまった兵士たちの事で落ち込んでいます。」
「あいたたた・・・」
「ご主人様は今日1日だけでいったい何人の敵兵が死んだかご存知ですか?」
「え?いや・・・知らないけれども・・・2000人ぐらい?」
「何言ってるんですか。桁が違いますよ」
「え?じゃあ・・・もしかして2万人?」
「20万人です」
「うっ、・・・マジで?」
「普通の場合なら敗戦、撤退するぐらいの死者数です。と言うかご主人様、全然驚いていないようですが?」
「いや驚いてるよ。そんなに戦死者が出てるとは思わなかった」
「そうではなくて罪の意識とか恐怖心とか・・・」
「兵士ってのは、まして戦場では死が必然で生が偶然だ。誰がいつ死んでもおかしくはないだろう」
それを聞いたカルビが目を輝かせた。
「ご主人様、変わって無いですねぇ。カルビは嬉しいです」
「変な事を言うなぁ。僕の事を昔から知ってるみたいな言い方じゃないか」
「昔から知ってます。昔から私のご主人様です」
「そうか?まぁいいけど・・・ともかくアマイモモに叱られるぐらいで済んで良かった」
「いえそれが・・・懲罰処分となりまして少しの間、次の大満月の日まで戻れなくなりました。」
「それってどのぐらいなのか分からないんだが・・・」
「およそ2ヶ月半ぐらいです。まぁ実際の体感時間は800年程あるんですけどね」
「相変わらずスケールがでかいな」
「ご主人様、私が留守の間にあんまり無茶をしないで下さいね。それと死んじゃイヤですよ」
「わかった。気を付けよう」
レントの言葉を聞いて安心したカルビがサンドラに軽く頭を下げると、かき消すように姿が見えなくなった。
ややあってつぶやくようにレントが言った。
「敵方もこれで終わりでは無いだろうな。恐らく夜襲があるハズだ」
「絶対に来るわね。ところでレント、まさかとは思うけど私に戦場に出るななんて言わないわよね?」
「君が死んだら敵を殺すだけ殺してから追いかけて行くよ」
「ふふ、私もよレント」
お互いに顔を合わせて笑いあった後でレントがきまり悪そうに言った。
「えっと・・・サンドラ、もう1回明りを消してもいいかな?」
「・・・もう、バカ!そういう事はいちいち言う物じゃないのよ」
「いや、これが最後になるかもしれないし・・・ね?」
「・・・」
サンドラが毛布を被って首を縦に振るのを見てレントが明かりを消した。




