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私は入る会社を間違えたかもしれない。  作者: オツタロ


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情報基盤部編 2011年4月~2012年2月

4月

 配属希望部署を出せぬまま配属初日を迎えた。

私たち新入社員はいつも通りの研修室に待機していた。

就業時間になるとそれぞれの配属先部署の先輩社員が部屋に入り自分の配属先の子を連れて行った。

この時始めて自分がどの部署に行くのかわかるということもありみんなドキドキそわそわしている。

私もその人の1人だった。

私の場合は面談もなかったようなものなので本当にどこに行くのか不安だった。

 前年と制度も変わっており前年までは研修の指導役だった2年目社員は研修がメイン業務であり現場の開発部門には配属されていなかった。要は研修に集中できる体制だった。

今年から体制が変わり研修を担当する2年目社員は開発部門に配属され業務に従事しつつ研修も担当するという二足の草鞋を履いて業務を進めるというものになっていた。

人事部より各部にはその説明を行い了解をもらっているということだったので心配はしなくてよいと知らされていた。

 同期のみんなが先輩社員に連れられて部屋を出ていく中とうとう私一人になってしまった。

先輩社員の方も忙しいのだと思い待っていた。

すると人事部部員より

「さっき連絡があり迎えに来れないから自分で部署の部屋まで行ってくれ」

私ははいと返事をして情報基盤部の場所を聞いて一人向かった。


 部室のドア脇にあるカードリーダーに社員証を当てて部室の扉を開けた。

 空気が静電気を帯びたかのようなピリピリとした感触、酸素が薄いのか呼吸が浅くなるほどの息苦しさ。廊下の空気との違いに驚いた。

 部屋の入り口付近で立ち留まっている私に気が付いて部署の奥のほうに座っているがこちらに来るように手招きした。

私はその人のもとに行き挨拶した。

その人は私が配属されるチームの課長であった。

課長は部屋中に響き渡る声でこれから新入社員の自己紹介をすることを伝えた。

周りにいた人たちが立ち上がり私は自己紹介をした。

 部屋は200人ほどが席を並べている。

そのうち正社員で全体の4分の1ほどで残りは協力会社と呼ばれる別の会社から派遣されている人だと後で知った。

立ち上がった人たちは正社員のみで部屋の4分の3を占める協力会社の人は無関心という感じだった。

会社が違うので仕方ないことだと思いつつ正社員と派遣社員がきれいに分かれて配置されているという点が印象的だった。

 IT業界は派遣社員が多いと聞いていたが半分以上が派遣社員で業務が成り立っているという事実が衝撃だった。

 私が配属されたチームは法人向けにあずかり資産を参照できるWebサイトを運営していた。

Webサイトの運営がメインかと思ったが重要なのは表示しているデータを格納しているデータベース群でありその管理運営がメインだった。

私のOJTを担当する社員は打ち合わせで定時まで帰ってこないだろうと同チームの方から言われた。

そしてOJT担当者以外の人には質問しないでくれとも言われた。

これはOJTの指導役の評価を計測するために仕方ないことなのでと早口で言いその人もすぐに自分の仕事に戻ってしまった。

 私は何をするべきかと思ったが私たちは配属先部署での仕事と新しく入ってきている新入社員の指導役という仕事があったので私は新入社員研修の準備に取り掛かった。

研修資料を参照しようと人事部より送られてきていたメールの研修フォルダーのリンクをクリックした。

 中には何もなかった。

 私は同期たちに連絡すると同期もまさにそのことを話していたらしく一人が代表して人事部に質問していた。

 別の同期は研修を指導してくれた先輩社員に相談していた。

 しばらくして2人からメールが届いた。

 人事部からは”指導してくれた先輩社員に聞いてくれ、研修に関して人事部はスケジュール管理しかしない。研修そのものの内容は指導役たちで決めてくれ。”

 先輩社員からは”会社では伝統として研修データは残さないようになっている。基本情報処理試験のデータ以外は削除済み。私たちも最初はそれで苦労したので頑張ってください。”

という内容だった。去年は研修に専念できる体制だったが今年からは配属部門での業務も行いつつ研修も担当するという体制になっているので難易度が比較にならないほど上がっていると感じた。

 すると同期たちから続々とメールが届き始めた。

 ”OJTの人と話したら研修はほかの同期にお願いして部門の仕事に専念してほしいと言われた。”

彼も彼女も同じ内容のことが書かれていた。

 人事部からは”指導役になったからと言って教えて終わりということではない。枠組みから考えて自分たちも刺激を受けながら指導する。これが当社の新入社員研修です。”とメールが届いた。

私はため息しか出なかった。


私たちが研修を受ける側であったとき同期たちで研修をどう改善したらよいのかと帰宅時に話し合ったことがあった。

自分たちが研修をする側になったので当時話していた改善案を同期たちに提案してみた。

「なんで自分たちは先輩からひどい仕打ちを受けていたのに自分たちよりもよいものを新入社員に提供しないといけないの?」

「私たちが受けた研修は酷かったが人事部の対応を見ると単なる余暇の暇つぶし程度の役割しか期待されていない。研修でいくら頑張っても意味がないと思う。」

と予想外の返事があった。


 翌日出社すると私の隣の席に座っている人がいた。そのOJTの先輩社員に挨拶をすると舌打ちが返ってきた。聞き間違いか?と思ったが部屋に入り色んな方に挨拶するが挨拶が返ってこないのである。ここは挨拶をしない文化なのかと疑問に感じた。


 研修は演習課題ごとに担当者を決めて演習内容は去年と同じものにすることなった。新入社員向けに研修内容の説明があるとのことだったので3月までいた研修室に向かった。

私が着いたころには同期はほとんどおらずまだ人数が揃っていないようだった。

その後予定時間を過ぎて数人が来ただけで半分以上が欠席という具合だった。

時間が過ぎているので新入社員に挨拶と研修内容の説明を行った。

新入社員の顔が一様に不安一色になっていた。去年の自分たちを見ているような気分だった。


 自席に戻り挨拶に来なかった同期に連絡すると先輩社員から出席するなと言われた、と返信があった。

ITパスポート試験がある4月の2週目までは終日試験勉強をしてもらうことにしてその間に研修の演習問題を作成することにした。

紙で配布された資料を持っているので心配はなかったが手書きで書いたプログラムは当時プログラミングしたものがあったので捨ててしまっていた。

プログラミングしたソースは削除されているので手元になく演習問題を見ながら再度プログラミングをし直すことになった。

 私のOJT役の先輩社員から研修への参加は認めないと言われたが現状を伝えたところ。

「そんなものは知らん。俺は言うことは言ったから」

と無下にあしらわれた。

 

 新入社員研修の演習問題が始まり担当だった同期たちが日に日に来なくなり研修が崩壊寸前な状態になった。私は担当でなかったが配属先でOJTらしい指導もなく何を聞いても勉強しておけとしか言われなかったため研修のほうに注力していた。

 会議と会議の合間に自席に戻ってくるOJT役の先輩社員と顔を合わすことがあったが私を睨むだけで何も言われなかった。

当時、配属部署での私の主な業務内容は電話の取次ぎだった。2コール以内に取れと言われ3コール目になるとほかの人が電話を取っていた。座席表もなく誰が誰だがわからない状態で事務所を右往左往している状態だった。


 出社時のおはようございます、退勤時のお疲れ様でした。では相変わらずチーム内からは舌打ちか無視かという状態で他の先輩社員も似たような反応だった。そういう雰囲気に呑まれてしまい数日挨拶をしないで会釈だけで済ませるということをした。

 すると課長から会議室に呼び出された。

「最近お前が挨拶をしていないとクレームが出ている。俺も見ていたが確かに声を出していなかった。どういうつもりだ?」

「最初は挨拶をしていました。しかし先輩社員の皆さんからは挨拶は返ってこないし舌打ちをする人もいます。なので挨拶をしなくなりました。」

「言い訳だ!新入社員の分際で生意気なんだよ!」と怒声を浴びた。

「反省するどころか言い訳で責任のなすりつけとはゴミじゃねーか。」

般若のような顔つきで早口で捲し立てられた。

「OJTのあいつから聞いているぞ。研修に注力してばかりで部門の仕事をしていないと。未だに電話対応以外任せされなくて困っていると」

「研修に注力しているのは本当ですが先輩に聞いても仕事はないと言われたので」

「言い訳だ!」般若を通り越して閻魔大王かという顔つきで怒鳴られた。その後課長が落ち着くまでどれくらいかわからない時間罵声を浴びせつけられた。

課長の話を要約すると研修にも参加すると聞いているが複数人で対応するので一人当たりの負担はほぼないに等しい。研修内容も去年の使いまわしなので配布するだけで終わると聞いている。

なのでデータが削除されているとか研修担当の同期が来なくなり進行不全に陥っているという話は私がさぼる言い訳だと。

私が「人事部やほかの部門のOJT役に確認してください。」と言ったが、

「他部署は敵。確認などしない。俺が言っていることが正しい。お前が間違っている。」

と言い部屋を出て行った。私はやりきれない気持ちで部屋を後にした。


配属先での業務は見習いということで先輩のプロジェクトの打ち合わせに参加することになった。

参加と言っても資料は配られるが特に私のために説明があるわけでもなく、私が質問することも禁止で、ただ話を聞いて想像を膨らませるというものだった。

プロジェクトに参加している派遣社員に質問したが「答えるなと言われています。」と気まずそうに言われ聞ける状況ではないことを察した。

 あるとき指導役より「定例のプロジェクトは中止になったから打ち合わせはなくなった。」と言われた。

その時はそういうこともあるのかと思い「わかりました」と答えて私はその空いた時間に新入社員用の研修資料を作成したりしていた。

先輩は別のプロジェクトの会議を当てはめていたが私には参加しなくてよいと言った。

そんなことが数週間続いたとき、チーム内の定例週次ミーティングで怒られることになった。

「数週間前から彼がOJTのために参加していたプロジェクトの打ち合わせに無断で欠席しています。

私から何度も出席するように言っているのにその場では参加しますというが打ち合わせに参加していません。」

先輩は中止になったプロジェクトで私が突然参加しなくなったと言い始めた。

私がプロジェクトが中止になって参加の必要がなくなったことを言うと課長は「はぁ?」と言った。

先輩が笑いをこらえるような表情で続けて話し始めた。

「プロジェクトが中止になった?なんの話?私はいつも通り打ち合わせをして参加していますが?

自分がさぼる言い訳にしても下手すぎでしょ。」

「君ねぇ、プロジェクトが中止になるって大変なことだよ?そんなこともわからんの?研修で何を学んできたの?」

課長が呆れた口調で言った。

私は何が起きているのかわからず何を話せばよいのかわからなくなった。

「研修では結構いい成績だったみたいだけど所詮は研修だからね。現場とは違うんだよ。うそを言ってまでさぼろうとする根性はさすが低レベルの大学って感じだね。」

私は弁明しようとしたが、課長から「もういい。こんな話は聞きたくない。新人らしく謙虚で誠実でないといけない。」と言われこの話は決着した。

 ミーティング後私は納得できずプロジェクトに参加していた派遣社員の席に行き事情を確認した。

派遣社員は「口止めされています話せません」言っていたが私に引き下がる様子がないと諦めたのか

「あなたの先輩社員(OJT指導役)から依頼がありました。プロジェクトの定例ミーティングの会議通知を取り消して、あなたを省いた新しい会議通知を出すようにと、あなたへの会議通知はOJT役から別途出すから気にするな」

と下を向いて苦しそうに話してくれた。

その派遣社員の人は年齢は40歳くらいの人だった。それがまだ20代の正社員に指示され加担するしかなかった。派遣社員の首も正社員の気分一つで決まってしまうのだ。

彼も苦しい立場にいるのだと理解した。

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