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私は入る会社を間違えたかもしれない。  作者: 大津太郎


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新入社員研修編 2010年4月~2011年3月

2010年4月、大学を卒業して東京の銀行のIT部門に就職した私。苦労はするだろうと思い入社した会社では苦労とは比べものにならないことが起こるブラック企業だった。

その体験を記したお話。

3月下旬

 地方の地元Eランク大学を卒業し、東京の銀行のIT部門に採用された私は上京し一人暮らしを開始した。

 

4月

 銀行のIT部門に採用された俺は入社式に参加するため会社のロビーに来ていた。

 俺の所属するIT部門は新卒男子10名、女子6名の16名を採用したらしい。内定式の時に何人か顔を会わせた人がいるがあれから半年、朧気な記憶しか残っていなかった。

 あの人内定式に居たっけ?とか思いながらロビーにあるソファーに座りながらお互いどうやって話しかけようかと思い視線を交わしていた。

「君はどこ卒?」

 唐突に話しかけられた。顔を向いてない方向だったのでびっくりして振りむいた。というか彼は今なんて言った?どこ卒?何の話だ。

「俺はxx大学」と彼は続けて話しかけてきた。

 見た目は痩せていてメガネをかけている男。卒業大学は関西で有名な私立大学だった。

「私は地元Eラン大学。もしかして同じ関西出身だったりする?」と答えた。初めての東京。初めての一人暮らし。親元を離れるのは念願だったとは言え、慣れない家事炊事で実家が少し恋しくなっていた、そんな時に同じ関西出身かもしれない人と会うなんて、みんな関東出身ばかりと思っていたから不安だった俺の心に光が差した気分だった。

 しかし彼の方はそうでなかったようで、「はぁ?あの大学出てんの?マジで?ジョークで無くて?本当に内定者なの?会社間違えてない?」

 さっきまでの爽やか優しい顔が豹変し眉間に皺を寄せ口調まで変わっていた。

「おいおい嘘だろ。まさか俺がEラン大と同じ会社に入ってしまうなんて会社選び間違ったか?」

 とぶつぶつ言い彼は俺が見えなくなってしまったのかどこかに歩いて行ってしまった。

 これが社会の洗礼というやつか、初めての同期との会話だった。


 入社式は滞りなく終わり、人事部への書類の提出、各種会社資料の説明など一般的な新卒社会人の時間が過ぎていった。

 そして業務終了後人事部メンバーによる入社祝い飲み会が催された。

 居酒屋につくと人事部長が上座に座り人事部員が新入社員一人ひとりに座る場所を指示していく。言われるがままに座って周りを見てみると学歴、イケメン美女の順番に並んでいるのが一目でわかった。すでに序列が目に見える形でできているのだと感じた。端の席で飲んでいたが部長から「飲み物の注文とれ、皿を片付けろ」と言われる。

 新入社員であってもすでに会社組織の一部なのだ歯車になるというのはこういうことなのだ。と部長席周りで何もしない同期を横目に雑用をこなしていった。追い打ちをかけるように人事部員からも「指示されずとも自分から動け、周りを見ててきぱき動け」と言われる始末。私と他三人で分担しお互い負担にならないように処理をしてお酒を飲んでという感じで飲み会は進んでいく。社会人の飲み会は学生時代とはちがうなー。私が体験していないだけでこんな飲み会を学生時代から体験している人も世の中にはいるのかもなぁと思っていた。

 飲み会もしばらく時間が経った頃、部長が私たち端の席を指さして「君たちはネタ採用だよ。何とも期待していないよ。何なら今この場で退職してくれても構わないよ。」と笑いながら言う。

 相の手のように誰かが「何で彼らを採用したんですか?」と聞く。

「慈善事業っやつだよ。底辺大の学生にも夢を見させて上げないといけないでしょ。君たちでは入れないような会社に入ることができて大学も実績として書くことができて親御さんも喜ぶ。これが慈善事業でないなら何だというんだ。」

 部長のガハハハという店内に響くような笑い声が響きそれに続くように人事部メンバー、部長席周りの同期と笑っている。そんなことを言われてもへへへと不自然に笑うことしかできない自分たち4人のなんと情けない姿か。社会人初の飲み会はこれで終わった。


 翌日新人用の研修室に出社し昨日のことなど何もなかったようにみんなで朗らかに会話する。

 始業時間になり人事部長が入ってくるなり社会人とは何かと話し始めた。よくある話ではあるが社会人なりたての身としては新鮮な気持ちで聴いていた。

 話が終わり、部長が出ていくと残っていた人事部員が怒鳴り始めた。「何なんだおまえらの話を聞く態度は!大学で何を学んできたんだ!人の話を聞くときは、手は膝の上、椅子の背もたれに背中を預けるとは失礼極まりない!学生気分がまだ残っている!」

 その人は昨日もこの部屋にいて私たちに資料説明をしていたが話を聞く態度ということに注意などしていなかった。昨日の今日で何が変わったというのか。理不尽に感じたがただ怒声が終わるのを耐えるしかなかった。


 IT職で採用されているがコンピュータについては大学の講義で少しした程度知識は業務レベルにはまったく届いていなかった。私はブラインドタッチでタイピングができたがそれすらもできない同期が何人もいた。コンピュータの知識レベルも日経コンピュータの雑誌1冊分の知識もない状態であった。目先の目標は2週間後のITパスポートに合格することが決められた。ただ入社する数カ月前に会社からそのことは伝えられており会社負担で通信講座も申し込まれていて自宅に参考書などが届いていた。当時は卒業研究に忙しくまだ正式に入社していない会社の勉強をするのは法律的に正しいのかという思いもあって私はまったく勉強していなかった。

 人事部員より通信講座の定期テストを実施していないと通信講座会社から連絡があったようで午後より人事部員の2回目の説教が始まった。

 要約すると新人は会社での立場が一番弱いこと。こちらの機嫌1つでクビにできる。今後は先輩社員方の機嫌損ねないように気をつけるように。とのことだった。

 ITパスポート試験に落ちたものは社内掲示板に貼り出すという知らされた。


 新人研修はIT知識の勉強として用語の暗記、会社で使用しているプログラミング言語の勉強がメインだった。ITパスポート試験の勉強は特別に始業開始から30分間だけ行ってよいということで通信講座会社の問題集をひたすら解いて覚えていった。もちろん昼休みの空き時間や自宅でも勉強はしていたがこれは自主練という扱いだった。不合格者は社内掲示板に張り出すというペナルティが大きすぎてみんな黙々と勉強していた。

 しかし試験の結果は2人不合格だった。お決まりのように人事部員より説教があった。落ちた2人のうち1人が期待されていた枠ということだったのか説教のトーンが少し緩かったように感じた。


 ゴールデンウィークの数日前マナー研修を行うことになった。人事部より各自名刺入れを準備しておくようにと前日に言われる。名刺入れは金属製がよいとアドバイスがあり私も会社帰りに名刺入れを探したが金属製のものが見当たらず仕方なく合皮製のものを購入した。

 翌日マナー講師が名刺入れを机に置くように言った。同期全員、用意した名刺入れを机の上に置いた瞬間講師が怒鳴り始めた。

「これだから学生気分の抜けていない新社会人はいけませんね。名刺入れで金属製を用意するなんて非常識です。こんなこと調べればすぐに分かることです。にも関わらずほとんどの人が金属製の名刺入れを机に出している。無知も大概にしてもらいたい」

「金属製の名刺入れを用意するようにと人事部の方から連絡がありまして」と同期の1人が発言すると

「自分の失敗を認められないばかりか他人のせいにしている!性根が腐っとる!しかも先輩社員に責任を擦り付けようなどと嘆かわしい」と捲し立てた。

 同期もそれ以上の発言は危険と判断したのかすみませんでしたと言い黙って聞いていた。

 マナー研修ではお辞儀の仕方や声の出し方をひたすらに練習した。皆の前に立ってお辞儀を何十回もして講師が合格というまで続けた。声出しでは本当に喉が枯れるまでおはようございます、お疲れ様でした、ありがとうございますを復唱しているだけだった。マナー研修というよりは思考力を奪う何か実験に参加させられているという気持ちを抱き過ごした。

 

 4月のある時こんなことがあった。

 ある日人事部課長が部屋に来てこう言った。

「君たちも社会人になったのだから社会人らしい趣味を持たないといけない。学生のようにゲーム漫画アニメなんて恥ずかしい趣味は捨てなさい。」

 今でこそアニメ映画が邦画の興行収入を大幅に塗り替えるなど日本の文化という形で世界に発信されたり老若男女がソシャゲに熱中していることも珍しくなくなったが2010年当時はそういう雰囲気ではなくアニメなどは恥ずかしい趣味、口外してはいけない趣味扱いされていた。アニメ趣味が露呈しようものならば公然とバカにされる時代だった。

「私の贔屓の店におすすめクラブセットを用意している私からの紹介ですといえばゴルフ道具一式が格安で手に入るようしておいた。こんな機会は今後訪れないから直ぐに買ったほうがいい。値段は5万円程度だ。自己投資の中では格安だよ。」と話していた。

 後日同期の多くが購入することになるわけだが中にはゴルフに馴染めず売ってしまうものが出てきてしまった。おそらく同期同士で部屋を行き来している時であったり何気ない世間話からが漏れてしまったのだろう。

 そういうことが起きた時は課長から会議室に呼び出され「近日中に君の部屋に遊びに行かせてもらうよ。ゴルフ始めたばかりで分からないことだらけだろ?君の部屋で話そう。遠慮することないよ。私の忙しさなんて気にしなくていい。大切な新入社員のためなんだ休日だからとか気にしなくていいよ」と言われた。言われた本人は顔面蒼白になって急ぎ同じゴルフセットを買いなおした。


5月

 ゴールデンウィークが終わり次の目標として10月の基本情報処理技術者試験への合格が課された。ITパスポート試験の勉強のときにIT系の国家資格が階層型になっていることを知ったので驚きはなかった。始業開始から30分間は歴代の先輩たちが少しずつ作成してきた基本情報処理の過去問をまとめたオリジナル問題集を解くというものだった。


 新入社員研修の座学が終わり次工程としてプログラミング言語の研修が始まった。用意された演習問題の資料を見ながらエクセルでフローチャートの作成、用紙に手書きでプログラ厶を書き、それを指導役の先輩社員に見てもらいOKが出たら実際にパソコン上のプログラミングソフトに入力するという流れ。この時期くらいになると先輩の言うことに異を唱えることはしなくなり疑問を抱くことなく研修に取り組んでいた。

 自分の気持ちを外に出すときは社外で同期だけという状態になってからにしていた。


 プログラミング研修では4人で1つのグループを組みグループごとに専任の講師として2年目社員が就くという形だった。私のグループでは質問禁止、就業中のトイレ休憩禁止というルールとなった。

 ある日研修中にトイレに行きたくなり席を立ったところ先輩社員二人が両サイドに立ち身動きが取れないことになった。昼休憩から1時間経過したからトイレも仕方ないではないでしょうかと弁明したが受け入れられず終業後まで待たなければならなかった。

 私のグループは研修は厳しくフローチャートでは図が少しでもズレている場合は却下、文字が見切れている場合も当然却下という具合だった。プログラミングに関することは質問禁止なので終業後に他のグループのから内容を聞いたりして演習問題を進めていった。

 演習問題と言っても金種計算といった、9,568円ならば5,000円札は何枚になるか1,000円札なら何枚かというのをプログラミングで自動計算する問題などを解いていった。今にして思えば銀行とは言えこんな演習が現場の何に役立つのかと言えるが当時プログラミングを生まれて始めて体験した身からするとこれだけでも大変な難問だった。

 あまりにもグループ間でのルールの違いや指導役の指導の厳しさもあって、就業時間内に演習問題を解けない人が出てき始めた。そこで指導役より就業1時間前の8時に出社し20時まで残るように提案があった。1日3時間半の残業である。もちろん残業代はでないのだが遅れている理由が質問禁止などが進捗に影響を与えているので理不尽ではないかと上申した。

 すぐさま人事部員が部屋にやってきて「残業代とは会社に貢献している人が特別に貰えるものである。新入社員の君たちは会社のお荷物である。迷惑をかけている存在だ。君たちがいないほうが会社は無駄なコストを抑えることができるのにお金をかけて教育している。感謝しなければならない立場なのに追加でお金をせびるとは何たる非常識、あきれてものも言えない。どんな育ち方をしたらこんなことが言えるのか。いつまで自分が学生と勘違いしているのか。」

 残業代もなく多くの同期が8時から20時まで演習問題を解くことになった。これは1年間の研修が終わるまで続いた。

 

 演習問題もものによっては決められたスケジュールよりも早く終わることがあった。その場合は強制的に有給休暇を取得するように言われる。基本情報処理試験の勉強をしたいと申し出ても就業時間内の自主勉強は禁止ということで許されなかった。


10月

 基本情報処理の試験がやってきた。今まで勉強しているので大丈夫だろうと同期たちと話し合っていた。受験した結果16人中2名不合格という結果に終わった。お決まりのように人事部課長より説教を受けた。

 しかし試験に落ちた理由の1つが朝の30分の勉強会の問題が古く実際の試験問題と大きく乖離している点にあった。勉強会用の資料は歴代の先輩たちが少しずつ作成していったということで古いものまでそのままの形で残されていた。その違和感に気が付いている同期もいたがそれを大っぴらに言うことはしていなかった。そのようなことを発言すると指導役から何を言われるか報復措置を恐れてのことだった。


 研修中に時折他部署の数歳年上の先輩社員が入室してくるということがあった。社内には運動系文科系のサークル活動がありその勧誘のために談笑するということが度々あった。

 中には既婚者でもあっても女子社員に対して業務終了後、休日に二人きりで会うように誘いをかけてくる社員も珍しくなかった。人事部経由でプライベートのメールアドレスの連絡先を積極的に公開して社内の先輩社員と仲良くなるようにとお達しが出ていたので無分別に交換している人や交換した人から別の人に連絡先が渡るということが珍しくなかった。女子社員には多くのデートの誘いが来ていたようだ。

 そんな中1人の同期の女子がある先輩社員に狙われていた。何度かデートの誘いを断っていたようだが滔々断り切れなくなりどうしようかと悩んでいた。相手は10歳以上年上で妻子持ちという。しかし社内では仕事ができるという話で断ると配属された後に何をされるかわからないという。何人もその人と関係をもって結果退職に追い込まれたという話を本人や周りの人から聞かされていて恐怖すら感じるようになっていた。

 同期内で話題になり人事部に相談しようということになった。ハラスメント対策として対応してもらえるだろうと考えてのことだった。内容がセンシティブであったため当人1人で話しに行くといって部屋を出て行った。しばらくして帰ってきたが部屋につくなり泣いていてさすがに一同びっくりした。

 何があったのかと聞くと涙ながらに答えてくれた。

「新入社員の分際で先輩社員からありがたくも休日に仕事のレクチャーをしてくれると言っている。何を断る理由があるんだ。抱かれるのが怖い?甘えたことを言うな。会社のお荷物の分際で調子に乗るな。現場社員の方の役に立てるならありがたいことだろう。それをハラスメントだ?まだ学生気分が抜けていないんだな。ありがたく抱かれてこい。」

 入社以来人事部には失望しかしていなかったが今回も想像を超えて失望を与えてくれた。

 どうしようかとみんなで話し合い、休日を迎えることになった。

 デートがあったというその翌週その女子社員は通常通り出社してきた。顔は晴れやかでここ数ヶ月で一番いい笑顔のように見えた。作戦はうまくいったのかとほかの同期が聞いていてばっちり成功したとはにかんで話していた。作戦とは、約束通りデートの待ち合わせ場所まで行き先輩社員と会った瞬間にほかの同期女子が合流するというものだった。食事をしながら仕事のレクチャーということならば問題ないですよね?という話しをしたところ、先輩社員の顔が怒りの顔に変わり「てめぇらはめやがったな、覚えてやがれ!」と言って帰っていたらしい。

 その後報復らしいこともなかった。


3月

 1年の研修期間もようやく終わるというところで配属先の面談が行われることになった。1人ずつ会議室に呼び出されて配属希望部署を聞くというものだった。私の場合は会議室の扉を開けた瞬間に「君はもう決まっているから入らなくていい。次の人呼んできて」と言われて面談がなかった。


 1年間の研修も酷いと感じていたが配属先部署ではこれを軽く超えてくるとは想像もしていなかった。


 新入社員研修編  完

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