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3/12

公募

僕はこの国の教育体制について、ゼロの知識や資料から探ってみた。

しかし、あまりにもひどすぎた。


基本的には義務教育なので、貧しいものも教育を受けれる。


しかし貧富の格差で教育にも格差があった。

大学への裏口入学などは日常茶飯時で、

就職には親の身分が、かなり影響した。


貴族階級や裕福な家庭は、質の良い教育を受けられるが、

底辺層にいけばいくほど、確実に教師の質は、

悪くなっていった。


理由は義務教育とはいえ、学校側は寄付金を受け入れるからだ。

つまり寄付金の多い学校ほど、質の良い教師を引き抜ける。


引き抜き以外の教師はガチャのように運ゲーだった。


地道にやっていくしかない?

それとも

然るべき立場につく事を目指すか……

僕は難しい選択を迫られていた。



そんな中。


成績が上がる教育改革を提案したものに、

・権限と校長という立場をあたえ、校内で教育改革をさせる。

そして、髙い成果を出したもの達に、全体の指揮をとらせる。


という通達がでた。


「これだ」

二人の意見は一致した。


募集要項は

論文

そして論文が通ったもの達での討論会という形になった。


論文の募集の締め切りは3か月。

僕たちは相談しながら論文を作成した。

そして4か月後。


僕たちは討論会に呼ばれた。


1次試験は合格。

討論会が2次試験だ。


ただこの2次試験というのは、一応建前上のもので、

実際には人を見て、どこの学校の校長に割り振るかというものだった。


集まった人数はおよそ500人。

それぞれ名物教師。貴族出身の教師。軍隊出身の教師など様々だった。


討論会は3日間行われ、ランダムに選ばれた相手と討論する形式になる。


ここでの討論内容は全て記録され、これも教育改革の参考にされるそうだ。


「討論なんか無理だ」というと、

ゼロが俺がメインで話すから、俺に気持ちを委ねろと言ってくれた。



◆ ◆ ◆


討論会の最終日の、最後の舞台。

静まり返った空気を裂くように、どこからか音が響いてきた。


――中世ヨーロッパで使われた、擦弦楽器Hurdy-Gurdyハーディ・ガーディのような音。

ざらついた旋律と、低く唸るようなドローン音が重なり合い、

会場全体を、古びた祭礼のような雰囲気に染めていく。


どこか哀しげで、どこか祈るような音だった。

それはまるで、この国の未来を予言するかのようだった。


僕は小さく深呼吸した。

相手は軍とつながるエリート家系の教師――この戦い、逃げ場はない。


歳は50歳を過ぎているだろう。

ロマンスグレーの髪を後ろに撫で付け、

仕立ての良いスーツ姿。

スーツの上からでもわかる屈強な肉体。

威厳に満ちた目つきは、強い圧迫感を感じた。


正直勝てる気がしない。

まぁゼロに任せていたらいいだろう。

どっちにしろ。

校長にはなれるのだから。


あれ……

なんだか様子がヘンだ。


周囲がざわついている。

討論会場のドアが開き、

誰かがやってきた。

みんな膝をついて頭を垂れている。


えっまさか……。

対戦相手の教師も膝をついて頭を垂れた。


だめだ。

真似しておこう。


僕は辺りをチラ見して同じように、

膝をつき頭を垂れた。


「まぁよい。楽にしろ。では討論を始めろ」

とその偉そうな誰かは言った。


「では、双方はじめ」

と号令がかかった。


相手の教師が口火を切った。


「私はクロガーネと申します。私の理論を申し上げます」

そう言い一礼をした。


「まず教育というのは鍛錬にございます。

厳しい訓練を重ね、ついてこれるものだけを引き上げる。

そうしてエリートを育てていくのが寛容です」


「ではこれに対してゼロ殿は反論はありますか?」と審査官が言った。


「弱者を切り捨て、強者だけの世界。それも否定はしねぇよ。


でもな…進学校ですら、落ちこぼれは出るように、頭の良い奴でも制度次第で落ちこぼれるんだ。

もしその制度に間違っていたら、どうする?

保険が利かなくなるんだぞ」


周囲がざわついた。クロガーネは、腕を組み、何か考えている。

先ほどまでの、圧迫感はもう消えていた。


「ではこれに対してクロガーネ殿は反論はありますか?」と審査官が言った。


「しかしだな……。

能力の劣る奴はいらないだろう。

クズはクズだ」


周囲からどっと笑いが起こる。

クロガーネは少し安心をしているようだ。

あ~ここにいる連中も同じ穴のムジナか……。


「ではこれに対してゼロ殿は反論はありますか?」と審査官が言った。


「……逆もまた然りだろ?

制度次第で、あんたらの言う“ゴミ”が、英雄にもなるかもしれねぇ」


周囲がふたたびざわつき始めた。

クロガーネは瞬きを何度も繰り返し、何度も唇をなめた。


「ではこれに対してクロガーネ殿は反論はありますか?」と審査官が言った。


「私の教育方針は効率がいい。実にいい」


そうクロガーネは言った。

周囲は納得しているようだ。


「ではこれに対してゼロ殿は反論はありますか?」と審査官が言った。


「効率だけで回す国ってのはな、

“失敗したら即死”ってルールで動いてるってことだ。

……そんで、死ぬのはいつも弱いやつだ」


そうゼロは言い、指をまっすぐに突きつけ、周りを指さした


「その制度、もし間違ってたら、

誰が責任取んだ?

お前ら、保険もなしに国回す気かよ?」


ゼロが周囲を見渡すと、

会場は、沈黙した。


とつぜん

パチパチパチ

と音がした。先ほどの偉いさんがこちらにやってくる。


「ハハハハハ。実に愉快だったよ。クロガーネ君、ゼロ君

二人とも立派だった。

私は満足したよ。

まぁがんばってくれたまえ」


そういい立ち去っていった。


この拍手がきっかけで、この討論会は閉幕への運びとなった。



◆ ◆ ◆


この討論はゼロ達の知らない所で話題となっていた。



「今の制度の中で子どもを評価し続けている限り、

意図せずして“落ちこぼれ製造装置”になっているかもしれないってことか……」


「そもそも教育って何のためにやってるんだっけ?」


「オレたちが教え損ねたら、その子の未来に“セーフティネット”が存在しなくなるのか……」


「……自分がいままで“良かれと思ってやってきたこと”が、

制度を疑うことなく続けていた“自己保身”だったんじゃないかって……

初めて、怖くなった」


「私、子どもたちを“評価する側”にいるつもりでいました。

でも……制度の中で“見落としている側”だったのかもしれない」


「あのセリフは、私たちが“守っていた制度”そのものにメスを入れた」


「今までの教育論が、無力に思えた」


「このまま“従来の価値観”で授業を続けることに、罪悪感すら覚える」



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