第52話 新たな食卓
レストラン「竜の巫女」はエルムンガルド農園へ向かう道の入り口に位置しており、その先はリアの町の商会や周辺の町から来た商人達の店が並んでいる。
これらの店はエルムンガルド農園から麦や果物を仕入れ、一時的に保存するための保存庫として建てられたことに加えて、竜の巫女で食べるお客さん用に幾つか品物を展開しているようだ。
そのおかげか様々な人が店に立ち寄っていくみたい。
逆に商会で働く人達がレストランに来るのでより賑やかになっている。
レストランを中心に新しく騒がしい町並みができ始めていたりする。
「お。珍しい。お前が指輪か」
「……珍しくもない」
「いや珍しいって。魔法効果の無い単なる指輪に見えるが……まさか?! 」
「……うん」
食堂で誰かが指輪を買ったという話をしている。
恐らくプロポーズでもするのだろう。
その様子に周りも温かい目線を送っているとラビが突然大声を出した。
「プロポーズですか! きゃぁぁぁぁ! 」
その言葉に男性客は顔を真っ赤にする。
ラビはお客さんの顔を覗き離れたかと思うと一人妄想に浸っている。
彼女に結婚願望があることはなによりだが、空気を読まない暴走兎、本当にどうしてやろうか。
はぁ、と溜息をつきながらキッチンへ戻る。
開いた扉を潜り抜けると机の上にソウが見えた。
「時には手を加えていない食材もまたよし! 」
「在庫を枯らすなよ」
「分かっておる」
本当か、と思いながらも白く長い帽子を被り直す。
保存庫まで行き開けるとそこには大量の食材が。
もう閉店時間間近。
次のメニューを頭に浮かべて人参を手に取る。
保存庫を閉めて調理を始めた。
あの保存庫もつい最近までは私が持ってきた食料と畑で採れた食材のみだった。
しかし食料事情も改善したおかげでそこにフルーツや鳥肉が並ぶように。
作れるものが多くなり嬉しい半分忙しい半分。
忙しいのは私がいきなりメニューを増やしたせいなので自業自得なのだが人手不足は深刻な悩みだ。
「エルゼリアさん! エール三です! 」
「了解」
言われて火を弱火にして保存庫から冷えたエールを取り出す。
それをジョッキ三つに注ぎ込みラビに渡す。
ありがとうございました、と言い持っていく彼女を見ながらも火元へ戻る。
エルムンガルドが持っているエールを売ってくれた。
おかげでこのレストランでも酒を提供することが出来るようになった。
しかしこの酒は彼女が趣味で作ったようなもの。
大量にあるがいずれかはなくなるだろう。
エルムンガルドに対抗意識を持つエルド酒造だが原材料は今エルムンガルドの畑からしかとれない。
よってエルド酒造はエルムンガルドから麦を仕入れてエール作りを再開しているようだが、まだ結果は出ていないようだ。
エルド酒造の味はこの町の味。
確かにエルムンガルドのエールは美味しいかもしれないが、この町の人からすればエルド酒造の味の方が好みかもしれない。
できれば早めにエルド酒造産のエールも並べたいのだが、急かすわけにはいかない。
しかし、まぁ……、実は私もどんな味なのか心待ちにしている一人だったりする。
「よし。出来た」
最後の一品を作り終えてラビに渡す。
そしてその日の営業を終えた。
★
「「「恵みに感謝を」」」
営業が終わり私達は食堂で食事を摂る。
メンバーはいつも通り。
私にラビにヴォルト、そして精霊組であるソウとエルムンガルドの五人。
賄いと称して遅い夕食を摂っているのだが、エルムンガルドはこのレストランの従業員ではない。
しかし彼女は時折ふらっと現れて、一緒に食事を摂ったりする。
ここのフルーツとパン、そしてエール事情は殆ど彼女に頼っているから仕方ない。
因みに料金は取っている。
「フルーツは生でもよいがこれも中々……。甘味が増しとるのぉ」
「気に入ってくれたようでなによりだよ」
エルムンガルドが焼いたフルーツをもう一個フォークで刺して口に入れている。
もぐもぐと口を動かすと少し彼女の頬が緩んだのを見た。
やっぱりエルムンガルドも甘い物は好きなようだ。
褒めてくれているが、彼女に出しているものは特別なものではない。
彼女から買ったリプルを包んで焼いただけだ。
まだレストランには出していないがこの様子なら出しても大丈夫そうだ。
小さく切り分けて町の人が食べれるような価格にして、デザートみたいな感じでディナータイムに出すのが良いかも。
作っても余ったものを狙う竜や兎、子供達がいるからな。
幾ら作っても大丈夫ろう。
「止まらない! エルゼリアさん! 人参を薄く切って焼いただけなのに手が止まりません!!! 」
カカカカカ、とフォークで掻き込んでは飲み物を飲んで、また掻き込んでいた。
もぐもぐと口を動かしては顔がだらーっとだらしなくする。
ラビは焼いただけというが一応卵を絡めていたりはする。
本当に片手間で作ったものなのだが、これがまた癖になる美味しさなのは確か。
「そんなに急いで食べると喉に詰まらせるぞ? 」
「ふご?……ごっ!? 」
「言わんこっちゃない」
「大丈夫ですか。こちらをどうぞ」
私が呆れているとヴォルトが水生成でコップに水を注ぎ差し出していた。
流石ヴォルト。動きが洗練されている。
ラビは苦しそうにヴォルトが出したコップを受け取る。
ごくごくと飲んだと思うと「はぁ」と息を吐いていた。
「し、死ぬかと思いました」
「急いで食べ過ぎだ。いくら好物だからといってもな。もっと味わって食べたらどうだ? 」
「確かにそうですが……、もっとあるのでしょう? 」
「あるが……」
「む。残りは我が食べるのである! 」
「ソ、ソウさん。人参は僕の好物。それはないですよぉ~」
「譲らぬ。ラビは喉を詰まらせたらダメだから我が食べるのである! 」
言うと山盛りになっている細く切られた人参を掻き込み始めるソウ。
こいつもか、と思いながらも一つ摘まんで口に入れる。
シャキシャキしていて美味しい。絡まった卵も良い味を出している。
他にも絡ませると美味しいと思うのだが、これの最大の魅力は時短だ。
必要以上に余分な手間をかける必要はないな、と軽く微笑み顔を上げるとソウが顔を青くしていた。
「ご……のどが……」
「ソウ殿。こちらになります」
早速喉を詰まらせたソウにまたもやヴォルトがフォローを入れる。
ごくごくと飲みドン、と地面に置く。
ソウが「し、死にかけた」というと今度はラビがソウを弄る。
全く今日も騒がしい夕食だ。
けれど私は嫌いではない。
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