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第53話 「竜の巫女」のランチ

「ふむ。これがオンジというフルーツか。噛むとみずみずしい果汁が口の中に広がるのだ。まことに――美味である!!! 」

「こらソウ! 摘(つま)み食いをっ! 」

「エルゼリアさん! オンジ追加です! 」

「今ソウが食べた」

「わ、我は悪くないぞ?! 」

「今さっき摘み食いをしていたやつが何を言う! 」


 慌てて弁明を始めるソウを放置して、保存庫から新しくオンジを探す。

 丸い橙(だいだい)色のそれを発見。

 すぐにキッチンへ向かい皮をむく。

 中に待ち受けるみずみずしい橙(だいだい)色の果実を発見して十二等分する。


「行ってきます! 」


 ジフが元気よく追加注文を手に取る。

 離れていく背中を見つつもキッチンへ戻った。


 オンジはエルムンガルドから購入しているフルーツの一つ。

 それを少量購入し、こうして食後のデザートとして出しているというわけだ。

 オンジというフルーツは基本的に潮風(しおかぜ)が当たる沿岸(えんがん)部でよく作られている。

 内陸(ないりく)部で作るものと異なり沿岸部で採れるオンジは身が引き締まりとても甘い。

 沿岸部で採れるものよりも少し味は落ちるが流石精霊女王が育てたオンジ。

 これはこれでとても美味しい。


 一段落したので子供達の様子を見に食堂へ。

 食堂の扉を開けると夜とは異なりほんわかした雰囲気が漂ってきた。


「これも美味しいですね」

「ええ。甘さに加えてこのみずみずしさ」

「こちらのリプル、というフルーツを焼いたものも素晴らしいですわよ? 」

「私達こんな贅沢(ぜいたく)をして良いのでしょうか? 」


 少し困惑の入った言葉と共に上品な笑い声が食堂に響いた。

 確かに贅沢品。

 他の町の人達よりも先んじて食べることができるのは、この町でふんばった特権だろう。


「あらエルゼリアさん」

「こんにちは」

「美味しくいただいていますわ」

「ならよかった。ま、お礼は提供元へ伝えてくれ」

「もちろんですとも」


 町のマダムやレディ達が笑顔で言う。

 口にあったようで何より。

 フルーツ類は美味しいがそれ以外にも効果がある食材。

 病気を未然に防ぐ意味でもこの町にもたらしたエルムンガルドの祝(・)福(・)の意味は大きい。


 彼女達に手を振り子供達を探す。

 するとマダム達にもみくちゃにされているアデルがいた。


「本当に可愛くなったわね」

「か、可愛くねぇし」

「可愛いわよ。ね、ロデちゃんもジフちゃんもそう思うでしょう? 」

「「……まぁ」」

「お、お前らっ! あとで覚えてろよ! 」

「あらあら仲の良い事」


 アデルは顔を真っ赤にして二人に食い掛かっている。

 マダムが「ほほほ」と笑いながら茶化しているが本人からすれば、恥ずかしい、の一言なのだろう。

 だがアデルにスカートが似合うのは確かだ。

 前は、動き回りやすい服を好んで着ていたが最近だとスカートの比率が多い。

 アデルもおしゃれが気になる年頃。

 何かアクセサリーとか身に着けてもいいと思うのだが……。

 というよりも周りのロデ達、なにか送ってやれ。

 まぁしかし……、「可愛い」という言葉に反発しているが、本人も満更(まんざら)ではないのかもしれないな。


「確かに可愛らしいな」

「エ、エルゼリアさんまで?! 」

「エルゼリアさんもそう思うでしょう? 」

「あぁ。短パン姿も良いが、こっちも女の子っぽくていいぞ? 」

「オ、オレは女の子っぽくなくてもいいし! 」


 言うとアデルがリプルのように顔を真っ赤にして俯(うつむ)いた。

 ちょっと揶揄(からか)いすぎたかな? と苦笑い。


 本音ではあるが、言わなくても良かったかも。

 しかし言わないとわからないことや自覚していないこともあるわけで。

 そう言う意味では周りが何か指摘するのは彼女自身が「女性である」という事実を受け入れさせるのにはもってこいだ。


「では私はこれで。皆さんあとはお楽しみください」

「忙しいわね」

「頑張ってらっしゃい」

「ありがとうございます。エルゼリアさん。お会計を」

「ありがとうございました」


 マダムが一人席を立つ。

 扉を開けて彼女を誘導して支払いを済ませる。


「あれだけ美味しい物を頂いて……本当にこのお値段で大丈夫? 」

「大丈夫だよ。確かに一個一個は高価だが、一人に出す量は多くないからな。その分値段を抑えられる」

「そうなのね。貴方はこの町の恩人。もし大変なことがあったら声をかけてね」

「その時はそうさせてもらうよ」


 ありがとうございました、と言い彼女を見送る。

 実の所大変な人達による大変な出来事は毎日のように起こっているのだが、という言葉を飲み込んで。


 ★


「ほへー。これがキャロット・ツリーですか」


 休憩時間にエルムンガルドがふらりと現れてこの前植えたキャロット・ツリーが実を成したと伝えて来た。

 そんな馬鹿なことがあるかと思い、植えた畑に行くと、確かにそこには巨大な木が立っていた。


「ほれ。あの橙色の果実がこの木に出来る人参じゃ」

「……本当に実がなってる」

「だからいったろ? 」

「いや普通こんなに急成長して実をつけるなんて思わないから」

「こういう木だと思うがよい」


 言うとエルムンガルドは浮いた。

 樹齢(じゅれい)何百年のような貫録(かんろく)を見せる、樹齢数週間の大木の枝まで行く。

 なにやらごさごさとしたかと思うと私達の前に降りて来た。


「ほれ」

「人参! 」

「見た目はまごうことなき人参だな」

「いただきます! 」


 ラビはエルムンガルドが手に持つ人参をとって齧(かじ)りついた。

 本当に人参の事になると怖いもの知らずだな。

 感心半分呆れ半分でガガガガガと齧る彼女から目を移しエルムンガルドと一緒に笑う。


「むむっ。これは甘さ控えめですね」

「そうなのか? 」

「ええ。その代わりに苦味が強く出ていますねぇ~。兎獣人の間でも好みが分かれる所かもしれませんね」


 ラビがそう言うのならば、そうなのだろう。

 人参に対して厳しい意見をもつ彼女の人参レポートは侮(あなど)れない。


「エルムンガルドの人参を使う時は少し気をつけないといけないな」

「ほう」

「むしろこのキャロット・ツリーが実をつけた人参は別物としてあつかって、新料理を作るのもいいかもしれない」

「新料理だと?! それはいつできるのだ?! 」

「ソウ。そんな簡単には出来ないよ。他にもやることあるし、私も研究途中の料理もあるし」

「むぅ……。期待して待っておこう」

「そうしてくれ」


 新料理と聞いてソウが食いついて来た。

 今までだと開発にソウが試食係(生贄)となっていたのだが、現在はラビがその代役をしている。

 自分が犠牲にならなくてもよくなったせいか、最近ソウがやたらと「我に美食を! 新しい食を! 」と求めて来る。

 何かを得るためには対価が必要だ。

 それを忘れたソウには試食係の任(にん)についてもらわないとな、と心に決めながらもキャロット・ツリー・キャロットを幾つか手に取り畑を後にした。

ここまで読んで如何でしたでしょうか。


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