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短慮の結果

 ヒヅキは戸惑いながらもとりあえず少女に話し掛けるも、少女は今にも感涙しそうな表情を浮かべるだけで、他に何の反応も返さない。

(どうしよう、こんなに面倒くさそうな状況になるなんて!)

 ヒヅキは困ったような笑みを浮かべながらも、心のなかでは頭を抱えながら絶叫していた。

 今でも助けたことに後悔は無いし、間違っていたとは微塵も思っていないが、焦りすぎたとは思っていた。もし、目の前の少女を助ける際にもう少し冷静であったなら、こんな面倒くさそうな展開にならない他の方法を考えついていただろうから。

 しかし、過ぎたことはしょうがない。

 ヒヅキの目的はエルフの少女を助けること以外にもうひとつあるのだ。というよりもこちらの方が本命である、他のことは今はどうでもいいからまずはこちらをどうにかしなければならない。割りと本気で。

(しかしどうしたらいいものか………)

 肝心の少女は膝をついたまま瞑想して手を組むと、何故か祈りを捧げはじめる始末。そのうえ話してかけても反応しないので対処の仕様がなかった。物理的に現実に戻ってきてもらうという方法も考えたが、それは最後の手段だろう。

 ヒヅキは他の手を考えながら周囲に目を向けるも、周囲でこちらの様子を窺っている村人からは敬意のようなものを感じはするが、近寄って来ようとする気配は全くなさそうであった。

(それにしても……神、ね)

 ヒヅキは少女に目線を戻すと、少女はまだ祈りを捧げていた。

 他人の信仰にとやかく言うつもりはないが、そんな様子の目の前の少女に、先ほどの「おお、神よ」の言葉の意味をヒヅキは少しだけ考える。

(ただの神に対する感謝の言葉ならなんの問題もないのだが、もしも、もしもだ、俺自身に神を重ねているのならどちらの意味でも頭が痛くなってくる)

 もしヒヅキ自身を神と崇めているとしたら、考えるまでもそれはなくとてつもなく面倒なことに直結していることは必定であるし、少女自身が信仰している神の降臨または人の形を取った顕現だと考えているならば、それはそれで複雑だった。なにせ、エルフ族の信仰している神というものは異形なのだ。耳の形以外の外見は人種とほとんど変わらないエルフと比べて異形ということだ。ヒヅキはエルフの国を訪れた際に飾られていた偶像を実際に目にしたことがあるのだが、言い伝え通りならばその神はエルフを救った偉大な神とはいえ、それは控えめに言ってもちょっと薄気味悪い見た目の神だった。もし少女が一般的なエルフ同様にその神を信奉しているとしたら、それと同一視されるというのは正直複雑な気持ちであったし、やはりどちらにしろ面倒事であることには変わりはなかった。

 そんな色々と困惑しているヒヅキに、横合いからどこか恐る恐るといった感じの声が掛けられる。

「助けていただき有り難うございます」

 ヒヅキがその声の方に顔を向けると、そこには大人のエルフの男性が頭を下げていた。

 その姿を見たヒヅキは年上の相手が自分に頭を下げている光景に恐縮しながらも、最初何に対するお礼だか分からず、スキアを倒したことに対する感謝だと思い至るまでに一呼吸分ほどの時間を要した。

「……貴方は?」

「私はアーイスと申します。そこに居るマリアの父親です」

「そうでしたか……ああ、申し遅れましたが、私はヒヅキと申します。それでいきなりですいませんが、ひとつお訊きしたいことがあるのですかよろしいでしょうか?」

「ええ、私で答えられることでしたら幾らでもどうぞ」

 ヒヅキはマリアに道を訊くことを諦めると、声を掛けてきたアーイスにそれを問い掛けることにした。

「この森をガーデン方面へと抜ける道を教えてほしいのですが……」

 自ら「私は迷子です」と言っているような問い掛けをすることに若干の恥ずかしさを覚えながらも、ヒヅキはアーイスに道を訊ねた。それにアーイスは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに神妙な顔つきに戻って答える。そのアーイスの反応が余計にヒヅキの羞恥心を刺激したのだが、それはなんとかおもてに出さずに済んだ。

「それでしたら私がご案内致しましょう」

 そこでアーイスは僅かに思案するような間を置くと、

「その前に、戦闘でお疲れになられたのではありませんか?森を抜けるのは少しこの村で休んでからでも良いと思いますけれどどうでしょうか?それにもう時間も遅いですし……幸い私の家は無事なようですので、よろしければ泊まっていかれませんか?」

 その提案に答える前に、ヒヅキは森を出るまでに掛かる時間をアーイスに問うた。

 それにアーイスは「この村からですと、この森に慣れている者なら1時間ほどですが、そうでないなら倍はみた方がよろしいかと」との答えを返した。

 慣れてきたとはいえ、光の剣を思っていたよりも長い時間使用してしまったヒヅキは、自身が疲弊していることを自覚していたということもあり、それぐらいで森を抜けられるというのならアーイスの言葉に甘えて一晩ぐらい休んでも大丈夫かと考え、アーイスの言葉通りに泊めてもらうことにした。

 ヒヅキの答えを受けたアーイスは、未だに祈りを捧げていたマリアに近づくと、おもむろにその肩を掴んで揺さぶり、マリアを強引にこちら側に引き戻した。その後、アーイスとマリアの二人に先導されながら、ヒヅキは二人の自宅に向かう。

 その道中、さすがに話が伝わっているのか、ヒヅキは自分に向けられる視線を常に感じていた。

 その質はスキアの被害があった場所から離れれば離れるほどにどこか非好意的なものが混じっていく。

『あれが―――』

『何で今頃になって―――』

『来るのが遅いのよ―――』

 幾つか聞こえてきた声に、ヒヅキはその視線に混じるものの原因を知る。

(どんなかたちであれ、窮地に都合よく助けが来るということがどれだけの奇跡か………)

 そうは思いながらも、ふと自分の過去を思い出したヒヅキは、すぐに自分の時は助けこそ来なかったものの奇跡は起きたことに思い至り、あの後“もしも”を一度も考えなかった訳ではないということも併せて思い出したヒヅキは、生き残った者の気持ちが少しは理解出来てしまい、黙ってアーイスたちの後についていく。

 そのまましばらくの間黙って二人の後についていくと、やっとアーイスたちの家に到着したのだった。

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