エルフの少女
エルフの少女の命を奪おうとしていたスキアを排除したヒヅキだったが、慌てるあまり光の剣を消すのを忘れて持った状態のまま少女の目の前で立ち止まる。
「やっと見つけました」
エルフの少女が無事なことを確認したヒヅキは、安堵しながらそう言葉にする。
「あ……あ……」
そんなヒヅキにエルフの少女は何かを言おうとするが、上手く言葉に出来ないようであった。
ヒヅキはエルフの少女が言葉を発するのを待ちながら、改めてそのエルフの少女の姿を確認する。
少女はエルフの特徴である尖った耳を持ち、薄い金髪はまるで透明であるかのように透き通っていて、美男美女もエルフ族の特徴と言われるように、顔立ちの整った美しい顔をしていた。
他に目を引く点はというと、着用者の肩から踝までを覆うフード付きの丈の長い服だろうか。
ヒヅキは昔、これと同じものをとある用でエルフの国を訪れた際に目にしたことがあった。それはかつては砂漠の民であったというエルフ族の民族衣装であった。あとはその服を内側からこれでもかと押し上げては激しく主張している胸元ぐらいであろうか。ここまで大きいのは同じエルフ族でもそうそうお目にかかれないだろう。実際、ヒヅキがエルフのとある都市を訪れた際には一度も目にする機会はなかった。
ヒヅキがエルフの少女を一通り観察し終わっても、少女は口をぱくぱくと開閉するだけで、まだ言葉が上手く出ないのか、吃音のような声を出すだけであった。
そんな少女が喋り出すのを辛抱強く待っていたヒヅキの背後から、ここまでヒヅキを導いてきた咆哮のような音が発生する。
その音にどこからか「ヒッ」というしゃっくりのような短い悲鳴が聞こえ、ヒヅキは辺りに目を向ける。
目の前の少女は恐怖に顔を引きつらせ、先ほどまで突然現れたヒヅキを奇異な目で見ていた周囲の村人も、少女と同じように恐怖に顔を歪めていた。
「はぁ」
そんな状況でもヒヅキは慌てることなく、それどころか面倒くさそうにため息を吐くと、億劫そうに音がした方を振り返った。そこには少し前に遭遇した二足歩行で四本の腕を持ち、背中から翼を生やしたスキアが、まるで追い立てられた獣の如き勢いで、丁度こちらに向かって突進してくるところであった。
「さすがにこのタイミングでそれは邪魔だよ」
ヒヅキは面倒くさそうにしながらも、突進してくるスキアを迎え撃つべく、スキア目掛けて走り出すと、交差した勢いを利用して、そのまま持ったままだった光の剣で難なく横に切り裂いた。そのままスキアは黒い粒子となって消滅した。
それを改めて見せられた周囲の村人たちは、今度は驚愕から身を硬くしながらも、ヒヅキに対して畏怖の感情を抱いたようであった。
そんな村人たちの影響で異様な熱気とともに痛いほどの静寂がその場を支配するなかで、ヒヅキはスキアが消滅した場所に目を向ける。
「ここまで案内してくれたのだから、大人しく帰るのなら見逃してもよかったのに………」
どうでもいいというような声音で呟いたヒヅキは直ぐに目線を切ると、光の剣を消しながら元の位置に歩いて戻る。
そんなヒヅキを少女は陶酔したような少し潤んだ目で見上げると、少女は小さく、しかし確かな声音で一言口にした。「おお、神よ」と。
そんな予想外なエルフの少女の一言に、ヒヅキは咄嗟に小さく苦笑することしか出来なかった。




