人探し
ヒヅキは休憩を終えると、記憶を頼りにスキアと追いかけっこをした道を今度は逆になぞる。
「さすがにもう居ないか……」
幸いそう長い間移動していた訳ではなかったので、なんとかエルフの少女がスキアに襲われていた場所に戻ってきたヒヅキだったが、そこには既に誰も居らず、ヒヅキは困ったように頭をかいた。
「せめてどっちに行ったかだけでも分かればいいんだけど」
ヒヅキは地面に目を向けるも、そこには木の根だらけで、そもそも土が見えている部分の方が少なかった。
「足跡は見当たらないな。他に手がかりは……」
ヒヅキは地面から周囲に視線を向けるも、似たような木ばかりがあるだけで、ヒヅキにはほとんど見分けがつかなかった。
「せめて道があればなー」
ヒヅキは痕跡を探すのを早々に諦めると、勘を頼りに適当な方角に進もうとして。
『グウォォォォォォォォ!!!』
遠くから聞こえてきた獣の咆哮のような、もしくは遠吠えのような音に足を止めると、音がした方へと顔を向ける。
「今のは獣なのかな?人のではないと思うけど……」
ヒヅキはどうしたものかと首を捻るも、どのみちなんの道標もない状況だからと、音が聞こえた方向に歩みを進めることに決めると、持ち上げていた足の向きをほぼ直角に変えたのだった。
◆
そうして、途中何度か道を逸れそうになりながらも、たまに聞こえる咆哮のような音を頼りになんとかヒヅキがその村に到着した頃には、村はほとんどスキアに蹂躙されている状態であった。
「まだ生きてる人は居るかな?」
ヒヅキはそう呟きながら目の前の村の様子を確認すると、一瞬幼少期の出来事が目の前の村に重なる。
「………あの時とはまるで違うというのに」
ヒヅキは自嘲めいた笑みを浮かべながら疲れたように息を吐くと、周囲の様子を確かめながら村に近づく。
「おや、植物型のスキアですか。これは、これは」
ヒヅキがある程度村に近づくと、村の別の場所から高速でスキアが移動してくる。ヒヅキはその現れたスキアに興味深げな目を向けた。
「こんなところで確認数の少ない植物型に遭遇するとは。ここは是非ともじっくり観察したいところではあるのだけど―――」
そこで一度言葉を切ると、スキアの蔦による攻撃をかわしながらヒヅキは残念そうにため息を吐いた。
「今は時間が無いことが心底残念でしかないな」
ヒヅキは首を横に振りながら煌々と輝く光の剣を出現させると、それでスキアを一瞬のうちに両断する。
「ふむ、一度使ったからか、前よりは少し馴染んだ気がするな」
両断したスキアが消滅したのを確認すると、ヒヅキは村の方へと顔を向ける。
「よかった、まだ結構残ってる」
中央の一際大きな家の近くに居る一団や、二体のスキアが暴れている場所から離れた場所に避難している一団など、いくつかの生き残りの一団を確認したヒヅキは安堵の息を吐くと、スキアと戦っている一団に目を向ける。
「あれは最初に見かけたスキアか、あっちの方は全滅だな。もう一体の方はまだ戦っているようだけど、もう勝敗は決したようだな……って、あの助けたエルフの女の子あんなところに居るし!早く助けないと道が聞けなくなる!」
最初にエルフの少女から聞こうと決めていたヒヅキは、そのお目当てのエルフの少女を見つけたうえに、その肝心のエルフの少女が命の危機ということも相まって、急ぐあまりに他から聞いても同じだということをすっかり失念してしまっていた。
そんなこんなでヒヅキは慌てて地面を蹴ると、途中で暴れているスキアを排除しつつ、目にも留まらぬ速さでエルフの少女の元まで駆け寄ったのだった。