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サイレント  作者: 明日奈 美奈
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エスケープ

4章 「エスケープ」

『…っ。ツウッ…』

手にガラスの破片。

昼間、シャンパンのボトルをくすねてこしらえたものだ。

切りつける所を間違えたのか、赤い滴がボタボタと滴り落ちる。


玄関ホール脇の木立に片足で立ち、身を委ねる。

お金持ちそうな老夫婦と付き添いの10代半ばの孫息子。


あらかじめ、用意しておいたホウキを手にして玄関ホールへふらりと足を運ぶ。


『ちょっと、あなた。

足から血が出てるじゃないの!』

老婆が狼狽えながら声をあげる。


『あぁっ、お許しください。

奥さまから、庭園の掃除を申し使っただけなのです。』

自分の怪我など意識していないかのように振る舞う。


『尚一さん。

あの娘を連れてらっしゃい。』

老婆は孫息子に命を下す。


老夫婦の孫息子に抱き抱えられるまま、大広間に入る。


『青柳様、こちらの娘はお年はいくつかしら?』

老婆が聞くと、青柳婦人が、18ですわ。とさも、自分の仕事とばかりに身を乗り出して嘘をつく。


『嘘をおっしゃい。

どう見たって、10か11がいいところじゃないの。』

老婆が怒鳴った。


『あの…。本当は13…です。

幼く見えるかもしれないけど、ここで働いています。』

青柳夫妻とその娘(さっき、着付けを、手伝った)に睨まれながらオドオドと答える。


『あなた方、恥ずかしくないのですか。

こんな年端もいかない子供を働かせて。』

老婆が見た目にそぐわぬピンシャンとした物言いで青柳一家を叱咤する。


『奥さま方は何も悪いことはないです。

親にも捨てられた、孤児のあたしを引き取ってくださったのですから。』

とりあえず、体裁を整える。


『なんて、けなげな。

15歳以下は働かせてはいけない。

学校に通わせなければいけない。

この国の決まりだ。』

法律を、無学とも言っていいあたしにもわかるように説明してくれる老紳士。


『えっ?…あたしでも、学校に通ってもいいの?

おば様はあんたはバカだから、学校には通わせられないって。』

わかっていた。おばの言葉をこの場で出すことの意味の重要性について。


『青柳様、うちとあなたとの取引を中止したい。

それと、かねてからのお嬢さんと尚一の話は無かったことに。』

老紳士は淡々と決定事項を話す。

このような粗さえでなければ、きっと、青柳家に融資していただろう。


『お嬢さん?

あなたさえ良ければ、うちに来ないかしら?

尚一さんの妹として学校に通って、立派な大人になって欲しいのよ。』

老婆は本気だった。

この娘は尚一の妹にぴったりだと思った。


『こんな、どこの馬の骨ともわからないあたしでよければ。』

最後の答えだけは決めていた。


こうして、エスケープは成功を納めた。

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