意味
32章 「意味」
『ピンクの薔薇の意味…。』
桜色の薔薇〈誇り〉、プリティーピンクの薔薇〈かわいい人〉、ブライダルピンクの薔薇〈愛している〉、ダークピンクの薔薇〈感謝〉、ピンクの大輪の薔薇…。
学校のパソコン室で人もまばらな時間帯を狙って調べる。
まさか、ね。
思い当たる節があるために直視できない。
『…おにい?』
ここはどこ?
わたし、確か事故にあって…。
お兄ちゃんどこ?
『えっ?春架が目を覚ました?』
あれから5年。
やっと、俺の唯一の肉親が意識を取り戻した。
児童心理学を勉強していたのはすべて春架のためだ。
春架が目を覚ましても春架の意識の中では5歳の時のまま。
年相応まですべての工程を飛ばすことなくゆっくり時間をかけて育てなければいけない。
『うっ…。けほっ…。』
はぁ、はぁ。
荒い息をしながらも吐く。
気持ち悪いだろうけど、頑張って吐いて。
棗さん。あなたに打ち明けてよかった。
協力者の心強い励ましによって何とかやっていけている。
まだ、兄にはばれていない。
けれど、それも時間の問題だろう。
第一、腹部が目立ってきたら、隠し通せない。
『春架、兄さんだよ。
春架に伝えないといけないことがあって来たんだ。』
俺は春架に伝えた。
事故で二人ともに両親を亡くしたこと。
その事故から5年たって春架は11歳になったこと。
これから、病院を出るまで勉強して学校に行って、俺の家で暮らすんだと。
春架は泣きながらすべてを聞いていた。
春架が俺の家に引き取られたのは半月たってからだった。
『きれいにしてるね。
おにい。』
そりゃあ、ミサトが居たときから変わってない。
茶でもいれるからと部屋にいさせる。
台所なんてあまり使わなかったから、わからない。
『えっ?おにい…。』
わたしはお兄ちゃんが何を犠牲にしてわたしを引き取ってくれたかを知った…。
大きい声を立てそうになったけど、黙った。
写真で微笑むのはおにいとお似合いの美人な女の人だった。
『ごめんなさい。あたし、あなたの人生を邪魔してしまった。
あたし、幸せになってもらいたかった。』
ありがとう。
あたしは幼稚園児ほどの大きさになった少女を抱き締める。
ああ、あたし、この子を知ってる。
『ありがとう。あたしの願いを叶えてくれて。
あなたともう一度会ったなら、きっと幸せにするわ。』
最後にかけたい言葉をかける。
少女は腹部の前で姿を消した。
ありがとう。あたしの大切な娘。
会えてよかった。
夢を見た意味がわかった――――。




