美里と学園長
20章 「美里と学園長」
『春架ちゃん、また明日ぁ。』
新しくクラスメートになった子供たちが駆けていく。
何も、私立の学校にしなくても。
訳あり設定だから、公立では受け入れられないかも、とシュウは学校を名門私立の柊学園に決めてしまった。
春架はここでは異質な存在になっていた。
見た目はちゃんと11歳の子供なのに、物言いやしぐさが静かで大人びていて。
父兄たちはそれをどこかしらのお嬢様で優美にして、繊細、成績や性格も良く格式高い。
どこのお嬢様だろうか?
息子の嫁に是非と考える。
完璧なお嬢様。
美里は川瀬にいた頃のように振る舞っていた。
外見で人を判断するやつらがいることを知っているから。
美里が幼い頃たらい回しにされた親戚と名乗る家がいいところだろう。
最所の家であまりいい扱いを受けておらず、使用人然として次からも扱われた。
しかし、彼らの言う、本家とやらの行方を探している体になっている、那祇の娘とやらは、あたしだった。
本家が娘だからなぁ。
本家が男だったら。
美里を見ては嘆く親戚。
あたしがその本家の娘と知ったら、どうなるだろう?
きっと、手のひら返してあたしにすり寄ってくるだろう。
今、美里は川瀬の娘で、川瀬も資産があるから、少し怖い。
ただ、川瀬には養子でない正統な跡取りの尚一がいる。
だから、遺産は狙われないけど。
『お呼びでしょうか?
学園長。』
そういって、学園長室に入る。
学園長って誰だったかな?
名前が出て来ない。
『君が、白河 春架さん。
確か、我が校始まって以来の秀才、白河周也の従妹だそうだね。
いやぁ、白河の従妹は彩色兼備な優秀な娘として有名で…。』
おっさん臭い台詞を吐くのはあたしの兄。
しらけた目で見つつ、彼の一挙一動に目を光らせる。
『おべっかを言う人はあたし、一番嫌いなの。』
いらつきながら言ってやる。
反抗期のふりして彼をおちょくる。
『美里、お前は協力してくれる人がいる。
さしづめ、白河 周也ってところか。』
あたしとシュウの関係に気づかれないと思った。
あたしと誰が協力してるって?
そのノリでいこう。
『あたしは、お兄様が思う、純情可憐なお嬢様じゃないからね。
役所に出す書類なんてごまかしかたの髄を知ってるから。』
笑ってる…つもりなんだろうな。
表情が出てない。
早く、表情を取り戻してやりたい。
せめて、できるのは彼女が学園で過ごす日々が充実した日々であるよう学園長として尽力するだけだ――――。




