学校
19章 「学校」
『えっ?学校?』
驚いたあたしは夕食のパスタを掻き込み過ぎてむせた。
シュウは今、学校に少しの間、行ってみないかと言ったのだ。
『従妹の春架として、小学校5年生として通わないか?』
あの、リーマンに会う時間がないぐらいの嫉妬心が心の底から沸いてきて。
美里の心を取り戻したくて。
『あたしが行って大丈夫?
だって、春架さんは?』
ミサトが当惑しているのも無理はない。
ミサトには春架を会わせていないし、春架がどんな状況かも知らないはずだ。
春架は今、病院に入院中だ。
春架が入院してからもう、5年。
あの日、俺らは全てを失った。
春架と俺は8つ離れた従兄妹だ。
春架が5つ、俺が14のとき、あの事故が起こった。
そのとき、春架と俺の一家は一緒にいた。
春架、俺の両親は即死、春架は重傷、俺だけ軽傷。
俺だけが助かって生き残ってしまった。
生活は問題ない。
保険金があるし、春架の入院だって補償が出る。
だから、決めた。
生きてるんだから、春架が目を覚ましたとき、たよりになる兄でいようと。
学校に行って、春架を助ける技術を身につけようと。
あぁ、それでシュウは時々帰って来ないことがあるんだ。
友達のところを遊び歩いているのだと思っていた。
正直にそれを言うと、悲しそうに顔を上げたシュウ。
『春架が急変して、命が危ないってことが何度かあった。』
急変の電話は携帯で受けた。
授業や講義を投げ出して病院に走った。
春架が死ぬと思うと怖くて。
一人ぼっちて残されて、天涯孤独な人生が怖くて。
『そんなの、あたしだって変わらない。
川瀬に引き取られなかったら、あたしだって、天涯孤独だった。』
那祇は死んでいるし、那月は19年たった今でも、依然として行方不明なまま。
少なくとも、生まれたときは一緒にいたはずだ。
川瀬にいたときは探していたのだけど、ここまで出てこないところを見ると会いたくないと思っているのだろう。
探すことをやめた。
『白河 春架です。ずっと入院してて、やっと憧れの学校に来ることができました。
仲良くしてください。』
シュウとの打ち合わせで、春架は虚弱体質で入院していたことにする。
学校に行っていないことをごまかすためだ。
そういえば、あたしもまともな義務教育を受けなかったな。なんて。
シュウには川瀬に引き取られる前の話はしていない。
川瀬にいる頃、少なくとも、シュウと出会った高校からは真面目に学校に行っていたから、シュウは気づいていないだろう。
あたしが、籍を置くだけで義務教育を終えたことを――――。




