約束
12章 「約束」
『本当に約束っすからね。
親父、お袋。
俺が18になったら…。』
那祇、お前と交わした約束は果たされなかったな。
那祇が亡くなったのはそれから3か月、那祇がちょうど、17歳と3か月になったときだった。
『いやぁっ、那祇っ…。な、ぎ。』
あのときの那月さんの嘆き声は悲痛さを鮮やかに覚えている。
その、痛ましい姿に、那祇の供養も那祇が家を出て連絡一つしていない家族に奪われた姿に、どうして胸を痛めずにすむだろうか。
顔色が悪いのを那祇を亡くしたせいだと思っていた。
今思えば、この時、既に那祇の子供が仕込まれていた事になる。
それが、美里だ。
『那月さん、那祇は私たちの息子になる予定だったのよ。』
あの日の事は妻も俺も忘れた事はなかった。
那祇の17歳の誕生日。
那祇はプレゼントより、一つ、約束をねだった。
『那祇は今のままでは、家族からあなたとの結婚を祝福してもらえないから、新しく家族を作るんだって。』
那祇は頭を下げて、那祇が18になったら那祇を養子として迎え入れ、那月との結婚を祝福してほしいとねだった。
那祇のような息子がほしいと思っていた二人だったから、二つ返事で了承した。
結果として、その約束は果たされず、那月は那祇の死からすぐに行方知れずなってしまったが…。
那祇との子供を那月は産んでいた。
那祇と那月がどれだけ想いあい、愛しあい、お互いに家族になることを切望していたか。
間近で観ていた二人にならわかる。
やっと、二人は家族になれた。
美里の存在が二人を繋いでいると。
那祇と曽根の間で交わされた約束と那祇の将来への夢。
そして、那祇という人物の人となり。
那祇の生涯唯一愛した那月という人物。
美里は気づいた。
途切れた記憶の中に本当の美里が眠ることに。
失われた記憶に人を愛する感情が封じ込められ、今の自分に人を愛する心がないことに。
これは美里と美里の約束。
いつか、心から愛する人に出会ったときのため。
人を愛する心を持っているふりをしましょう。
那月のように、愛する人との別れに涙できるように。
『美里、帰るぞ。
帰ったら、お前のその涙、止めてやるから。
お前の涙を見ていいのは俺だけだ。』
どうして?
意地悪な言い方なのに暖かい。
冷たく閉ざされた心に届く声は甘く優しい。
まだ、この心には名前を見つけられない。
寒くて凍てつく中で一人でいたくないと叫ぶ幼いあたし。
凍えたあたしを見つけ出したのはあなただった――――。




