秘密
11章 「秘密」
『あんた、何で那祇の事なんて調べてる?』
俺は焦った。
那祇がいいとこの一人息子だと知ったのは、那祇が亡くなってしばらく後の事だ。
那祇はここに来たとき、恋人との仲を親に反対され、駆け落ちしてきたと言った。
二人とも、まだ、15かそこらだった。
那祇は若いくせにしっかりしていて、役所関係の書類を親が見つけ出せないようにして通した。
彼女、身体があまり丈夫なほうではないから、保険が効かないと苦しい生活をさせることになるから。
はにかむ姿は年相応で幼いのに、彼女を愛する、守ろうとする心は本物たった。
彼女の方も、気立てがよく器用で家事も一通りできて、なにより建設業で働く那祇の健康を自分の健康より優先させてた。
いつも、那祇と彼女を夕食に招いていた。
那祇は働き者だし、いい旦那を見つけたな、なんて妻とからかった。
那祇も彼女も顔を赤く染めてそれも、初々しいかぎりだった。
妻は血のつながりこそ無いものの、那祇と彼女は息子と娘だと言っていたし、二人もそれに乗っかって、親父、お袋と呼んでくれた。
それが照れ臭くて。
『信じて貰えるかわかりませんが、那祇氏には子供がいたんです。
今は、川瀬家の養女として、僕の妹ということになっていますが。』
肝心なことが抜けていることに気づかない。
那祇のことをどこまで知っているのか?というところに注目してしまっている。
『那祇に隠し子でも見つかって計算したら、ここにいた時期だったとかならないぞ。
恋人一筋、浮いた話一つ出てきやしない。』
那祇は本当に彼女を愛していた。
だから、あんなことを頼んできたのだ。
那祇の最初にして最後の頼みは果たされなかったけれど。
彼の残された想いだけは那祇亡き後、彼女に伝えたが…。
『えっ?ああ、違いますよ。
那祇氏とここにいる間、奥さん、て事になってた恋人との娘ですよ?』
那祇は駆け落ちで結婚していなかった。
いや、できなかった。
美里って言うんですよ。妹。
うちに来る前まで親戚の家たらい回しにされてあまりいい扱いではなくて、感情がない、子供っぽいところのない、大人びた淡々とした性格に育ちました。
彼女は両親の事をあまり知りません。
あなたにそれを教え聞かせてほしいのです。
若造の事は気にくわないが、その熱心さだけは粋に感じて一度だけ、妹に妻共々会ってやる、と伝える。
『はっ、はじめましてっ。
あのっ、美里といいますっ。』
兄に友人に会うからと連れてこられた建築会社のパーティションで区切られた一角。
『ああっ、那祇だ。
本当に那祇の子だ。あの頃の那祇そっくりだ。
』
那祇そっくりだ。でも、彼女にも似ている。
那祇、どうして、この子を残して死んだ。
那祇、お前は那月さんと、この子と幸せにならなきゃいけなかった。
那祇、お前、この子の存在を知っていたのか?
『な…ぎ?な、つき?』
あり得ないことなのだが、美里は両親の名前ですら知らなかった。
それが、美里の隠された記憶の秘密に繋がる一欠片のパズルのピースだった――――。




