その41
「君に操作して欲しい情報がある。まず、劉賢誠や郭斯錘たちが我らの元に集い、こちらの数が四千になったことを城内に伝わるようにしてくれ。そして、劉健皇大将軍が罠に嵌められ、陥れられた真実を息子である劉賢誠が知ったと、このことを、孫夏亮だけに伝わるようにしてほしい」
神羅威の話を聞いて羽宮亜は驚いた。
戦いにおいて、自軍の数が相手にわからないというのは最大の強みなのだ、それを教えてしまうなどとは戦いにおいてはありえないことであった。
「わかった、やってみよう」
羽宮亜は暫し神羅威の顔を眺め、そして、何も聞かずにそう答えた。
「そして我らは簾の城を迂回し、東へ向かうとの情報を流して欲しい」
神羅威の目は忙しそうにあちこちを見ている、彼の頭の中ではすでに戦いは始まっているようだった。
「城の中にも俺の手の者はいる、任せておけ」
羽宮亜は神羅威の肩を叩いた。
「それと、もう一つ、兵たちの間に広めてもらいたい噂がある」
神羅威はさらに付け加えた。
城内にいる羽宮亜の手の者の情報操作により、紫羅義たち一行の情勢と現在位置が国王の耳に届いた。
「劉賢誠め、あの若さで将軍にしてやった恩義を忘れ、反乱軍に加わるとは許せぬ!」
国王は両の拳を握りしめ、天井を仰ぎワナワナと体を震わせた。
劉賢誠が紫羅義たちの元に集まったことは聞いたが、孫夏亮が劉健皇大将軍を陥れた事実は国王の耳に入ってはいなかった。
「どこから陰謀が漏れたのだ。劉健皇大将軍を陥れたことが発覚すれば、この怒りはこちらに向けられる、なんとしても奴ら全員の口を封じなければ」
孫夏亮は怒りに体を震わせる国王を見ながら呟いた。
全軍をもって紫羅義たちを追撃し、その場で全員を斬ることを孫夏亮は進言したが、他の重臣たちは首を横に振った。
「反乱軍はこの城を迂回して進むと言うではないですか、敵は四千とか、戦えばこちらも大きな損害を被るでしょう、無理に戦いを仕掛けることもないのではありませんか。劉賢誠のことなど、もう放っておいたらいかがでしょう」
そんな意見がほとんどだった。
最初は興奮していた国王も口々にそう言われると徐々に落ち着きを取り戻し、確かにそうだ、無駄な戦いで大事な兵たちを消耗することもないかと言い始めた。
「大王様ほどのお方が、劉賢誠程度の小物ごときを気にしては威厳にかかわります」
さらにおべんちゃらを言う重臣もいた。
彼らは戦いを望まない。平和とか兵の命とかを考えているわけではなく、戦って、もし負けるようなことがあれば、自分たちの立場が危うくなる。兵は戦って恩賞を受け取り、上を目指そうとする。しかし、国王の取り巻きとなり安穏とその立場に居座わってしまった者たちは戦いをできる限り避けたいのだ。
「そうか、劉賢誠など小物か、わしが真剣に相手をするほどの者ではないか」
国王の機嫌は上を向き始めていた。
「まずい、劉賢誠を含む反逆者の一団は二、三日のうちにはこの近くを通り過ぎて行くだろう、俺が劉健皇大将軍を陥れたことは、すでに反乱軍の全員が知っているものと思って間違いない、そんなに大勢の人間が知っていればどこから話が漏れかわからない、なんとしても、反逆者たちを討つという名目を考えねば」
孫夏亮は焦ったが、口々に国王をもちあげ、戦いを回避しようとする重臣たちの数に押され、場の勢いに流されてしまった。
孫夏亮の中にも迷いがあった。
「このまま行かせてしまえば、それで済むのではないか、彼らの目は志芭の国を見ているのだろうから、どうせどこかでほとんどの者は斬られるか、処刑されるのだろう」
孫夏亮は自分の書斎で独り呟いた。
それから三日後、孫夏亮の腹心が妙な噂が飛び交っていると報告に来た。




