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紫羅義  作者: 海道 睦月
21/125

その21

「情報によると、ここから十日ほどのところに(てい)(かい)という地がある」

 羽宮亜が神羅威に向かって話し始めた。

「そこを治める太守は()(ぶん)(かん)と言って、農民からの搾取はかなりひどいらしい、周辺の村では毎日のように餓死する者がいるそうだ。しかも県令は農民が逆らったり、逃げ出さないように、各村から人質をとって城の中に幽閉しているらしい」

「なんだって、いくら世が乱れているとはいえそれはひどい、我らの進むべき道の中には、そんな村々の開放も含まれているはずだ、放ってはおけない、その地へ寄るように紫羅義殿に進言しよう」

 神羅威は拳を握り締め、険しい顔で語った。そして、その後で少し間をおいて羽宮亜に問いかけた。

「羽宮亜よ、君が色々な地方に情報を得るための者を送り込んでいるのは知っているが、なぜ、あちこちの今の現状をそこまで詳しく知っているんだい?」

「う~ん」

 羽宮亜は天を仰いだ。

「そうだな、我らは今や天下を伺う紫羅義殿を補佐する者同士だ、君にだけには話しておこう」

 そう言うと、手をあげて何やら周囲に合図を送った。

 神羅威が辺りを見回すと、あちらこちらの木の陰や物の陰から数十の人間が姿を現した。

「あの者たちは何者だい?」

 神羅威はあちこちを見回しながら尋ねた。

「連絡員さ、情報は速く、そして正確に伝わらなければならない、そして、それらは漏れてしまえば、場合によっては何の意味もなさなくなる、だから誰にも教えなかったんだ。俺の周囲にはいつも十数人の連絡員が他の者にわからないように張り付いていて情報を伝えてくれるのさ」

 そう言いながら羽宮亜がまた合図をすると、彼らは一斉に姿を消した。

 神羅威は羽宮亜という男を驚きの眼差しでまじまじと眺めた。

 各地に草として根付いている者たちの情報は、それを伝える者、つまり羽宮亜の位置をいつも掴んでいることで初めて活かすことができるのであり、各地の連絡員は常時、羽宮亜の周辺に張り付いて、彼と草たちの間を緊密に繋ぐ役割を果たしていた。今日の動きを羽宮亜は十二歳のときにすでに思い描いていたのだから神羅威が驚くのも無理からぬことであった。

 暫くして二人は紫羅義に定海という地に寄って、そこの農民たちを救いたいと申し出て、現状を説明した。

「よし、行こう」

 紫羅義はあっさりと返事をした。

 数日後、一行は定海へ向かう道を進んでいた、もはやお尋ね者であり、分かれて目立たなくするのも面倒だとばかりに、三百の集団は間隔を開けてはいるものの一群となって進んでいた。


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