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  作者: 湯城木肌
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 一日の終わりに何をしたのかなんていちいち覚えてない。そもそも思い出そうとするつもりもない。過去を振り返らないという格好の良い心情だからではなく、一日が変わらず日常だからである。毎日寸分たがわず同じように一日を過ごしていることはないが、たいして特別視し、記憶に刻むべき出来事が日常にはさまれるわけでもないのだ。

 昨日はふと思い立って一日の記録をメモ帳に日記としてつけることにした。朝食をすませ、二階の自室に戻って登校前の時間に日記を読み返してみる。隣の兄の部屋からいびきが聞こえるのは障害にはならないが、大学生とは中高生以上に勉強しているのかと問い詰めたくなる気分になった。

 昨日は帰宅した後、兄からコーラを受け取った。それから入浴し、夕食を済ませ、勉強をこなし、身支度をして、就寝する。何とも波のない文章が並んでおり、これは記して残しておく必要があるのかはなはだ疑問になった。そして死んだ後にプライバシーを訴えようとも隅から隅まで他人に読まれてしまう状況になってしまうことを考え、文字の書かれたページを破りとってまるめてゴミ箱に捨てた。死後は意識がなく現世を眺めることが出来なければ心配する必要もないかもしれないが、それは死んでみないと分からないものであるし、わざわざ黒歴史予備軍を生産する必要はない。人はいつ死ぬのか分からないのだから、始末できるものはさっさと始末しておくに限る。

 時計を眺めるとまだ普段の登校時間には早かったが、家を出ることにした。寝ている兄の部屋を一瞥し、「いってきます」と軽く声を掛ける。隣の部屋から寝ぼけた声で何かが返ってきたが、呂律が回っていないために判別不能だった。階段を降り、親にも「いってきます」と声を掛け、返事を背中で感じながら外に出る。

 快晴という呼び名がふさわしい天気で、太陽が元気だった。連想的に太陽のように明るい宇賀さんを思い出し、あたしはなんだろうと思って、雑草かなと適当に考えた。

 それからしばらく歩いていても、時間が早いためか同級生に会うことはなかった。だが代わりに一人の男が前から歩いてきた。学ランに学生帽という姿で高校生のような体格と顔立ちだった。この近辺に学生帽を着なければならない学校はあっただろうかと軽く記憶を探ってみるが、思い至る学校はない。

「あの」

「はい」

 通りすぎるつもりだったが、男はあたしの前に立ちふさがった。彼は修学旅行生で迷って道を訊ねに来たのだろうかと一瞬頭を過ぎったが、時期がおかしいだろう。

「何でしょう」

「ちょっとお訪ねしたいことが。今日はいつです?」

「九月五日です」

 日記をつける際に確認していたので、日付だけは確認していた。ついでに言うならば今日は火曜だ。

「ああ、すみません。西暦も教えてくれませんか?」

「はあ」

 どうしてその質問をしてきたがよく分からなかったが、言われた通りに西暦を答える。この人は何を求めているのだろう。

 あたしの表情から何かを読み取ったのか、彼は「ああ」と頷いた。

「すみません、驚かせてしまって。ちょっと遠い所から来たもので」

 遠い所、宇宙の彼方から来たとでもいうのだろうか。そう思っていると、彼はにこやかに笑って続けた。

「ここのはるか先から、二十五世紀からやってきました」

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