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巻き込まれた令嬢③

「オルゾ・セーガレ公爵令嬢!!この場をもって婚約破棄を宣言する!!」


 卒業式当日、バッカ様はオルゾ様に婚約破棄を突きつけた。

 婚約破棄を言いきったバッカ様は晴れやかな表情をしている。


 2週間前から、婚約破棄の言葉を噛まないように練習していたその成果が出たからだ。


 楽団の盛大な演奏が、演劇の一幕のようにこの場を盛り上げる。

 この日のために、バッカ様は国一番と名高い楽団を卒業パーティーに招いた。


 色々とツッコミを入れたいが、もう私にはそんな元気はない。





 オルゾに平民スキルを教えることになってから、色んなことがあった。平民スキルを教えることになった翌日に「卒業したら私とセナペ嬢は、平民と貴族の間柄になるのだから、私のことはオルゾって呼んで」と言われた。


断固として拒否した。


拒否した……はずなのに、「セダーノのことを呼び捨てにしているのだから、私のことも呼び捨てにできますよね?」と脅迫……ではなく、笑顔の圧に押し切られてしまった。その結果、あの場にいた全ての人達を呼び捨て呼びにすることになった。


 オルゾに平民スキルを教え始めてからも色々あった。何故か、バッカ様の『打倒カンスク一週目!』を学園の生徒のほとんどが知っていた。オルゾに平民スキルを教えていると知るやいなや、多くの生徒が私に声をかけてきた。バッカ様の同級生の多く(高位貴族の跡継ぎは除く)が、私に平民スキルを教えて欲しいと声を掛けてきた。


 私は声を大にして言いたい……

 



 何で!何で!私が王子や高位貴族の子息・令嬢に炊事・洗濯・掃除といった平民スキルを教えなければいけないの!!(心の叫び)



 私の心の叫びが届いたのか、下級貴族と貧乏貴族の子息・令嬢による平民スキル講座(有料)が開かれるようになった。


 本当に、色々あった。平民スキルを教えながら、友達と街に繰り出しぎりぎり高位貴族が着られる質の良い平民の服を買い集め、友達はそれらを高位貴族に仕入れ値の1.5倍の値段で売る商売を始めたり、洗濯の実践訓練と称して学園中のカーテンを皆で泡だらけになりながら洗ったり、星のキレイな夜にテントを張ってキャン……野宿訓練を行ったり、隠密行動の練習として夜の学園に皆で忍び込んだりした。


 バッカ様もオルゾも、そして多くの学園の生徒が参加してお祭り騒ぎになったなぁ(遠い目)。


 こんなに目立つ行動をしていても、学園長の「若気の至り」の一言で先生たちは生暖かい目でこちらを見るだけで、何も言ってこない。





「……色々な国や人から『オルゾを国賓として受け入れたい』と手紙をもらった。さすがオルゾだ」


 確かにバッカ様は色々な場所に手紙を出して『バッカ王子とセーガレ公爵令嬢を国賓として受け入れたい』と言う返事をもらっている。バッカ様は自分の名前が返事に書かれていることを、お世辞だと思っている。確かにお世辞で書いている国もあるが、本気でバッカ様とオルゾを国賓として迎え入れる準備をしている国があることを、学園長から聞いている。




「……ここで、彼女を紹介しよう。セナペ嬢、前へ」


 過去に思いを馳せていると、いきなり名前を呼ばれ前に出るようにバッカ様に促された。バッカ様に言いたい。紹介しようにも、すでに皆私のことを知っている。


「もちろん、いきなり修道院に行っても迷惑をかけてしまうことは分かっている。セナペ子爵令嬢にお願いしてセナペ子爵領の風習や修道院での生活について教えてもらった。その時に炊事・洗濯・掃除……その他多くの生活に必要なことについて学んだ。特に、掃除が得意だ」


 もちろん、そのことも皆知っている。知っているが、改めて自分のことを皆に紹介されるのはとても恥ずかしい。ああ、誰か私をこの場から連れ去って……


 あと、今更なんだけどね、本当に今更なんだけど……我が領地にある修道院は「北の『寒さが』厳しい修道院」です!!『カンスク』に出てくるような悪役令嬢が追放されるような「北の厳しい修道院」ではありません。それに、バッカ様に平民スキルを教えた謝礼金で修道院の改修を行ったから、もう寒くないです!!




「オルゾ……私と結婚してくれ」


「はい、バッカ様」


 私が羞恥に悶えている間に、婚約破棄は最終局面を迎え無事にバッカ様とオルゾは互いに思いを伝え、両片思いから両想いになった。


 皆でバッカ様とオルゾを祝福する拍手を送り、楽団も演奏で二人を祝福する。


 こうして、二人はハッピーエンドを迎えました。








 と、ならなかった。


 国王陛下と王妃殿下が、私たちが想定より早くバッカ様の婚約破棄騒動を聞きつけこちらに向かっている知らせが入った。


 楽団による、危機迫る音楽が演奏される。


 倒れそうになるバッカ様を支える友、バッカ様を勇気づける友の声。


 楽団による、バッカ様を勇気づける音楽が演奏される。



 それらに後押しされるようにバッカ様は自分で選んだ道を歩くために、オルゾと共に一歩踏み出した。


 そこからは、皆で大急ぎで旅の準備を整え、バッカ様と共にセナペ領へ向かうものと陽動するものに分かれてそれぞれ会場を後にした。



 卒業生達が去った会場に響くもの寂し気な音楽。その音楽を聴くのは私一人だけ。













 こうして、バッカ様が起こした婚約破棄騒動は幕を閉じ、私とバッカ様たちとの縁もこれで…切れなかった。



私が学園を卒業する前には、セナペ領より住みやすい土地に移り住んだり、他国に行ったりするものだと思っていたのに、定住して商売を始めたりしていた。



 私の見通しが甘かったことは認めよう。だけど、セナペ領すごい田舎だし、寒いし、年々若者が出で行く場所なのですよ。


 だから、バッカ様達も早々とセナペ領から出て行くと思っていたのに……卒業して領地に戻ると、オルゾが代表を務める中規模の商会が出来上がっていた。



「次期領主様、学園で受けた恩は忘れません。共にセナペ領を繁栄させて行きましょう」


 学園を卒業して私が領地に降り立つと、バッカ様やオルゾ……バッカ様と共にセナペ領にやって来た学園の先輩たちはそう言って、私に頭を下げた。










 バッカ様の婚約破棄騒動から数年後、セナペ領は第二の首都と呼ばれるようなった。

 セナペ領を第二の首都にするつもりなかったのに。バッカ様たちの活躍により流行の発信地・貿易の要所・世界的有名な観光地になってしまった


 私は、ここまでセナペ領を発展させるつもりはなかったのに。


 この目覚ましい発展により一部の中央貴族からは敵視され、嫌がらせを受けたり嫌味を言われたりするようになり、胃が痛い日々を過ごすことになった。


バッカ様と関わりあいになってから、私は一生波瀾万丈な生活を余儀なくされた。



「ペペ大丈夫かい?」


「セダーノ……」


 セダーノがティーセットの乗ったワゴンを押しながら、私の執務室に入ってきた。

 

 私は、幼馴染で憧れだったセダーノと結婚した。


 学園にいたときから私のことを支えてくれたセダーノ。セダーノから婚約の打診があったときは天にも昇るようだった。




「当主様、とある領地の領主がバッカ様のことを貶めいれた挙句に、商会に嫌がらせをしています。それに加え、バッカ様の暗殺を企てています」

 

二人で午後のティータイムを楽しんでいると、秘書兼護衛の女性が執務室の中に音もなく入ってきた。

彼女は元々北の辺境伯家に仕える諜報部隊の一員だったが、セダーノと結婚したことにより、私の秘書兼護衛になった。




「分かったわ。王家に領地戦の申請行いましょう」


 領民を護るのが領主の勤め。バッカ様に手を出そうとしたことを徹底的に後悔させてあげましょう。


補足

学園からセナペ領まで帰るのに一か月以上かかるため、ペペは長期休暇でも領地に帰らなかったためオルゾが商会を作っていることを知りませんでした。


ペペの父親である子爵は、ペペからの手紙とお金を受け取っていましたが、バッカ王子以外の高位貴族たちが一斉にやってきたため状況を呑み込めなかったため、ペペに手紙を書くことができませんでした。


領地戦

領地や一族の名誉のために、戦うこと。領地の全ての力を結集して戦うため大きな領地を持っているところが基本的に有利。領地が壊滅的なダメージを負う恐れがあるため、領地戦を行うためには王家の承認が必要。


バッカ王子名前の由来。

イタリア語のbacca(液果)が由来。



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