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パーティー組んだら全員ヒーラーだった件 ー侵食区域:HEAL CODEー  作者: もぁらす
第一章

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2話 固定パーティー


 集合場所の広場は、朝の光のわりに空気が重かった。


 侵食区域へ向かう前の冒険者たちは、誰もが口数少なく自分の装具を確認している。

 手首のリンク・ブレスを叩く者。

 刃の起動ラインを確かめる者。

 簡易触媒をベルトに差し込む者。


 その視線が、広場の中央へ進んでいく蓮を一瞬だけ捉え、すぐに外れた。


 緑。


 宝珠職だと分かる色を見ると、人はだいたい二種類に分かれる。

 安心するか、落胆するかだ。


 だがこの時間帯、この危険度、この報酬帯に集まっている連中の反応は、ほとんどいつも同じだった。


 いたのか。よかった。

 その次に、

 若いな。大丈夫か。


 今日の依頼先は広場の端にいた。

 赤、青、紫の三人組。


 大剣職は二十代前半くらいの男で、肩幅が広く、起動前でも装具のランクがそれなりに高いと分かる。いかにも火力職らしい、真正面から殴り抜くことに迷いのなさそうな立ち方をしていた。


 盾職は三十前後。青の装具ラインは控えめだが、前腕部の防護ユニットはかなり使い込まれている。現場経験が長いのだろう。ガタイはいいが、背丈は少し足りない。ふてぶてしい顔をしている。


 杖職の女は、少し眠そうな顔をしていた。長めのコートの裾を揺らしながら、起動レンズを指先で弄んでいる。紫の識別リングが二つ。術式補助のアクセサリまで自前で揃えているあたり、少なくとも貧乏ではなさそうだ。


 蓮が近づくと、大剣職の男が露骨に顔をしかめた。


「宝珠って、お前?」


 名前ではなく職で呼ばれるのは、もう慣れた。


「天城蓮です」


「……若くねえか」


「十五です」


 男の眉がさらに寄る。


「十五?」


「公認です」


「B残滓に十五の宝珠?」


 その言い方は、半分呆れ、半分は“足を引っ張られる側の不機嫌”全開だ。


 そういった態度を蓮は気にしないことにしている。


 気にしたところで、治療費は減らない。

 それに、こういう顔は見慣れている。


「やめとけ」


 盾職が口を挟んだ。


「宝珠が来ただけましだ。今朝も二件流れたぞ」


「何で宝珠にしか閉域スキル使えないかねー」


 杖職の女が肩をすくめる。


「火力ゴリ押しで行けるからヒールなんかいらない区域なのにさー」


 その会話に、蓮は何も返さなかった。


 全部その通りだからだ。


 宝珠職には一応攻撃スキルがあるが、火力職の通常攻撃にすら到底及ばない。

 それなのに侵食区域では最後の閉域が必須だから、危険度の高い案件でも宝珠が必要になる。


 結果、育っていない宝珠が無理やり危険地帯に引っ張り出される。


 育っていないから弱い。

 弱いから真っ先に死ぬ。


 この職の不遇は、こうして綺麗に出来上がっていた。


「今回、経験値設定は?」


 訊くと、少しだけ意外そうな顔をした。


「そんなとこ気にすんのかよ」


「……一応」


「均等だよ」


 答えたのは盾職だった。


「B残滓の外周ごときでラストアタックやる意味は薄い」


 その言葉に、蓮はほんの少しだけ肩の力を抜いた。


 均等分配。

 それは大半の一般パーティーにとって当たり前の設定だ。


 倒した敵の経験値を全員で割る。

 成長は遅くなるが、無難で、パーティー全体が少しずつ強くなる。


 だが、一部の上位パーティーは違う。


 最後の一撃を与えた者へ経験値を集中させる、ラストアタック制。

 極端な成長効率。

 だが、ラスアタを取ったものにしか経験値は入らないという極端な偏りは他のメンバーにはデメリットでもある。

 四人中一人しか経験値が得れないからだ。


 経験値が入らないというこのシステムがどういう事なのか、まだこの時は理解出来ていなかった。


 ただ、強い敵を倒せる=自分にも高い経験値が入ると思い込んでいたからだ。


 今は案件でこなす均等分配が1番無難だった。

 1人でモブ狩りをしていても、火力職のように数がこなせない。

 かと言って、均等パーティーを組んで宝珠の低レベル帯に付き合ってレベリングを手伝ってくれる仲間もいない。


 妹の治療費。

 最上位の治療術。

 追いつかない現実。


 限られた時間の中で、今はこれが精一杯の出来るレベリングなのだ。


「そんな事より早く終わらせようぜ。このあと女のとこ行きてーんだよ」


「アンタ、嫁いなかったっけ?」


「もう一つのパーティーで可愛いビーバーちゃん見つけてさ」


「ビーバー?それって可愛いの?」


 盾職と杖職の無駄話が続き、呆れた大剣職が痺れを切らせた。


「そんな話はいいから、ほら行くぞ」


「はいはい」


 盾職が端末を操作し、四人で認証枠へ移動する。


 リンク・ブレスが足元の認証円を読み取り、識別色を浮かび上がらせた。


 赤。

 青。

 紫。

 緑。


 四色が揃うと、封鎖ゲート表面の認証線が音もなく走る。


【四名認証 確認】

【侵食区域《第三区落下残滓》外周レイヤー 進入許可】

【パーティーリンク開始】


 蓮はその表示を見上げながら、手首のブレスをぎゅっと押さえた。


 リンク・ブレス。


 この世界で冒険者が冒険者であるための前提。

 公的登録名と公開名義、職業適性、パーティー同期、討伐記録、閉域履歴、報酬計算。全部がここに繋がっている。


 いまや人と区域を繋ぐ鍵でもあり、人と人を戦場で繋ぐ鎖でもある。


 そして、評価と成長を繋ぐものでもあった。


 だから皆、ここに一喜一憂する。

 数字に飢える。

 ランキングに振り回される。


 ゲートが開いた。


 向こう側から流れてくる空気は、外よりずっと重たい。

 生ぬるく、乾いていて、古い鉄と焦げたコンクリートの匂いが混じる。


 落下残滓(ざんし)


 フォール発生当初の濃い侵食が、いまだに澱のように残り続けている区域をそう呼ぶ。通常の侵食区域より位相の揺らぎが強く、モンスターの湧き方も不安定だ。最前線ほどではないが、外周でも油断すれば死人が出る。


 四人は慎重に中へ踏み込んだ。


 景色は、現実の都市をそのまま壊して灰をかぶせたみたいだった。

 半壊したコンビニ。

 ねじれたガードレール。

 ひび割れたアスファルトの裂け目から伸びる黒い結晶。

 看板の色まで抜け落ちたような、くすんだ街並み。


 空だけが白く濁っている。

 遠くで封鎖ドローンの羽音がした。


「一層目は散らし。二層目から残滓核の処理。三層目手前で簡易閉域。依頼内容はそこまで」


 大剣職が簡潔に言う。


「タンクは前。杖は上と横。宝珠は下がってろ。核見えたらすぐ言え」


「はい」


「閉域の準備は先にしておけ。湧きが重なったら長引く」


「分かってます」


 返した瞬間、左の壊れた路地から最初の侵食体が飛び出した。


 犬型。三体。


「雑魚ザコぉ!」


 盾が踏み込み、大剣の起動ラインを赤く灯らせる。振り抜かれた刃が先頭を真っ二つにし、その血代わりの黒い液がコンクリートに散った。


 残り二体が回り込もうとしたところへ盾を差し込み、動きを塞ぐ。杖の術式陣が足元に浮かび、紫の光が弧を描いた。


 二体目、三体目もすぐに崩れる。


【経験値取得:均等】


 通知が浮く。


 四分割ほんの微量。

 それでも、ちゃんと自分にも入る。


 蓮はその感覚に少しだけ安堵した。


「後ろ!」


 大剣の声に反応して、蓮は振り返った。


 細身の人型侵食体が飛びかかってくる。

 低級だが速度は速い。


 蓮は反射的に宝珠を起動した。


 緑の光が掌の上へ集まる。


「光弾」


 初歩攻撃スキル。

 火力職なら鼻で笑う程度の、小さな攻撃。


 それでも命中すれば足は止まる。

 侵食体の頭部が僅かに跳ね、その隙を盾が叩き落とした。


「へえ」


 大剣が片眉を上げる。


 さっきまでの露骨な不信は少しだけ薄れている。


 蓮はそれに気づいても、特に顔には出さなかった。


 評価されたくてやっているわけじゃない。

 ただ死にたくないだけだ。


 四人は崩れた交差点を抜け、一層目の奥へ進んでいく。

 途中、蓮は何度か足を止めた。


「左のビル、二階に溜まりがあります」


「分かるのか?」


「色が違う」


 説明しづらい感覚だった。


 侵食の濃い場所は、蓮には“流れが淀んでいる”ように見える。建物の壁面や道路の割れ目に残る揺らぎの違いが、なんとなく分かるのだ。


 大剣はそれ以上聞かなかった。


「ナギ」


「はいはい」


 杖の術式が二階窓へ飛び、隠れていた小型侵食体がまとめて落ちてくる。大剣がそれを刈る。


 連携としては悪くない。

 荒いが、最低限まともだ。


 だからこそ蓮は思う。


 やっぱり、四職編成は正解だ。


 四職がそれぞれ動いて、初めて一つのパーティーになる。


 自分も固定パーティーが組めたら……。もっと育成が楽になるのに。


「おい!」


 盾の声に意識を引き戻される。


 通りの先、地面の裂け目から黒い核片が半ば露出していた。周囲の位相が歪んでいる。簡易残滓核だ。これを放置すれば、外周でも侵食体の湧きが濃くなる。


「閉じる準備!」


「はい」


「俺が先に湧きを削る」


 盾が前へ出る


「いいよなあ、何もせずに経験値だけ貰えてよお」


 侵食体が核の周囲から這い出してくる。三体、四体、五体。大剣の刃が閃き、盾が押し返し、杖の術式がバフをかける。

 だが、一体だけ、運悪く蓮の側へ抜けてきた。


 人型。

 腕が長い。

 喉の奥で泡立つような音を立てながら、一直線に跳び込んでくる。


 蓮は宝珠を構えた。


 たぶん、ここで倒せる。


 今の距離なら、自分の攻撃スキルでも間に合う。


 その時だった。


「下がれ!」


 大剣の赤い軌跡が視界を横切る。


 次の瞬間、侵食体は両断されていた。



 蓮はわずかに唇を噛んだ。


 その表情を見たのか、盾がふっと笑う。


「おんぶに抱っこだな」


 大剣は気づいていないのか、あるいは気づいていて流したのか、大剣を肩へ乗せて核の方を顎で示した。


「ほら、閉じる係の出番だ」


 蓮は何も返さず、核の前へ立った。


 核は黒く、脈打つように揺れている。

 倒すだけでは終わらない。

 これを閉じなければ、この区域はまた濁りを増す。


 緑の光が宝珠の表面に走る。


 蓮は息を整え、侵食の流れを読んだ。

 核の芯。

 残滓の淀み。

 閉じるべき線。


「……閉域開始」


 静かな声とともに、緑の術式が細く伸びる。


 火力職の技みたいに派手ではない。

 だがその線に触れた侵食は、音もなくほどけていく。


 大剣が少しだけ眉を上げた。

 杖は黙って周囲を警戒している。

 盾の視線だけが、面白いものを見るように蓮の手元へ落ちていた。


 緑の光が一度だけ強く脈動する。


 次の瞬間、核は砂のように崩れ落ちた。


【簡易閉域 成功】

【区域安定度 微回復】


 通知が浮かぶ。


 空気が、ほんの少しだけ軽くなる。



 大剣は短く息を吐いた。


「三層手前まですぐだな。ペース悪くないぞ」


 その言葉に、蓮はごく浅く頷く。


 四人は再び通りを進み始めた。


 三層手前へ向かうにつれて、灰街区の空気は少しずつ重くなっていった。


 外周とはいえ、落下残滓の区域は濃淡が激しい。

 ひとつ通りを曲がるだけで、さっきまで薄かった侵食の気配が急に濃くなることもある。崩れた地下道の入口、ひび割れた交差点、看板の落ちた商業ビルの隙間。そういう場所に、残滓は澱のように溜まっていた。


 先を行く大剣が、大きな剣を肩に担いだまま舌打ちする。


「また来るぞ」


 視線の先、廃車の影で黒い影がうごめいた。


 四足の侵食体。

 犬型より胴が長く、肋骨だけが異様に浮いて見える。灰街区に多い腐食狼型だ。


「三……いや、五体」


 杖が起動レンズを下ろして呟く。


「右の影にもいる」


「前、押さえる」


 盾が短く言って、一歩前へ出た。

 青い起動ラインが走り、盾の表面に薄い防壁膜が張られる。


「大剣、正面頼む」


「言われなくても」


 赤い軌跡が灰色の街路を裂いた。


 大剣の一撃で先頭の二体が吹き飛ぶ。残りは左右へ散ろうとしたが、盾が進路を塞ぎ、杖の術式がその動きを鈍らせた。


 蓮は少しだけ目を細めた。


 野良案件のパーティーは当たり外れが激しい。前に出たがって崩れる者、盾の役割を忘れる者、閉域のことなど考えない者。そういう連中と比べれば、この三人はずっとまともだった。


 それだけで、胸の奥に小さな期待が生まれてしまう。


 もし、こういう人たちと固定で組めたら。

 毎回一から空気を読む必要もなくて、少しは楽になるんじゃないか。


 そのまま歩き出す背中を見ながら、蓮は小さく息を吐く。


 四階建ての雑居ビル。

 ガラスは割れ、看板の文字はほとんど剥がれている。入口の周りを這う黒い結晶の量が、もう普通ではなかった。


 中へ入ると、湿気とコンクリートの粉の匂いの奥に、脈打つような黒い光が見えた。


 核だ。外周に出来るものとしては濃い。放置すれば、このビル一帯だけが独立した小さな侵食層になってもおかしくない。

 核の周囲から、侵食体が次々と湧き出してくる。

 人型が六。うち一体だけ、明らかに他より濃い。


「行くぞ!」


 盾の声と同時に、大剣が踏み込む。


 赤い軌跡。

 一体目が裂ける。

 二体目、三体目が散る。


 盾が前を締め、杖の術式が床へ広がる。動きが鈍ったところを大剣が叩き潰していく。


 この三人なら、少なくとも露骨に雑用扱いはされないんじゃないか。

 次も呼んでもらえるかもしれない。


 そんな淡い期待が、核の前に立つ頃には、少しだけ形になっていた。


「すぐに閉じられるか」


 盾が聞く。


「はい」


「周り潰してる間に頼むわ」


 蓮は頷き、核の前へ出た。


 宝珠を両手で包むように持つ。

 侵食の流れを読む。

 綻びを探す。

 閉じる線を見つける。


「……閉域」


 緑の光が細く伸びた。


 最後に一度だけ核が震え、砂のように崩れ落ちる。


【小型残滓核 閉域成功】

【区域安定度 回復】


 通知が浮かぶ。


 ビルの中に溜まっていた重い空気が軽くなっていく。


「思ったより早く終わったわね」


 最初に呟いたのは杖だった。


 大剣は崩れた核の跡を見下ろし、それから蓮を見た。


「段取り上手いな、お前」


 その言葉に、蓮は小さく頷いた。


 依頼が終わったあと、言ってみようか。


 ほんの一言でいい。

 断られても、今さら傷つくことなんて――


 四人は再びビルを出て、灰色の通りを進んだ。


 その途中、別のパーティーとすれ違った。

 こちらより装具の質が高い。大剣、盾、杖の3人パーティー。しかもスポンサー印のついた補助ケースを持っている。


「案件のいらねえレベリング野郎共は呑気だな」


「格差社会だからねえ」


 レベリングパーティーに宝珠がいない事は珍しく無い。


「レベリングに……宝珠ってそんなに要らないんですか」


 つい蓮がぽつりと聞くと、杖が肩をすくめた。


「要らないっていうか、別にヒール要らないからなあ」


「無駄に経験値吸われて邪魔っていうか……」


 わかっていたことをいざ口に出されると胸がチクリと痛む。


「そうですよね……」


「危険度高いとこなら必要なんだろうけど、わざわざそんなとこ行かないしね」


「そもそもそんなところへ行ける宝珠いないしな」


 盾が続ける。


「強い宝珠がいたら話は別だが」


 その言葉に、蓮の胸が熱くなる。


 この固定パーティーに入れれば!

 

 三層手前の封鎖ラインが見えてきた頃には、その考えはかなり大きくなっていた。


 依頼完了の通知が入り、基本報酬と追加報酬が確定する。

 数字を見て、蓮はまず妹の薬代を頭の中で計算した。まだ少し足りない。午後も潜らなければならない。


 でも、その前に。


 今なら言えるかもしれない。


 閉域を終わらせ四人で区域を出て、封鎖ゲートの外へ戻る。重たい空気がふっと抜け、現実の朝の匂いが戻ってきた。監視ドローンの音、遠くの車の走行音、人の話し声。


 依頼が終われば、パーティーはそこで解散だ。


 蓮は少しだけ迷ってから、盾に声をかけた。


「あの」


 三人がこちらを見る。


「今日みたいな案件、またあったら……その、もしよかったら、声かけてもらえませんか」


 言えた、と思った瞬間、胸の鼓動が速くなる。


 大したことは言っていない。

 固定に入れてください、と言ったわけでもない。

 ただ、次があれば、と頼んだだけだ。


 だが、その沈黙は思っていたより長かった。


 最初に目を逸らしたのは杖だった。

 少し困ったように、でも面倒ごとには巻き込まれたくないという顔で。


 大剣は頭を掻いて、露骨に言いづらそうにした。

 そして最後に、盾が答えた。


「悪い」


 蓮の胸の奥が、すっと冷える。


「うちは基本、三人で固定なんだ」


「……三人?」


「宝珠だけ、その時々で呼んでる」


 言い方は柔らかかった。

 だが意味は、刃物みたいにはっきりしていた。


 固定に入るのは三人まで。

 宝珠は閉域の必要な案件のときのみ。

 必要ではあるが、“身内”には要らない。


 それがこの世界の普通だ。


 杖が、少しだけ気まずそうに笑う。


「ごめんね」


 大剣は最後に一言だけ足した。


「でも、またどっかで一緒になったら頼むわ」


 慰めなのか、本心なのか分からない言葉だった。


 蓮は数秒遅れて、なんとか頷く。


「……はい」


 それだけ言うのが精一杯だった。


 三人は軽く手を振って、そのまま去っていく。

 赤、青、紫。


 緑だけが、その場に残った。


 蓮はしばらく動けなかった。


 分かっていたことだ。

 宝珠は足手まとい。

 閉域が必要な時だけ呼ばれる。でも、それだけだ。

 一緒に前へ進む仲間にはならない。


 それが“宝珠”の現実だった。


 端末に、依頼完了の振込予定が表示される。

 今日の分の金。

 妹の薬代。

 足りない生活費。

 次の案件。


 現実はどこまでも残酷だ。


 さっきまで胸のどこかにあった小さな期待が、今は綺麗になくなっていた。


「……結局、そうなるよな」


 誰にともなく呟く。


 どこの固定にも入れない。

 必要な時だけ呼ばれて、終わればサヨナラ。


 なら、やっぱり1人でレベリングするしかない。


 誰かに入れてもらうんじゃなく、自分の価値を押し通せる位置まで行くしかない。


 蓮は手首のリンク・ブレスを見下ろした。

 緑の表示は相変わらず静かだ。

 静かすぎて、いっそ腹が立つ。


 今日みたいに、ちゃんと閉域をしても。

 危ない場面で補助を入れても。

 仲間にはしてもらえない。


 もっと目に見える強さ。

 もっと誰も無視できない結果。

 もっと、“こいつがいないと困る”じゃなく、“こいつを手放したくない”と思わせる何か。


 その時、広場の大型スクリーンに新しい特集映像が流れた。


『理想編成が切り拓く新時代』

『最速攻略の最前線』

『注目のS級パーティーに迫る』


 映像に映るのは、深層区域の攻略記録と、派手な戦闘シーン。

 けれど、そこにいる連中は明らかに今の自分とは別の世界の住人だった。


 眩しいな、と蓮は思う。


 ああいう場所へ行けば、何かが変わるのだろうか。

 今みたいに、閉域だけの便利屋で終わらなくて済むのだろうか。


 そんなことを考えてしまう自分が、少しだけ情けない。


 でも、このあと午後の案件を取るしかない。

 

 蓮は端末を開き、次の募集一覧を呼び出した。


 まだ足りない。

 金も。

 レベルも。

 何もかも。


 広場を吹き抜ける風の中、蓮はひとり、次の案件へ指を伸ばした。


 




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