第41話 急接近
ワタナベから相談を受けて、誰か紹介できる人はいないかと、考えてみた。
(ゆかりぬももうすぐ結婚するしなぁ。そんな急に男の子紹介したいとか言えるほど親しい友達って……。)
大体、ワタナベの趣味がわからん。何やら細かいことを言っていたけど、これといって魅力的だと思うような特徴は言っていなかった気がする。多分、普通の子で良いのだろう。
(普通の子、とは言っても、なるべく相性が良さそうな人を紹介したい。どうしようかなぁ。)
「あすか?どうしたの?考え事?」
リビングの点いていないテレビの前に座って、虚空を眺めていた私に、隼人さんが後ろから声を掛けてきた。
「うん……。ワタナベがね、彼女欲しいから誰か紹介してくれないかって。」
「へぇ。アイツ、モテるだろうにね。」
「ね。なんでも、イケメン扱いされたくないんだって。」
「ふふ。そりゃあ、わからんでもないけど、出会ってすぐは難しいんじゃない?」
「でしょ。私もあんまり友達いないし、困っちゃって。」
「これ、飲む?」
そっと差し出されたのはマグカップ。シナモンの香りがする、ホットワインだ。うん、と返事をすると、熱いから気をつけて、と手渡された。
「俺も、女友達はあんまり居ないな。地元の奴等はああだし、こっちの奴等も、渡辺からしたら年上になるしな。」
「うーん。」
「あすかが優しいのはわかったから、あんまり、他の男の事、考えるのやめて。妬くぞ。」
「あは、ごめんって。」
◆◇◆
翌日、隼人さんは泊まり掛けで遠方の展示会へ出掛けていった。私はいつも通り、社内で仕事だ。隼人さんが居ないから、自分で電車に乗って帰らないといけない。あんまり残業も出来ないな。
「アスカ、今日、晩飯食いに行かね?」
「あれ?なんで、ワタナベが居るの?隼人さんと出張じゃなかったの?」
「俺?元々メンバーじゃなかったよ。徳永先輩、部長と一緒に出張だよ。」
「そうなんだ!まあ、大きな展示会だって言ってたしな。」
「だから、晩飯、行かね?」
「あんまり遅くならないなら。今日は電車で帰らなきゃいけないし。」
「遅くなったら、俺が送ってやるよ。」
「遅くなったらね。じゃ、行こっか。あと三十分くらいで片付けるから。」
「俺も片付けてくるわ。」
こうして、ワタナベとご飯を食べることになった。隼人さんが居ないときに、全く罪悪感がないと言えば嘘になる。浮気のつもりはないけど、他の男と二人きりでご飯なんて、気分良くないだろうな、と心配になる。
「俺、オススメの店があるから、そこに行こうと思うんだ。ちょっと歩くけど、良い?」
「ちょっとってどれくらい?」
「二十分くらいかな。」
「まぁ……。それくらいなら、まだ時間も早いし。」
「じゃ、行こ。」
夜道を二人、並んで歩く。ワタナベの部屋の方向らしく、ワタナベは自転車を押している。駅とは反対の方向へ向かっていく。
(ワタナベのコトをあまり意識したことなかったけど、こうして、二人だけで晩御飯とか、行ったことなかったんじゃない?なんだか、恋人同士みたいで気まずいな。)
そう思って、心なしか離れて歩こうとしたとき、ワタナベが話し掛けてきた。
「こうやって歩いてると、なんか、高校生カップルみたいだな。」
「そう、かな?そうでもないんじゃない?」
同じこと考えてた!と思って、心臓が跳ねたが、おくびにも出さず、しれっと返事をした。
そのまま、何度かワタナベが話し掛けてきたけど、他愛もない返事をしつつ、歩き続けた。
案内されたのは、小さなカフェバーだった。住宅地の中にあるカフェ。夜の営業では証明を暗めにして、お酒と創作料理を出しているお店のようだ。
「どう?いい感じじゃない?」
「うん、おしゃれだね。よく一人で来るの?」
「うん。家から近いし、時々ね。パスタとかもあるから、軽くご飯食べたいときにちょうど良いんだ。」
「へえ。」
それでいくつか、ワタナベのチョイスで注文することにした。
注文を取りに来たマスターが声を掛けてきた。
「スバル、女の子連れって久し振りじゃない?彼女?こんばんは、ゆっくりしていってね。」
「マスター、コイツは同僚。まだ、彼女とかじゃないよ。」
(まだ!?)
どういうこと!?まだって!?
思わず驚いて、持っていたメニューを落としてしまった。
ワタナベは特に気にした様子もなく、ドリンクやらフードやらを注文する。
「わ、ワタナベ?今日は何か相談があるの?二人でご飯なんて、考えてみたら初めてだったかも?」
「そうだな、アスカと二人で夜ご飯は初めてだったかもな。」
「だ、だよね?……今日はアレ?女の子、いつ紹介してくれるんだって話?」
「違うよ。ただ、アスカと二人で晩飯食ったことなかったって。」
「そ、そう……。」
いつもと同じように振る舞うワタナベが、なんだかいつもと違う気がして、落ち着かなかった。
嫌な予感がするのに断ることもできないっていう。




