第39話 妄想
まだ少し疲れが残っている感じがするけど、ほぼいつも通りに復調した。あまり残業しすぎないようにと釘を刺されている。
「ただいま。」
隼人さんが部屋の鍵を開けて中に入る。
私も続いて部屋に入った。
「お邪魔します。」
「『ただいま』でいいよ。」
「たっ、ただいま。」
「おかえり、あすか。」
隼人さんが心配して、しばらく自分の部屋で一緒に暮らそうと言ってくれたので、私の部屋の片付けや洗濯をした後、数日の着替えを持って、隼人さんの部屋にやって来たのだ。
(笑った隼人さんが可愛い……。悩殺されそう。)
「さて、手を洗ってうがいして。すぐにお風呂入る?ご飯にしようか?」
(うっ……。寧ろ、その台詞、私の方が言うヤツでは?)
「どうした?」
「う、ううん、なんでもない。先に手洗ってから考えるね。」
洗面所で手洗いとうがいをする。
何回も隼人さんの部屋には来ているし、泊まったこともある。なんなら昨日もずっとこの部屋に居たのだけれど。
(なんで、こんなにドキドキするんだろう。別に今から裸を見せるわけでもないのに。)
隼人さんも手洗いとうがいをして、部屋着に着替えた。
「どうする?」
「お腹空いたからご飯が先が良いな。」
「そうだな。あすかの部屋に寄ったから、ちょっと遅くなったし、お腹すいたよな。」
◆◇◆
二人で夕食を作って食べた。テレビを見ながら談笑し、食後のコーヒー。穏やかなひととき。
(結婚したら、こんな感じになるのかなあ?)
「ん?どうした?」
「ううん、コーヒー美味しいなって。」
「インスタントだけどね。……さて、これ飲んだら、洗い物して、お風呂だな。」
「あ、お皿、洗うよ。」
「今日は良いよ、俺が洗うから。」
「でも……。」
「まだ、病み上がりだし。明日から手伝ってもらおっかな。」
「うん。わかった。」
「……お風呂、一緒に入る?」
「っ!?病み上がりなのに?」
「ははっ。冗談だよ。」
隼人さんはニコニコしながら立ち上がって、洗い物を始めた。
(優しいなぁ。今日だけかも知れないけどさ。)
「ほら、お風呂沸いてるしさ、先に入っといで。」
「うん。じゃあ、お先にいただきます。」
「ゆっくり暖まっておいで。」
「はーい。」
私の部屋のお風呂よりはもうすこし広いお風呂。確か二人でも一緒に入れる。
(新婚だったら、一緒に入るのかな?……一人の方がゆっくり出来るけど、二人一緒の方が水道光熱費は安くなるよね……。)
シャンプーが良い匂い。どのメーカーのどのブランドなのかわからない。でも、サラサラになるのにまとまる、フローラルな良い匂いのするシャンプー。うちの兄貴のトニックシャンプーとはえらい違いだ。
(だから隼人さんの髪の毛ってサラサラなのかな。……あとでどこのブランドなのか聞いてみよ。)
勝手知ったる他人の家。でも、家族になったらこれが普通になるのかな。そもそも、この部屋にこのまま一緒に住むのかな?別の部屋に引っ越すのかな。
(結婚するなら、自分のスペースも欲しいもんね……。)
いやいや、結婚って、まだまだ先だよね?
といっても、じきに三十路になってしまう。出来るなら早く結婚したいけど、まずは同棲から?
(いやー!めっちゃ妄想が膨らむわ!!)
今、もう、部屋でだらしない格好でゴロゴロしてるところまで想像できちゃった!
(涅槃像……。流石にドン引きされるかな……。いや、でも、それくらい許してもらえなかったら、結婚生活辛いよね??)
「あすか?のぼせてない?」
浴室の外から隼人さんの声がする。
久々の長風呂だ。残業続きで、ワンルームのユニットバスだと、浴槽にお湯を溜めることもほとんどない。
「大丈夫!」
「ゆっくりして良いけど、ほどほどにしなよ?」
「はーい。」
お風呂から上がって、ドライヤーで髪を乾かす。入れ違いで隼人さんがお風呂に入ろうとしている。
「あすか、先寝てて良いよ。寝室に布団敷いたから。」
「うん?お布団?」
「今日はね。ほんとは一緒のベッドで寝たいけど、風邪引いちゃ困るし。」
「ふふ。じゃあ明日は一緒に寝よ?」
「体調良かったらね?」
「うん。先にお布団に入ってるね?足とか踏まないでよ。」
「あすかの寝相次第だなぁ。」
「多分、まだ、それくらいの時間だったら大丈夫だよ。」
「どうかなぁ。」
「もう!早くお風呂に入りなさいよ!」
「ふふ。またあとでね。」
眼鏡を外して、隼人さんが浴室に入っていった。
(早速、新婚さんみたいだー。)
ドキドキしながら、寝室の布団に潜り込んだ。
22時に間に合いませんでした(^_^;)




