スライム退治
ディクソンに言われて残りの通路を探索したがもうスライムの塊もビッグスライムもいなかった。これでもう外に出られるかなとディクソンにいないことを伝えると。
「よし、じゃあ帰り道は軽くスライムを間引きしていこう。今年はちょっと多いみたいだからな」
「ほい」
先程ビッグスライムを斬った感覚を思い出しながらいつものサイズのスライムを退治していく。アビゲイルはだいたい半分くらいの確率でスライムを一度で切れるようになっていた。
「おーいいじゃないかアビー。もうちょっとだな」
「おっす、ありがとうございまっす」
ロイドも先程のビッグスライムとの戦いで懲りたのか叩くよりも斬ることにしたようだ。だが少し力まかせなのかうまく切れずに叩いて吹っ飛ばすことが多かった。吹っ飛んだスライムは壁や床にぶつかって四散していく。
「力任せだなー」
「でもロイドって力が強いんだね」
「そうだな、訓練を続けてるからか筋肉がついてきたのかもな」
二人でほめているとロイドは恥ずかしそうに顔を赤くした。ほめられることには慣れてないのかさらにスライムを力強く飛ばしている。
「といっても訓練は続けるからな、あとは早く起きる習慣をつけろよ」
「わかってるよ」
「じゃあ外に出ますか、昼飯はアルの出前がギルドに届いているはずだ」
「やったー!」
下水道から出ると春の日差しが眩しくて目を細める、慣れてくると木々や花の緑が心地よく見えてくる。アビゲイルは深呼吸してようやく一息ついた。
「あー、外はいい」
アビゲイルは川岸に降りていって下水道の入り口の上流にしゃがんで、手と顔を洗った。川の水はまだ冷たかったが火照った顔には気持ちよかった。ディクソンとロイドもアビゲイルにつられてザブザブと顔を洗う。
「よし、帰ろうぜ」
「おかえりなさい~。お疲れ様でした~。心臓亭からお昼ご飯が届いてますよ~」
「ねえねえナナ、私達って下水道くさい?」
アビゲイルに聞かれてナナはすぐに鼻を寄せて匂いを嗅いだ、胸元を嗅いでからすぐに後ろにまわって背中や首筋をくんくんと子犬みたいに嗅いでくる。
「くすぐったい」
「気になるほどではないですよ~? でもブーツは今日よく乾かして汚れを落とすといいと思います」
「そうだね、下水の中にも入っちゃったもんな・・・・一日で乾くかなあ?」
考えていると周りに数人のじじいが寄ってきているのに気づいた、アビゲイルが首をかしげていたが、ディクソンがすぐに気づいてアビゲイルからじじい達を引き剥がした。
「こらっやめろ何するんじゃっ! わしはただアビゲイルちゃんの匂いを確認してあげようとっ!」
「ナナ一人で十分だよ! スケベじじい共が!」
「アビーちゃんたすけて~!」
じじい達に助けを請われたがアビゲイルは断った。
「ごめん助けたくない」
「アビーちゅわ~んっ」
ディクソンに引っ張られて元いた場所に戻され、じじい達は周りのばばあ達に袋叩きにされていた。
匂いは気にならないと言われたが、念のためにとアビゲイル達は訓練場の隅にある休憩用のテーブルに心臓亭から届いた昼食を広げた。卵とベーコン、レタスを挟んだサンドイッチにイチゴジャムと先日パン屋さんが作った練乳バタークリームが挟まれた白パンサンドイッチ。茹でたてのアスパラにマヨネーズ。そしてコーヒー。
「うはーごちそうだね」
「ちょっと時間が押してるから、悪いが早めに食ってくれ」
「「「「いただきまーす」」」」
わいわいと食事を楽しんでいるとそこに村長がやってきた。
「やあやあ、下水道のスライム討伐お疲れ様。今年の様子はどうだったかね? 食事中すまんね、ちょっと早く聞きたくてね」
村長の言う気持ちもよくわかった、スライムの量が多かったので討伐と間引きに時間がかかったのだ。
「食いながらでいいかい?」
「構わないよ」
村長が地図を広げだしたので、アビゲイルはすぐに料理を避けてテーブルにスペースを作った。地図は下水道の地図で、方角と入り口、番地などが書かれていた。ディクソンはサンドイッチをかじりながら説明をした。
「ビッグスライムが出たのは毎年恒例の心臓亭の下。そしてもう一匹湧いていてそれは南のこの通り」
「賃貸の家が並んでいるところか、ここは今年と去年に入居者が増えて双子の子供が生まれているからなあ」
「じじばばの多い地域よりはよく食べてるってことなのかな?」
アビゲイルのつぶやきに村長が答えてくれた。
「毎年調べているけれど、赤ちゃんがいる家の下はよくスライムが溜まるんだよね。理由はわからないが、何か寄せるものがあるのかもね」
「生ゴミは下水に流すのを禁止しているから、何か他の理由かもな」
「へえ、不思議だねえ」
だが赤ちゃんが育って大きくなるとスライムは溜まらなくなるらしい。スライムを研究している学者がいたらさらに興味が沸くことかもしれないが、アビゲイルたちは「不思議」という言葉でそれを片付けた。
「壊れていた場所は無かったかい?」
「それはだいじょうぶ、だが掃除をしてから再確認だな。よしやるぞ!」
イチゴのサンドイッチを最後に大きく頬張り、パンパンと手や服についたパンくずを落としてディクソンは勢いよく立ち上がったが、ロイドもアビゲイルもまだ食べ終わってなかった。
「おいまだ食べ終わらないのかよ~」
「ディクソンが早すぎ!」
「そうだよ、Sランクと一緒にするな!」
二人で文句を言いながら慌てて食べる、だが間に合いそうにないのでアビゲイルはイチゴサンドを半分村長に渡した。さっきからイチゴサンドをちらちらと見ているのをアビゲイルは気づいていたのだ。
「食べきれないんでよかったら」
「おやっ。いいのかい? ありがとうあとで食べに行こうかと考えてたんだ」
そう言いながら嬉しそうに食べ始めた。村長はヒゲにクリームをつけつつ幸せそうだ。
村長と役場の人とでまた下水道に潜る。今度は人数が増えて松明も増えた分、スライムたちは日を怖がって避けていく。天井や水路、床などあらゆるところを丁寧に見ていく。どこが汚れているか明日の清掃する人数はどのくらいかを話しつつゆっくりと下水道全体をまわった。
戦いも無かったのでだいたい1時間ちょっとで終わり、引き換えして下水道の真ん中あたりについたとき、村長がカバンから小さな革袋を取り出した。袋から大豆くらいの大きさの小石を数粒出して、水路に何回かまいた。
「それなんですか?」
「これかい? 人工スライムの種だよ。種と言っても核石だけど」
「え? 間引きしたのにまた増やすんですか?」
人工スライムはゆっくり繁殖していくが、世代が変わるごとにどんどん野生化して凶暴になるらしい。なので残ったスライムたちと繁殖するときにまた新たな人工スライムを足して、穏やかな性格のスライムが増えるようにするのだそうだ。
「今まいて明日だいじょうぶなんですか?」
「普通のサイズになるには1週間くらいかかるからだいじょうぶだよ。明日の清掃でも何匹かのスライムは退治されるだろうから、また様子をみて種をまくかもね」
「今年は塊とビッグスライムでだいぶ数が減っていたから、今からまくんだよ。早いほうがいいからな」
確かにスライムが少ないと下水処理が遅れてしまい、汚水が川に流れてしまうだろう。少しでも早くスライムが増えてくれないと困る。
「スライムが少ないと下水の匂いが家に上がってきてしまうしね」
「なるほど」
「さあ、今日の下水道クエストは終わりだ。帰ろうぜ」
下水道を出ると太陽がだいぶ傾いていた、買い物をして帰ろうかと思ったが、下水に入ったあとに店に入るのは良くないと思いまっすぐ教会に帰ることにする。クエストの報酬は3日分まとめてもらうことにしていたので、下水道の入り口からそのまま帰る。夕食の準備にはまだ早いので帰ってからお風呂に入り、手芸をするのもいいかもしれない。
「明日は掃除かあ・・・・。スライムは退治したけど、どうなることやらなあ」
今日よりは平穏無事に終わってほしいとアビゲイルは思った。




