下水道掃除
下水道クエスト2日目、本日は掃除がメインのクエストになる。アビゲイルがキルドに着いたときにはこのクエストに掃除人として参加する予備冒険者のじじばば達がほとんど集合していた。
「おはようアビー」
「おはよう~。もうほとんど揃ってるみたいだね」
「ああ、じじばばは朝が早いからな。あとは・・・・っと今日は来たな」
ディクソンの目線を追うとロイドがギルドに入ってきたところだった。
「ロイドおはよ。今日はえらいじゃん」
眠そうにはしてるが約束通り早くやってきたロイドをアビゲイルは褒めた。
「おっす、まあやれば出来るんだよ俺は」
そう言いながら大きなあくびをする。しかしそのあくびはディクソンに頭を後ろからこづかれて止められた。
「いって」
「寝言は寝て言え」
しばらくして参加者全員が揃ったので、村長からの簡単な挨拶のあとにぞろぞろと下水道に向かった。人数は冒険者ギルドから3人、ほかは村長と役場の人を含めて21人。ほとんどが男性である。力仕事で地下作業になるので男性を優先させて採用するらしい。
「アビーちゃんわしと一緒に掃除しよ? 暗闇は怖いじゃろ? わしがスライムから守ってやるぞ~」
「お前は腰を痛めたばかりじゃろうが。頼りにならんわ、わしと行こ?」
昨日アビゲイルの匂いを嗅ごうとして袋叩きにあっていたじじいたちがナンパ(?)してくる。スライムは昨日退治したばかりだからほとんどいない。今はスライムより暗闇のじじいの手のほうが危険だ。
「もうグループが決まってるから無理ですよ。掃除係は3人一組。冒険者は巡回してスライムと危険の監視。決まりは破れません」
「つれないのう~」
「お願いだからちゃんと掃除してくださいね・・・・・」
下水道に到着すると村長達が手際よくグループ分けして用意した松明に火をつけて手渡していく。一つのグループに1本。だが予備冒険者の数人は用心してか自分たちでランプも用意していた。何度もこのクエストに参加しているのだろう。
「よーし、じゃあ俺とアビゲイルで通路を確認していくから、順に通路に入って掃除してくれ。スライムは刺激するなよ! あと何かあったり怪しいものが見つかったらすぐに俺たちを呼んでくれ。行くぞー」
入ってすぐに探索魔法をかける、スライムが通路ごとにボヨンボヨンと移動しているが昨日のような塊やビッグスライムは見当たらない。
「昨日あれだけ片付けたからな、まあだいじょうぶだとは思うが油断するなよ」
「うん」
すべての通路を確認して掃除人も配置が終わり、各々でデッキブラシでゴシゴシと壁や床をこすっていく。水は水路の水を使ってこすってはブラシを水路でゆすぎ、またこすると繰り返す。
「石鹸とか使わないんですね」
掃除をしている予備冒険者に聞くとスライムが石鹸嫌いで下水道から逃げ出すので使えないのだという。理由はわからないそうだが、体が溶けるんじゃないかと言っていた。
「だから汚れがひどいとこするのが大変なんじゃよ、こびりついちまってなあ」
スライムが食べてくれるからといっても下水道はやはり汚れてしまう。スライムは気まぐれで下水道を移動しているのでしばらく汚れが溜まって固まってしまった場合はあまり食べてくれないのだそうだ。じじいはかなり強くゴシゴシとこすっているがなかなか落ちない。床はまだ力を込めてこすれるが、壁や天井近くだとブラシが届かなかったりして結構大変だ。
「あー、きついな。年々きつくなるわい」
高圧洗浄機でもあればあっという間に落とせるだろうにとアビゲイルは思った。
「ん・・・・高圧洗浄機? ちょっと皆さん離れてくれます?」
アビゲイルは指先から熱湯を出して意識を集中させて高圧にさせてから床のこびりついた汚れに熱湯を叩きつけた。
「うおおおお! あちあちあち!」
角度が悪くて熱湯が跳ねてしまい周囲のじじいにかかってしまった。
「ああああ、ごめんなさい!」
すぐに止めて今度はゆっくりと圧を上げていく、熱湯をかける角度に注意しながら汚れにかけていく。
「お湯が跳ねないようにこすってくれます?」
「おお」
言われてブラシでこするとあっという間に汚れが落ちた。きれいになった床を見てじじい達が感嘆の声をあげる。
「おおおお~」
「これはいいぞ! アビーちゃんあの天井の汚れもそれでやってくれい」
「はいはい」
汚れを落とすたびにじじい達が感嘆するので、気になったのかディクソンがやってきた。
「さっきからおーおーどうしたんだ? 腰でも痛めたか?」
「いやいや、アビーちゃんの魔法がな、汚れによく効くんじゃ。見てみい」
アビゲイルがまた床に熱湯をかけてそこをゴシゴシとこすり、汚れを落とす。
「おお~、いいじゃないか。にしてもお前の魔法はホントに・・・・・」
ディクソンは魔法をもっと冒険に使って欲しいのだろう、掃除に使っているのを見て呆れている。
「ぱっと思いついただけで掃除に使うために鍛えたわけじゃないからね?」
一応フォローはしたが、ディクソンの顔を見るとあまり効果は無かったようだ。
「まあいいんじゃないか? 掃除が早く終わることにこしたことはないからな。スライムにかからないように気をつけろよ」
「はあい」
「アビーちゃんっ。次はこっちの汚れを頼むわい!」
今度は他の通路の掃除係が現れてアビゲイルの高圧洗浄魔法を見て感嘆する。
「こっちの通路でも落ちない汚れがあるんじゃ、頼めないかのう」
「いいですよ、そっち行きます」
「あっずるいぞ! こっちも頼みたい! アビーちゃんこっちも頼む」
「順番に行きますから待っててくれます?」
アビゲイルの魔法がすぐに掃除係たちに広まって、あちこちの通路から声がかかった。便利なものがあれば利用したくなるのは仕方のないことだ。それにアビゲイルも自分の魔法がかなり役に立っていることが嬉しかった。
「これだけ使うと魔法の訓練にもなるし、汚れも落ちて喜ばれるからいいことだよね」
冒険者の仕事、通路の巡回と警戒はできなかったがそれはディクソンとロイドがフォローしてくれていた。今日のクエストは掃除がメインなのでそれが早く終わるのが一番いいのだ。
「アビーちゃん、またすまんがこっちも頼めるかね?」
「はいはい」
松明を掲げて通路を小走りに移動する、洗浄してまた声がかけられたところに移動する。そんなことを1時間ほど続けているとアビゲイルは少しずつだが頭が痛くなってきた。
(なんだろ? 地下を移動しすぎて酸欠なのかな?)
高圧洗浄の勢いは弱まってないし、熱湯もきちんと出ている。だが魔法を使うたびになんだか頭痛がひどくなっているような気もする。下水道を走り回っているアビゲイルを見てディクソンが少し心配げに声をかけてきた。
「おい、アビーだいじょうぶか? さっきからえらい呼ばれまくってるが、あまりじじい達を甘やかすなよ」
「うん、だいじょうぶ。頭痛いくらいで」
「頭が痛い? アビー、もうその魔法は今日は使うのをやめとけ」
「なんで?」
理由を聞こうとしたとき、また他の通路から声がかかった。
「あ、ごめんあとで教えて」
「こら待て!」
呼ばれた通路について指先から熱湯を出そうとしたのだが、アビゲイルの指先からは勢いの弱い水しか出てこなかった。
「あれ? どうしたのかな?」
気合を入れ直して指先に意識を集中し熱湯を出す、その瞬間。
「う、わ」
強烈なめまいと吐き気が急に襲ってきた。ふらついて倒れそうになるのを必死にこらえて壁にもたれてしゃがみ込む。
「ん? どうした? だいじょうぶか?」
心配そうにアビゲイルに手を貸そうとじじいから手を差し伸べられたが、その手が何本も並んでいるようにぼやけて見える。
「んん・・・なんだこれ」
めまいと頭痛がどんどん強くなっていく。そして最後、強く後頭部を殴られたような衝撃を受けてアビーの眼の前は真っ暗になった。
「アビゲイル!」
最後に聞こえたのはディクソンの呼ぶ声だった。




