理不尽、国王を泣かす
エミリーは森林地帯から帰還し、王城にいた
「ようリズ。
で、どうだった?」
「あそこの森はすべて片付けた。
もちろん蜂には傷一つ付けていない。
……ただ死体の山があるだけだ。」
ボソッと呟いた
一応報告した。
だからわたしは知らない。
わたしはちゃんと言ったからな?
聞いてない方が悪い。
「ん?なんか言ったか?」
「え?いや何でもない。」
こいつまぁまぁ耳がいいな。
以後気をつけねば。
「魔王の案件はどうだった?」
先程までの弛緩した雰囲気は既にない
あたりには重苦しい雰囲気が流れていた
……ただ一人を除いて
「ん?あぁあれか。
魔獣たちに“獣の刻印”がなかった。
つまり関係ないということだな。」
「刻印っていうとあれか?
確か魔王の眷属になった時に刻まれるとかなんとか……。」
うろ覚えの内容を話す
「大方そういう事だ。
詳しくいうと眷属になった瞬間、
つまり魔王の系譜に連なった時にその証として刻まれるものだ。
いわゆる所属紋章みたいなもんだな。」
「相変わらずの博識だな、【アカツメクサ】殿?」
片目を瞑っておどけてみる
「わたしだからな、当たり前だ。
それとムカついたからぶっ殺していいか?」
心底こいつウゼーと目で語っている
「お前……俺国王だぞ?」
冷や汗をかきつつ言う
「だからどうしたんだ?
わたしが今ここで赤い染みにしてもいいだろ?
何せ国王より偉いからな。」
本心からそう言っているのがよく分かる
事実、彼女は小国の王よりも偉い
「いやよくないだろ。
って言うか今そんな事どうだっていいだろ。
ちゃんと報告しようぜ?なぁ。」
背中に冷や汗をかきつつ自身の生命から話を変える
「あ?あぁそうだな。
それでだが、——————。」
一瞬温度が下がりかけたが、持ち直して詳細を告げる
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「これで以上だ。
さぁもういいだろ?
さっさとブランシュに会わせろ今すぐ早急にブランシュ・ノワールにさぁは・や・く!」
もう待てない、そう全身で表しているかの様にその体を悶えさせる
だが、
「残念なお知らせです、あなたは未だに依頼を達成できておりません。
なので会えませーーんっ!!」
王自らが勝利宣言の様に、未だ凍りついている彼女へと見せつける
凍りついている彼女の様子がさぞ面白いのだろう
右腕を突き上げてさえいた
「ならアレをpーしてアレらをpーpーしてそれからpーpーしてぶっ殺してやろうか?」
放送出来ないその言葉を聞いてしまったライナーは股間をヒュンッとさせてしまう
彼女の薄暗い笑みにはただ一つの文字が浮かんでいた
『滅殺』
やばいやばいやばいこれダメなやつだどこかに障害物はと言うか隠れる場所避難できるところどこかないか何処か何処か何処か何処か何処か何処か何処か何処か何処か何処か……
必死になって生き延びようと周囲を探す
その彼に、
コツリ
コツリ
コツリ
コツリ
コツリ………。
ガシッ……。
前が見えねぇ、なんだこの握力ヤバいんだけど頭蓋骨折れる砕ける粉砕あーたーまーがー……。
……。
………。
…………。
あれ?痛くないひゅっ。
辛うじて漏れる隙間から見えた
眼を赤黒く染めて幽鬼の様にこちらを見ているエミリーが……
あ、死んだ
「はいリズ、ブランシュのお菓子だよ〜。」
「欲しいっ、くれっ!」
にぱっと顔をほころばせるエミリー
「それじゃあその手に持っているモノを置いてね?」
「わかった〜。」
と言って、
べちん
床へと叩きつけた
「リズはいい子だね〜。
いい子にはご褒美あげなくちゃあっ。
もう一個あげるね?」
そう言ってシオン微笑む
「子供扱いするなっ!」
むくれるエミリー
「じゃあいらない?」
と微笑みかけると、
「いる〜!」
そう言って両手にビスケットを抱えたまま、ぽりぽりかじる
主人のピンチに駆けつけたのはシオン
間一髪でシオンは、床でのびている主人に対して、
ゲシゲシ
足で小突いた
起きた“現国王”ライナーは、
自らを見下ろす配下と、死の覚悟をさせた相手がビスケットをかじっている姿を見て、
ちょっぴり涙してしまった




