小話③ 「猫の集会 犬に首輪は必要か」
今日は満月。猫の集会には最高の晩だった。
それぞれの猫は、真ん丸なお月様に猫缶を想った。
そしてミミィだけが、ドーナツを想った。
埋め戻された空き地。
その真ん中には議長カラバと、首輪が置いてあった。
『皆さま、今日はとても良いお月様ですね。議長のカラバです。今回の議題はこれです。【犬に首輪は必要なのか】についてです』
「「にゃー!」」」
『はい、ノラの皆さん。「必要に決まっているじゃないか。ノラワンコの脅威を忘れたか」ですね。モンスター・ノラワンコは恐ろしい存在ですね。ですが、本日は飼い犬も含めて広くご意見ください』
「にゃ」
『はい、リンクスさん。「ネロのところのケルベロスだよ。あいつはとても賢いし、うちに肉を売ってくれるから、あの仰々しい首輪は要らないと思うよ」ですね。後半はともかく、賢い犬ならいらないという意見はいいですね』
『はい』
『おや、ラブリーさん。珍しく意見ですか。どうぞ』
『首輪どころじゃない。犬は消えればいい』
『……随分と物騒ですね。どうされたんですか?』
『うちの小さな坊ちゃんが、「ニャーニャー」よりも「ワンワン」を先に言葉として覚えたからだ』
「「「………」」」
『そうですか。では次』
『おい、聞け!』
「うなー」
『はい、ドラさん。「そもそも犬は猫と違って体が大きく、本気になれば人なんぞ簡単に噛み殺せるのだ。ゆえに首輪は【自分は安全です】という証。いわゆる命綱なのだから、皆つけるべきであろう」と。……どうしたのですか? 今日は随分と真面目なご意見ですね』
『妾がここにおるからだな』
『ああ、なるほど。そういえばドラさんは今、バステトさんに吊るされていますね。また何かやらかしたのですね』
「みゃ……」
『おや、ミミィさん。「そうしたら、力のある猫や大きな猫は首輪をつけなきゃいけないの? 僕そんなむずむずするものは嫌だよ」ですか。まあ、この国ではいまのところ私やチサ姫がいますからね。問題として取り上げないそうです』
『猫に鈴をつけたいネズミはいっぱいいるがな』
「にゃ」
『はい、リンクスさん。「ボクはレムの猫だよって証にたまに財布を下げているよ。あまり深く考えずに犬も猫もおしゃれをすればいいんだよ」ですか。進歩的な考え方ですね』
「み!」
『ミミィさん。「それなら僕もチサに手作りの首輪を作ってもらう!」ですか。なるほど、そういうのもいいですね。でも木にはひっかけないでくださいね。一瞬で首つり猫になりますから。そこのドラさんが良い見本です』
家猫がふむふむと頷き、ノラネコが飽きて月の猫缶を妄想し始めた頃。
山猫リンクスが疑問を呈した。
「にゃ?」
『はい、リンクスさん。「ところでそもそもなんで犬の首輪の話が上がったの?」ですか? その首輪をミミィさんが持ってきたからですよ』
「みゃー」
『はあ? ミミィ、なんだそれは。あの男がサマランチに借り物入れの保管庫を返したら、首輪が一個だけ残ってたって?』
「みゃ」
『「いつかのために机の中に大事にしまっていたけど、もう必要ないからミミィにあげるよって言われた」ですと? おや、バステトさん。先ほどから首輪を見分されていますがどうされました?』
『この首輪は犬用じゃない。人間用だ』
「「「………」」」
「み?」
『あ、ミミィさん。その穢れのない瞳で「なんでみんな黙っているの?」と聞かないでください。私には解説なんてとてもできません』
満月の晩は、食欲の日。
謎の首輪は広場の真ん中に埋めてしまい、ミミィがお土産に持ってきた手作りドーナツと猫用まんまるクッキーをみんなで大いに食べた。
また次の集会も会えるといいね。
でも猫は気ままだから、約束だけはしないでおこう。
猫の集会は続いていく。




