表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
制服連合  作者: ぺーた
3/14


 山岸咲輝には、人には言えない過去があった。

 誰にもバレてない、まだ、まだ大丈夫。

 2年以上そう思い続けてきた。

 一日も不安は消えることがなかった。

 毎日、こうやって布団のなかで怯えている。


 父が、母を殺した。

 それは、まだ私が小学校の低学年だったころのことだ。

「ただいまー!」

 金曜日、週末の始まりは、いつもテンションが高かった。まだ日も高い、ムシムシした午後だった。

「あれ?お母さん?」

 いつもなら笑顔で出迎えてくれた、しかし、その日は人の気配すらしなかった。

 中に入っても、誰もいない。家中を走り回って探しても、見つからなかった。

 怖くなって、お父さんに電話をした。何度も、何度も試したけれど、「現在電波が…」というアナウンスが流れるだけだった。

 あの日以来、あのアナウンスが聞こえる前に電話を切ることにしている。

 いつの間にか、外は暗くなっていた。テレビをつけて、怖さをごまかそうとした。

 金曜日は大好きなアニメがあったのに、全然楽しくなかった。いつの間にかお腹が空いていた。

 お母さんが知ったら怒ることを承知で、お菓子を沢山食べた。帰ってきてくれるのならば、怒られてもいいと思った。

 テレビは、ずっと続いていた。いつもなら寝ていて見られないような番組も、あの日は見ることができた。

 そういえば、あの日が初めての夜更かしだったかもしれない。

 ソファーでゆっくりと眠りについた。


 次に気づいたころには、あまり見覚えのない部屋に居た。いや、知らないわけではない。何回か来たことのある、父方の祖母の家だった。が、それを認識するのには時間がかかった。

 私が起きたのを知ると、すぐに朝ご飯を出してくれた。祖母のご飯はいつだって美味しい。特段腹ぺこだった私は、とにかく食べた。

その間祖母は、何度も何度も電話をかけていた。

 早くに祖父がなくなり、彼女は長い間一人で、暮らしていた。そのためもあって、彼女は活発な人だった。しかし、あの時だけは悲しそうな声を漏らしていたのを覚えている。

 「お母さんとお父さんは?」

 私がそう聞くと、何も言わずに悲しい顔をした。それからいくら聞いても、彼女は何も言わなかった。ただ、優しく私にの頭をなでた。


 月曜日になってから、なんとなく何があったかわかった。学校へ行かなくていいのかと心配していると、パトカーが家にやってきた。

 学校に行かないから、怒りに来たのかと怯えていたが、彼らは私を見て祖母と同じ、あの悲しい目をするだけだった。

 私は祖母に連れられ、人生で初めてパトカーに乗った。


 パトカーの中で、祖母がゆっくりと話し始めた。

「咲輝、あなたのお母さんとお父さんはね、遠いところに行っちゃったんだ。もう、多分会えないだろう。これからは、おばあちゃんと一緒に暮らすんだよ。」

 それからの記憶はあまりない。ただただ泣きじゃくっていたのだろう。泣きつかれて寝ていたのか、パトカーがどこへ向かっていたのかも知らない。目が覚めたら、枕元に祖母の家の布団の中だった。

 私が起きたのに気づくと、彼女は微笑んで、「お腹減った?」と聞いた。私が頷くと、彼女はスッと立ち、台所のほうに歩いていった。

彼女の背筋が前よりも伸びている気がした。

 

 学校は、転校することになった。馴染みのある学校を離れるのは悲しかった。お別れ会をしてくれたのを覚えている。先生が最後に泣き出したので、みんなびっくりした。彼女だけが私の両親のことを知っていたのだろう、「これから大変だろうけど、困ったら先生のところに電話して」とケータイの電話番号を教えてくれた。


 一番辛かったのは、この後だった。

 小学生のコミュニティは狭い。よそ者は嫌われる確率のほうが高い。さらに、どこからか私の両親のことがバレたらしい。

「人殺し」それが私につけられたあだ名だった。

 詳しく何が起こったのか知らなかった私は、このときにお父さんの犯した罪を知った。

 そんなことを気にする暇もなく、私は学校に馴染むのに必死だった。どれだけ暴言を吐かれようとも、笑顔を崩さなかった。しかしそれは逆効果で、いじめは長い間続いた。


 2学期も中盤に差し掛かった頃、私の心は限界だった。

 ある日の放課後、クラスには誰もおらず、私は声を殺して泣いていた。

「もう、こんな学校やめたい」幼稚園からの友だち、優しい先生、すべてが恋しかった。

「ねぇ、じゃあ、やめたら?」

 低い身長、女の子みたいな高い声、困ったようにハの字に歪んだ眉、背中に回っている両手、今でもハッキリ思い出せる。


「怜治君…」 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ