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『ダンジョン物語』  作者: nankul naisa
第一章
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20/20

第12話 チャンス到来!

ハイサイ!nankul naisaです。

読んでいただきありがとうございます。



 連絡を受けて、女性は約束通り「ビリヤードQ」に現れた。


「一週間で呼び出すのは、威勢がいいね」


「今の実力を試したくてうずうずしてる」


「ふぅん、まあいいけどね」


 挑戦的な笑みを浮かべ、女性は使い込まれたキューを組み立てる。


「じゃ、軽くアップしてからやろうか」


 ◇◆◇


 一戦目。


 影真は構えながら、この一週間で染み込ませた感覚を丁寧になぞった。手玉を撞く。的球が軌道通りにポケットへ吸い込まれる。


「……いいね」


 女性の口角が、わずかに上がった。


「これぐらいは、できるよ」


「一週間でここまでは大したもんだよ」


 だが結果は変わらず女性の勝ちだった。以前とは中身が違う。落とせる球の数が、確実に増えた。


 ◇◆◇


 二戦目。


 的球を見ながら、影真は次のポジションまで意識を伸ばそうとした。トップスピン、バックスピン。頭で組み立ててみる。手玉が思い通りに動くと、ビリヤードが一段と楽しい。


「やっぱり、筋がいいね」


「あんたを見ていて学んだ」


「そうかい、それは嬉しいね」


 軽口はまだ続いていた。だが、女性の視線が的球へ向く時間が、少しずつ長くなっている気がした。


 ◇◆◇


 三戦目、四戦目。


 球を読む沈黙が増えていく。影真も、次第に口を開く余裕がなくなっていった。狙いを外さないことだけに、意識が絞られていく。


 五戦目。


 影真が初めて少し競りあえた。


「……いい感じだな」


「集中力が、凄いね」


 そう呟きながら、女性の目つきが変わっていく。


 ◇◆◇


 六戦目、七戦目。


 もう軽口を叩く余裕は、どちらにもなかった。キューの先端がフェルトを擦る音、球が転がる音、ポケットに落ちる硬い音。それだけが部屋を支配していた。


 影真は手玉の位置を見つめながら、ダンジョンでネコモンスターの動きを読んでいた時の感覚を思い出していた。似ている。呼吸を整え、余計な力を抜く。


 八戦目。僅差で競り負けた。悔しさより先に、手応えの方が強く残った。


 ◇◆◇


 九戦目。


 台の上に残るのは、9番だけだった。


 影真の番だった。


 角度は難しくない。だが簡単でもない。手のひらにじんわりと汗がにじむ。ダンジョンとは種類の違う緊張感だった。


 女性は腕を組み、最初と同じ挑戦的な笑みでこちらを見ている。


 沈黙の中、影真はキューを構えた。


 狙いを定める。9番までの軌道。ポケットの角度。力加減。何百回と繰り返した感覚を、指先に集める。


 ――撞いた。


 9番が真っ直ぐ転がり、静かにポケットへ落ちる。


「――入った」


 勝った。そう思った瞬間、意識の糸がふっと緩んだ。


 手玉はまだ転がっていた。狙った位置で止まるはずだったそれは、勢い余って対角線のコーナーポケットに吸い込まれていった。


ネコモンスターを倒した時に流れる人を馬鹿にしたようメルヘンな音が聞こえた気がした。


「……あ」


 ゴロン、と重い音が響く。


 手玉が、コーナーポケットの奥に落ちていた。


 部屋に沈黙が広がる。


「……スクラッチだね」


 女性が苦笑いで告げた。ルール上、これは反則負けになる。


 影真はしばらく台を見つめたまま、呆然とした。


「……マジか」


 思わず声が漏れる。


 女性は目を丸くしてから、ふっと笑みを漏らした。


「まあ、よくある事さ」


「あんたでもあるのか?」


「うん。あたしも最初の頃はよくやったよ」


 その一言に、影真は少しだけ救われた気がした。


 ◇◆◇


 十戦目。


 だが、九戦目で使い切った集中力は戻ってこなかった。


 狙いが甘くなり、手玉はあらぬ方向へ転がる。的球を落としても次につながらない。緊張感が明らかに切れていた。


「……もう限界か」


「そんなもんだよ、九戦目であれだけ集中したらね」


 あっという間に決着がつき、十戦目は完敗に終わった。


 ◇◆◇


 試合を終え、二人はカウンターの椅子に並んで腰を下ろした。水を一口飲んで、影真はようやく肩の力を抜く。


 女性が柔らかい声で話す。


「今日は、かなり楽しめたよ」


「九戦目、あれさえなければ勝てたのに」


「まあ、それがビリヤードだからね」


 軽く笑い合ってから、少し間が空いた。


「そういえば」と女性が言った。「あんた、探索者?」


「ああ。まだ駆け出しだが」


「あたしもたまに潜るよ」


「そうなのか」


「結構強いよ、これでも」


 自信ありげな口ぶりだった。冗談とも本気ともつかない。だが、嘘をついているようにも見えなかった。


「俺はまだ一層で四苦八苦してる」


「へえ。じゃあ、二層に行けるようになったら一緒に潜ってみる?」


 思いがけない誘いだった。


「……いいのか」


「別にいいよ。ちょっとは教えてあげるよ」


 少し得意げな笑みが浮かんでいた。


「……その時は頼む」


「ああ、よろしく」


 軽く握手を交わし、次の約束が生まれた。


 施設を出て、夕暮れの空を見上げる。ビリヤードでは負け続きだった。だが、学びは確かにあった。


「……いつかは、必ず勝つ」


 影真は小さく呟き、家路につく。



最後までお付き合いありがとうございました。

ゆる~く更新出来たらと思ってます。

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