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24もふ 偉ーいお歴々の皆様

「今日は僕にどんな御用ですか? 腹黒宰相さん」


とても穏やかとは言えないような毎日を過ごすある日、僕は国立魔導図書館の館長室に呼ばれていた。


「せめて名前で呼べ。私はシュルード・スキミングだ」

「もちろん知ってるけどさ。スキミング公爵様は僕に何か?」


「生意気な口ばかりききおって。何かも何もドミヌラ・ティメント侯爵令嬢との婚約を断ったそうだな。あれほど断るなと言ったろうに!」


「そんな命令聞くわけないでしょ。大体、顔を合わしたのは次期当主のトラヴェス・ティメント様だったし。この国は同性婚を認めていないし」


「それなら心配するな。法改正の準備を進めている。心置きなく婚約するといい」

「まさかそのために法改正を?」

「その通りだ! (ほんとは違うがな)」


この腹黒宰相は何を考えてるんだ? ほんとにそれだけってことはないだろうけど。なんでそんなに僕を結婚させたいんだ?


「……陛下がジュリのところに足繁く通ってるそうだな? 陛下は毎回何をしにきている?」


突然の質問にアンジュとのいけないことが頭の中に駆け巡る。赤くなっちゃいけない! 平静に! 冷静に! ルテさんから教わった鉄の忍耐力を思いだせ! 熱い紅茶に耐えろ! 腹筋のイメージ! 一、二、三、四、五、六!


「何も? いつも通り王陛下がお喜びになる恋愛ものの小説をご案内差し上げてるだけですよ?」


にっこりと僕にできる極上スマイルを腹黒宰相に送った。引きつってはいないことを願う。


「どうだかな(白々しいことを言いおって。とっくに調べはついとるわ! とっととジュリを結婚させてあきらめさせねば! 早く世継ぎを儲けてもらわねばならんのだ!)」


「それで? 今日は大臣様お歴々が集まってどうしたんですか? 国立魔導図書館に本を探しにきたわけではないですよね?」


腹黒宰相の他、外務省大臣、魔導省大臣、軍務省大臣、クションシュカ館長、ダァ・シンシンさんがソファに腰を下ろしている。


「まずは先日申請してくれた魔導技術の発見に感謝を申し上げる。まさか空を飛ぶ乗り物とは驚いた。実現すれば世界が大きく変わるだろう。さすがはジュリくんだね」


魔導省大臣が心の底から微笑んでるような表情を僕に向ける。腹の中は腹黒宰相と同じくらいの狸さんだけど穏やかで温厚な人だ。実際、狸の獣人だし。


「トロコス様のお褒めに預かり恐縮です。僕は今回、発見と解読をしただけですからね。人数も費用もかかる大規模な開発には魔導省の皆さんの活躍にかかってますよ」


なんて言ったけど。

実は肝心の中核技術についてを含めていない。軍務省が興味を持つような案件だから。それこそ世界が大きく変わってしまうかもしれないからね。地球みたいな科学技術は少なく魔導技術に頼っているから開発はどこかで必ず頓挫する。中途半端とも言える情報を提供したのは僕が穏やかな司書生活を送るためだ。……最近まったく送れてないけど。アンジュのせいで。腹立つ。


「謙遜することはない。たった二、三年のうちだと言うのにジュリの様々な功績によりベスティアは間違いなく発展している。あと数年もすれば各国を牽引するほどの技術大国となる事を期待している。それに先日、王陛下より教わった多国籍料理を振る舞うレストランを紹介してくれたのはジュリだとか。こちらも感謝している」


威厳と格式高そうな佇まいで僕を褒めてくれたのは外務省大臣。獅子の獣人でたてがみのようなふさふさの髪が立派だ。料理長も同じ獅子の獣人だったし気が合いそう。


「それはよかったです。他国との交渉はレーベ様にお任せすればおのずと結果は見えるでしょう」


おべっかを使ったわけじゃなくて、この人の外交手腕はとても優れているらしく特に食の外交で成果を上げているらしい。アミックのところの料理長も呼ばれることがありそう。


「軍務省としても大いに期待しているよ? ところでジュリくん。他にも優れた技術がベスティアの美しい山々のようにあるんじゃないかな? そしたら厳しい冬で苦しむ民の暮らしがもっと向上するんだけどね」


切れ長の目に高い鼻。軍服を身につけている。にっこりといつも微笑んでいる狐の獣人が冗談混じりに聞いてくる。この人とも食事を一緒にすることがあって、厳しい冬に支配されたベスティアの未来を憂う発言を聞くことがある。


「山ってどんだけですか。発見次第お知らせしてますよ。レーヴ様」


にっこり微笑む。嘘だけど。危険な魔法もそうだし、先日見つけた人造人形の製法の解読はまだだけど、やっぱりこれも教えるのは危なそう。

各大臣とも姓ではなく名で読んで欲しいと言われているからそうしている。皆さん、僕のことをとても優遇してくれているんだ。


「それにしても最初は僕のことをいっぱいとってもすっごいめちゃくちゃ嫌っていたのにすっかり仲良しですね? ね。クションシュカ館長? 腹黒宰相?」

「あんまりいじめないでおくれ。あの時はすまなかったな」


クションシュカ館長を始め、僕の言葉を聞いた皆さんがそれぞれの性格を表した表情や仕草で申し訳なさそうにしている。腹黒宰相でさえそうだ。


「別に気にしてないですよ? 僕は禍々しい魔力紋を持つ黒忌み子ですからね?」


幼い頃にボトールさんから聞いていた通り、高貴な貴族の皆さんは突如として現れた僕のことをそれはもう憎々しげに睨んで毛嫌いしていたんだよね。


「容姿を忌み嫌う慣習や伝承を鵜呑みにして人となりを判断して本当に申し訳なかった」

「いいんです。生まれた時から慣れてますから。それにいざとなったらどこか他所の国にでも引っ越しますから」

「それは困る!」


言った途端に皆さんから口々に反対の声が上がった。はい。どこにも行かないですよー。下手にそんなことしたら閉じ込められかねないし。その気になれば僕の自由を奪って命令すればいいんだ。でもこのくらいの脅迫をしつつ仲良くしていれば僕の穏やかな司書生活は確約されるんだ。最近は……確約されてないけど。アンジュのせいで。腹立つ。


「あはは。大丈夫ですよ。僕は皆さんもこの国も本当に大好きですから」


それは本心から言ってる。僕の技術と知識があってのこととは思うけど実際みんな優しいし。それに何よりレクスはやっぱりこの国にいると思うし他国になんかいけない。確信があるわけじゃないけど、そう信じてる。


「そう言ってもらえると嬉しいよ。王陛下がジュリと私たちを引き合わせていただいた事には真に感謝をしている」


王都に引っ越して間もなく。村の偏屈な男がしたためてくれた紹介状を持って、偏屈男の弟であるクションシュカ館長に就職を申し出たんだ。その時は信じてくれなくて会う事も紹介状を見てもらう事もなく門前払い並に追い返された。


その頃に僕とアンジュは街中で出会った。それからすぐに大親友になったわけだけど。アンジュの口利きで無事に国立魔導図書館に就職することができたんだ。

そう。国立図書館と魔導図書館は別だったのに、僕が就職するタイミングでアンジュがあっという間に一つにしてしまった。反発もあったそうだけど併合による複合化で利便性が高くなったのは間違いない。ある意味、働く司書さんたちは大変になったけど。おかげでどちらを選ぶことなく夢だった両方の司書になれたと言うわけだ。


「僕もアンジュには感謝してます。そして今こうして皆さんによくしてもらっている事もですよ」


にっこりと極上スマイルでおべっかを送る。皆さん、とても満足そうに緩んだお顔で微笑んでいらっしゃる。腹黒宰相を除いて。今日の僕はナチュラルメイクをしつつゴシックロリータ感のある貴族服でいる。僕だってね? この歳になればそこそこ分かってるんだ。自分の容姿が飛び抜けているということを。皆さんに僕の実力と黒を認められた状態なら僕の極上スマイルはとても効果があるということを。


今にして思うんだけどさ? レクスのお屋敷であったいじめのいくつかはいじめじゃなかったと思うんだ。村に雇われたメイドさんたちが僕のゴシックロリータ感のある服を引っ張りあってたり、曲がり角でぶつかって僕を見るなり悲鳴を上げて逃げられたのは僕の顔のせいじゃなかったのではないかと。思い過ごしかもしれないけど。

それはともかく。


「それで皆さん。そんな話をするために国立魔導図書館に足を運んだわけではないですよね?」


腹黒宰相に視線を合わせて聞いてみる。本題はきっとこれからだ。


「実はな。隣国ファールの第三王子が魔導書の解読に非常に興味を示している。技術交流も含めてここ国立魔導図書館に視察にくるそうだ。そこでジュリに案内役をしてもらいたい」


隣国ファールと言えばアンジュのお母さん、故王妃の故郷。

ええー? 僕は司書であって大使とか外交官じゃないよ。そんな面倒な仕事は他の人にして欲しい。そう思ってベテラン司書のダァ・シンシン伯爵に視線を送ったら即効そっぽを向かれた。くそう。普段は面倒見のいいゴリラなのに。人族だけど。


とりあえずここまで、ルテさんから心も体も厳しくいじめ抜かれ……教わった鉄の忍耐力は成果を上げていると思う。まだまだ話が終わらなさそうだ。どうあれ僕みたいな庶民上がりのなんちゃって男爵が一国の政治を担う偉ーい人たちと話すのは疲れるよ。


明日の休日はゆっくり寝ていたいなあ。と、思ったけどアミックと出かける約束があったんだ。

正直、寝てたい。

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