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21もふ ロリータ感のある装い

「ええっとー。あなたがティメント侯爵令嬢?」


今日の僕はいつものゆるコーデでもなければ司書ローブでもない。男爵としての装いでいる。なんでロリータ感のあるデザインなのかが解せない。たまにはもっと男らしいものでも良くない?

先日、腹黒宰相の付き添いで王都のブティックに連行されて何度も着せ替えさせられた。眼鏡をクイッと光らせて、なんであんなに楽しそうだったんだろう。笑い方がちょっと怖くて背筋が寒かった。


腹黒宰相の強引な命令で進んだ縁談話。とうとうお見合いの席についている。一代限りの男爵である僕は領地も屋敷も持たない。政治的権力も発言権も男爵としてはないに等しい。男爵としてはね。


だから今回のお見合いの場所は侯爵であるセフェル・クションシュカ館長が所有する王都にある別邸の一室を利用することになった。僕を養子にすることをあきらめていないクションシュカ館長は別室に待機している。


「はい。ティメント侯爵家の長女ドミヌラ・ティメントと申します。この度はジュリアン・タイラー様にお会いできて光栄ですわ」


目の前にいる令嬢と名乗る女性の声が低くて太い。


「ええっとー。本当の名前は?」

「いやですわ。ドミヌラとお呼びくださいませ」


膝に置いていた扇を開いて慌てて口元を隠し微笑んでいる。

いやいや。遅いって。遅いもへったくれもないけど。目の前にいるイケメンはどう見ても男性だからね。化粧こそきっちり女性らしさを醸し出してるのは、後ろに控える執事さんかメイドさんの腕がいいんだろう。

のど仏はネックラインの高いフリルで隠れてるけど肩幅ごついし、手も骨ばってるし。流行りの清楚なドレスを着ているけれどパツパツしてサイズ感おかしいし。どう考えても事前に準備をしてなさそうに思える。まるで今日の今日、突然対処したような。


「ちゃんと白状しないとすぐに帰るよ?」


にっこり微笑んでみる。こんなおかしな状況にまともな貴族だったら激昂して席を立ってもおかしくない。ある意味なめられてるのかな。クションシュカ侯爵家の養子になるという話は承知しているだろうけど僕は一代限りの男爵だしね。元々まったく興味のない縁談話。笑顔で茶番に付き合う僕って偉いと思う。


「やっぱりダメかー。俺はトラヴェス・ティメント。ティメント侯爵家の長男で次期当主だ」


あっさり白状した。長い巻き髪のウィッグを外して流行りの清楚なドレスを脱ぎ捨ててる。ほぼ下着同然の格好になってる。さすがにコルセットはしていなかった。ウィッグとドレスはメイドさんが回収してる。落ち着いているあたりこうなることは一応予想してたんだね? ていうか当たり前だからね?


「化粧にドレスに女って大変だな。あいつ、毎日こんな格好してんのか」

「妹って言うのはドミヌラさんのこと? 本当はこの場にくるはずだったんだよね?」


どういう事情かは知らないけど、腹黒宰相、シュルード・スキミング公爵の思惑は外れたということになるな。


「その前に。ジュリアン・タイラー殿。貴殿を謀ろうとしたこと次期当主として謝罪を申し上げる。その眼力恐れ入った」


いやいや。眼力て。それで謀れると思う方が無理あるでしょ。誰にもバレない女装ができる男性なんてほぼいないでしょ。綺麗に見えたとして、外見、仕草、声、話し方、どこかしらそこはかとなく香るってもんじゃない? 話がうっかり進んで結婚したとして初夜でバレるでしょ。


「妹さんの身代わりに次期当主様がなんで女装なんてしたのかな?」


大体予想はつくけど。僕は黒忌み子だしね。


「ご自身も承知のことと思うが貴殿は美しい。だがそれ以上に忌避されるその容姿。妹には思い人がいることもあって昨晩のうちに駆け落ちをしてしまった。まったく頭が痛い」


頭が痛いのは僕も同意だよ。やっぱり予想通りだった。そんなことを臆面もなく話すあたり裏表のない大雑把な性格と見た。だったら話が早いよね?


「美しいね。過大な評価を恐れ入ります。それじゃあ今回の縁談はなかったことでいいよね?」

「実はそれも困る。腹黒宰相もといスキミング様の意向は無視できないのだ。当家としては貴殿と婚姻を結ばなくてはならない」


「そうは言っても当のご令嬢がいないし無理じゃない?」


お見合いが始まるまではもしかしたら本当に婚姻を結ばないといけないと思ってたから安心した。気楽に紅茶も飲めるというものだ。


「そこでだ。この俺と婚姻を結んで欲しい」


口にした紅茶を吹きそうになった。心の中では思い切り吹いてた。ルテさんの指導のおかげだね。どんなことがあってもと、火傷しそうなくらいに熱い紅茶をかけられてまで冷静でいるように指導されたおかげだよ。鉄の忍耐力が身についてたよ。


「この国は同性婚は認められていないよ。それに僕にも思い人がいる」


一体この男は何を考えているんだ? なんにしても引き下がるわけにはいかない。


「もちろん同性婚が認められていないことは承知している。貴殿はご存知ないかな? 今、同性婚を法的に認めるために水面下で腹黒宰相が密かに根回ししていることを」

「ええ? それは初耳」


この国は同性婚を禁忌としているのにどういうこと?


「まあ元老院や保守派を説得するのは容易ではないだろうがな。だからと言うわけではないが、俺は貴殿に一目見て惚れた。あなたのその美しさに優るものはない。それに貴殿には色々と興味がある。俺はドミヌラとして生きていこう。その思い人を超える存在となってあなたに尽くそうではないか」


今度こそ口に含んだ紅茶を吹きかねなかったけど耐えた。ルテさんほんとに厳しい指導をありがとう。本物のご令嬢はどうするの?


「ものすごいこと言ってるね? ティメント様が僕をどう思っているかはともかく。もしかして魔導研究者としての僕に興味があるのかな?」


「有り体に言えばそうだ。話に聞くだけでも貴殿が魔導書の解読によって得た利益、成果は計り知れない。もちろんクションシュカ侯爵家に嫁ぐわけだが、その恩恵も当家としては期待している。たとえ次期当主である俺が身代わりになったとしてもだ」


「なるほど。打算あってのことだね」


……いや。もしかしたら腹黒宰相は僕の持つ技術や知識、特許権なんかを少しでも与しやすいティメント侯爵家に流出させようとしている? そんなこと僕自身が許すわけないって腹黒宰相も分かってるはずだけど。今回の縁談話は一体何が目的なんだ?


「だがそれは別の話。俺個人としては心を通わした存在としてあなたを愛し愛されたい」


うわあ。この人本気だ。真剣な眼差しが男らしい。ほぼ下着だけど。

裏表のない人と予想するだけに真剣な想いが伝わってくる。そんな話を許容しているとしたら現当主のティメント侯爵もだいぶぶっ飛んでいそうだ。黒忌み子の僕に対してほんとに一目惚れしたかは知らないけれど、つまりそれだけ僕に価値を見出しているということになる。


「えーと。ティメント様の気持ちはよく分かったよ。だけどこの縁談はお断り申し上げます。さっきも言った通り僕には思い人がいるんだ。その人以外生涯をかけて伴侶にするつもりはない。だからあきらめて欲しい」


堅い決意を込めた瞳で諭すような口調で話した。


「なるほど。それほどまでに思うお相手がいるというのもうらやましいことだ。焼けてしまうな。それではそのお相手に求婚すれば良いのでは?」


焼けるってやきもち? 本気で言ってるようには感じるけど。


「そうしたいんだけどね。彼女は行方不明になってもう何年も経つんだ。今でも探してはいるけど……」


節目がちにうつむく。レクスのことを想うと胸が痛くなる。そんな気持ちが表情に出てしまっていた。


「それは……辛いことを聞いてしまったな。もし良ければだが。俺にも思い人の捜索に協力をさせてもらおう。我が領地に布令を出す」

「ほんと! ……や。でもなんでそんなことを?」


突然の申し出に勢いよく顔を上げていた。軽はずみに喜んでしまった。ルテさんの指導をまったく忘れてしまっていた。

クションシュカ館長にダァ・シンシンさん、腹黒宰相。他に仲良くしてもらってるお偉いさん。それぞれの領地にもレクスの捜索を手配してもらっていたけど、いずれもなんの手がかりもなかった。

成長したレクスはそれは美しくなっているだろうから噂の一つでもあってもおかしくないはず。だけどどの地方でもそんな話はない。遠い外国にでも行っていたら探しようもないけど。もしかしたらもう生きていないのかもしれないと思ったことは何度もある。


「言ったろう? 一目惚れしたと。惚れた相手に力を尽くしたいと思うのは当然のことじゃないか?」


なんのてらいもなく聞かれてしまった。その気持ちは痛いほど良く分かる。


「うん。僕もそう思うよ。だけど僕は男だよ?」

「はは。俺も不思議だ。だが真実の愛に性別は関係あるまい?」


ティメント次期侯爵のさもあらんとばかりの言葉に僕の心臓が波打っていた。


「そう……かもね」


真実の愛。

最初にレクスの笑顔が浮かんで、アンジュとアミックのことを思い出していた。

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