死神 エピソード0 - 静かな影が揺れた瞬間 -
影の行き先を案内するだけだった死神が
ひとつの小さな影に出会い
初めて迷い
初めて寄り添った夜
その揺れが
今の死神を形づくった
1. 静かな呼び声
その夜、死神はいつものように、
ひとつの影が薄れていく気配を感じ取った。
呼ばれたわけではない。
ただ、影が静かに揺れたからだ。
死神は歩き出す。
風のように、音もなく。
しかし、その夜は違った。
影の揺れが、どこか不自然だった。
まるで、行き先を迷っているように。
死神は足を止めた。
影は、泣いているように震えていた。
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2. 小さな影
辿り着いたのは、小さな部屋だった。
眠るように横たわる幼い子ども。
その手を握りしめて泣く母親。
そして、枕元には生まれたばかりの光の精霊がいた。
まだ名前も役割も持たない、小さな光。
死神に気づいても、
ただ静かに首を傾げるだけだった。
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3. 死神の迷い
影は、子どもの枕元で揺れていた。
死神は影に手を伸ばそうとして、
ふと止まった。
「……あなたは、まだ行きたくないのですね」
影は、母親の涙に触れるように揺れた。
死神は初めて、
“影が自分に背を向ける”という光景を見た。
影を導くのは自分の役目。
けれど、影が“行きたくない”と揺れている。
それは、死神にとって初めてのことだった。
どうするべきなのか、
答えはどこにもなかった。
死神は影の精霊だった頃を思い出した。
泣く人のそばに立ち、
ただ寄り添っていた、あの静かな時間。
「……寄り添うことも、案内なのかもしれませんね」
死神は影の隣に立ち、
静かに見守ることを選んだ。
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4. 夜明け
夜が明ける頃、
子どもの呼吸が少しだけ強くなった。
母親は驚き、
子どもの手を握りしめた。
影はまだ薄い。
けれど、完全には消えていなかった。
死神は静かに立ち上がる。
「……あなたは、まだこちらにいたいのですね」
影は、ほんの少しだけ揺れた。
それは、
“ありがとう”のようにも見えた。
死神は影に背を向け、
静かにその場を離れた。
光の精霊は、影と子どもを見守りながら、
小さく微笑んでいた。
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5. その後
その子どもは、
数日後にゆっくりと目を覚ました。
母親は泣きながら抱きしめた。
影は、まだそばにあった。
死神は遠くからその家を見つめ、
静かに呟いた。
「……迷うことも、悪くはありませんね」
それ以来、
死神は一度も迷わなかった。
けれど、あの夜だけは――
影の精霊だった頃の“優しさ”が揺れた夜として、
静かに心に残り続けている。




